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真樹VS女子  作者: 東洋連合
Episode5 アイドル声優を潰せ
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第58話 智子の悩み

こんにちわ!

新キャラが一気に増えましたが、物語はどう動くのか?

 ここは都内にあるアニメの収録スタジオ。今ここで、アニメの収録が行われており、アフレコブースの中に3人の女性声優が台本片手にアニメに合わせてセリフを読んでいた。特にこれといったトラブルもなく、収録は無事に終わったようだった。

「はい、カット!3人ともお疲れ様でした!」

 スタッフにそう言われて、3人はヘッドフォンを外し、台本を持ってブースを出る。その3人とは、現在売出し中の若手声優ユニットである『トライスターズ』の3人、大津悠、馬堀春香、浦賀美優だった。

「いやー、3人とも素晴らしかったよ!これなら来期の覇権も狙えるね!」

「ありがとうございます!私達を抜擢してくれて本当に嬉しいです!」

 べた褒めした監督に対し、3人のリーダーである悠が笑顔で答える。彼女はデビューして3年目なのだが、2年目以降仕事が徐々に増え、トライスターズ結成後にはさらにそれに拍車がかかっていた。

「演技だけでなく、歌も踊りも頑張ります!」

「私達に任せて下さい!」

 春香と美優も笑顔でそう挨拶し、3人はそのままスタジオを後にした。そして、出口へ向かう途中の廊下で3人が話し始める。

「うふふ!絶好調ね!ミューセレ(先日真樹が見ていた音楽番組の略称)にも出れたし、今度のアニメも面白そう!私たちの時代が来たわね!」

 そう自信満々に言ったのはリーダーの悠だ。今年度に入り、グループ及び個々も含めて3人の仕事は急増しており、アニメのコンテンツに関して彼女たちの名前を聞かない日は無いと言ってもいい状況だった。春香も笑顔で言う。

「アニメ誌以外の雑誌のグラビアの仕事も入ってるし、今まさに世間が私達に目を向けているわ!」

「そうそう。このまま紅白、ドーム、武道館も乗っ取っちゃおう!」

 春香に続いて美優も楽しそうにそう言った。だが、この時3人はまだ気付いていなかった。自分達が泥沼に足を踏み入れ掛けているということに。


 一方その頃、大谷津学院にて。真樹と慶は3年C組の教室に来て、クラスの出し物であるたこ焼きを食べていた。真樹の野球部の先輩である秀太のクラスなのだが、そこに彼の姉である智子が登場。さらに、智子が現役の声優であることを知り、驚いていた。弟である秀太は姉が声優であること我を誇りに思っているのか自慢げな表情を浮かべている反面、姉である智子の表情は曇っている。それに引っかかった慶は心配そうな表情で聞いた。

「あ、あの…お姉さん?大丈夫ですか?」

「智子でいいわ…。大丈夫よ。」

 智子はそう言ったものの、その表情からