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真樹VS女子  作者: 東洋連合
Episode5 アイドル声優を潰せ
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第60話 大門の面談

こんにちわ!

12月最初の投稿です!

 大津悠が声優になったのは中学2年生の時だった。彼女は自分の容姿や歌、ダンスには自信があり、それを売りにして有名人になろうと考えていた。それだけならアイドルや歌手、モデルや女優など他にも選択肢はあったのだが、敢えてアイドル声優になったのには訳があった。当時、音楽番組でアイドル声優ユニットが歌を披露しているのを見て、彼女はこう思った。

「可愛くて声よくて、歌もダンスも上手い…か。私が求めるもの全部そろっているわ。」

 こうして彼女は大手声優事務所が主催する合同オーディションを受験して勝ち抜き、中学生ながら声優デビューすることとなった。ただ、彼女自身はアニメに興味がある訳ではない。むしろオーディションに受かるまでほとんど見たことが無かった位だ。それでもこの道を選んだ理由について中のいい友人に聞かれた時、彼女はこう答えていた。

「今のアイドルって人も多いし下積み長いじゃん?センター取るまで何年もかかったり。だけど、今声優デビューできればそれよりも簡単にステージに上がれて歌やダンスできるし。それに、他のアイドル声優見てて思ったのが、全体的に見た目も声もダンスもあのレベルなら、私がすぐに頂点に立てると思って!そして、売れて有名になったら紅白出て、ドラマや雑誌の仕事も入るようになって、みんなが私に注目してくれたら最高だなって考えてるわ!そのま手に近道しても罰は当たらないでしょ?」

 よく言えば自信満々、悪く言えば声優を舐めている…というより自身が有名になるための踏み台としか考えていない。アニメ作品に対する愛着も、声優という職業に対する誇りも伝わってこない悠だった。それでも彼女は自身のルックスと歌でアイドル声優としての人気を勝ち取り、アニメの仕事は勿論ラジオやライブなど多忙な日々を送っていた。しかし、そんな悠にトライスターズのメンバーを含めて地獄が待ち受けているとこの時誰が気付いたであろうか?


 所変わって、ここは都内にある喫茶店。時刻はすでに夜の7時を回っていたのだが、店内の奥の方の一角では不思議な面々が集まっていた。

「えーっと…あなたが稲毛智子さん…ですね。」

「はい。」

 座りながらそう言ったのは大門だ。そんな大門の向かいの席には少し緊張しているのか、顔を強張らせた智子が座っている。因みに、今いるのはこの二人ではなく、真樹、慶、秀太の他、智子のマネージャーである宮沢という女性が座っている。どうしてこのような面々が集まったのか…きっかけは数日前に遡る。


 それは日曜日の午後、トレーニングをしていた真樹と慶が成田山の石段で転倒した大門を助けた時だった。彼が自身が監督する新作アニメのヒロインの声優が見つからないと言ったことに対し、真樹は智子の名前を出した。

「実は僕の野球部の先輩のお姉さんが声優をやってましてね。今言った名前が正にその人なんです。」

「そうだったのか。いや、聞いたことない声優さんだな。」

 そう言う大門に対し、真樹は深々と頭を下げながら言った。

「大門さん。無茶を承知でお願いします。もしそのヒロイン枠がまだ空いているというなら、一度智子さんを見てもらえないでしょうか?」

「そ、そんなこと急に言われても…。」

 大門が戸惑うのは当然だ。実力主義者の大門にとって、今まで聞いたこともない実力未知数の智子の名前を出されてもどうすればいいか分からない。すっかり困り果てる大門だったが、真樹は尚も続ける。

「一度お会いしたことがあるのですが、地声も落ち着いた大人の女性って感じで素敵ですし、担当していたというキャラクターも普段と全然違う…とにかく演技の幅は広くて実力は確かなんです。だからお願いします!この通りです!」

 真樹は更に頭を深々と下げて、大門に智子を見てもらうように懇願した。困惑した大門だったが、真樹の熱意に折れ、数日後の夜に会うという約束をし、成田山を後にした。その帰り道、慶が真樹に質問する。

「ねえ、真樹。」

「どうした、オニィ?」

「いや、あまりにも熱心に智子さんの事をお願いしてたからどうしてかなって思って。」

「まぁ、そんな大した理由ではないんだけどな。俺の中学の時のいじめっ子が今アイドル声優なんだけど、声優としては大したことないのに、ちょっとルックス良くて歌と踊りが上手いってだけでチヤホヤされて調子に乗っててよ。それなのに智子さんみたいな実力派が引退寸前まで追い込まれるのを見ていられなくなったんだ。」

「え?!真樹の同級生にアイドル声優いたの?!何て子?」

「大津悠。トライスターズとか言うユニット組んでる。」

「あー、あの子か!そっかぁ、いじめっ子だったのか…。なんか、裏の顔知っちゃった…。」

「最初から知っている立場からすれば、今調子乗って媚を売る様見ると無性に腹立つけどな。」

 そんな会話をしながら真樹と慶は帰って行った。その後、真樹はこのことを秀太に報告し、そして秀太から智子へ、智子から所属事務所へと連絡が渡り、このような会合が出来上がったのだ。


 こうして現在、この面々が喫茶店に集まっている。そして、独特な緊張感を醸し出している。そんな空気だが、秀太は隣にいた真樹に小さい声で訊ねる。

「おい、真樹。ホントにこのおっさんに任せて大丈夫なのか?」

「一か八かですけどね。やらないよりはマシだと思いますよ。野球だって三振するなら見逃しより空振りの方がいいって言うじゃないですか?」

「まぁ、そうかもしんないけどさ…。」

 弟である秀太はやはり姉の智子の事が気が気でないようだった。緊張感が漂ったままだが、大門は再び智子に質問する。

「初めましてですね。私は大門隆三郎。主にSFアニメを中心に監督をやらせてもらっています。稲毛さんは、今までどのようなキャラクターを演じていたのですか?」

 その質問に対し、智子は少し目を伏せながら申し訳なさそうに答えた。

「実は私、今まで名前のあるキャラクターを演じたことがほとんど無かったんです。あるのは『突撃、ワン吉君』びケロ子ちゃんくらいでしたが、そのワン吉君も今月で終わりでして…すみません暗い話ばかりで…。」

「そうでしたか…。」

 大門は一言そう言ったが、心の中では何かを感じ取っていた。

(湯川君の言う通り、確かに落ち着いた大人の感じがしていい声だ。それに、あのケロ子ちゃんの声をやっていたとは信じられん。声の幅の広さは本物かもしれん。)

 胸の内でそう言った大門は鞄の中から持ってきた資料を取り出し、智子に見せながら説明を始める。

「それは、今私が担当しているアニメの設定資料集です。これが今作のメインヒロインなんですが、彼女だけ未だに声優が決まっていません。」

「ヒロイン?このキャラクターがヒロインですか?」

 資料集を見た智子は目を丸くしながらそう聞き返した。そして智子だけではない。その場にいた真樹、秀介、慶も呆気にとられながら言った。

「このアニメの…。」

「メインヒロインって…。」

「ロ、ロボットなのぉ?」

 資料に描かれているのは、緑を基調とした恐竜型のロボットだった。しかし、このロボットは変形できるらしくその隣には人型に変形した時の姿も描かれている。皆が戸惑いを見せる中、大門が説明を始める。

「今作っているアニメ『機動恐竜ダイノイド』は文字通り、変形可能な恐竜ロボをテーマにしたアニメなんですけどね。ダイノイド達はロボットですがそれぞれ感情や個性があります。今の所作中では4機のダイノイドが登場しますが、それはそのうちの1機で唯一女性型の感情を持つ4号機のデリジノイド。しっかり者の姉御肌なんですが、オーディションに来た声優はみんな子供っぽく甲高い声の人ばかり何で全員不合格にしたんですよ。彼女には落ち着いた大人の女性の声が出せる声優が必要なんです。」

 大門の説明が終わっても、真樹達はまだ驚きを隠せていなかった。人を演じることでさえ簡単なことではないのに、人間以外のキャラクターを演じることはかなり難しい。奇妙な空気になったが、智子は少し困り顔になりながら大門に聞いた。

「あ、あの…。私は今まで名無しのモブキャラばかりやってきて…こんなセリフの多い重要キャラ、やった事がありません。正直私に務まるかどうか…。」

「私は基本的に自分の作品には実力がある声優さんしか出さない。でも、今あなたと話して、実際に声を聞いてみて見込みがあると思いました。いかがですか?一度スタジオに来ていただいて、キャラのアフレコをしていただけるとありがたいんですが。」

「わ、私がそんな…。」

 智子は自信なさ気だったのだが、隣にいたマネージャーの宮沢が励まし始めた。

「智子ちゃん。一回やってみよ!こんなチャンスめったにないし、監督は智子ちゃんの声もっと聞きたいって言ってるわ!やってみようよ!」

「み、宮沢さん…。」

 そして、宮沢に続いて他の面々も声をかける。

「姉ちゃん、やってみろよ!俺、もっと姉ちゃんがやるキャラみたいよ!」

「秀太…。」

「智子さん。僕、学園祭で智子さんの声聞いた時、流石プロの声優さんはすごいなって思ったんです!もっと智子さんの声を聞きたいですよ!」

「俺も同意見です。俺、女性は苦手ですけど、そんな俺でもいいと思えるくらいあなたはいい声してると思います。やって後悔した方がいいって昔から言うでしょう?」

「鬼越さん、湯川君…。」

 皆にそう言われて、智子は少し考えた。そして、テーブルの上にある設定資料集を見ながら自身が溢れ越していること頃なんとなくイメージした。少し沈黙が漂ったが、智子は顔をあげて大門に言った。

「分かりました。私でよければ、いくらでもテストして下さい!」

「勿論。じゃあ、台本とキャラの設定資料集は渡しておきます。今週末にスタジオであなたの声を聞かせて下さい。」

 大門はそう言うと智子に台本と資料を渡し、面談は終了。全員は店を後にした。引退寸前の智子が、再び声優として立ち直れるかの勝負が始まったのだった。

こんにちわ!

長い上に、ぶっ飛んだ話になってしまいました。

ごめんなさい。

果たして、智子の実力とはいかなるものか?

次回をお楽しみに!

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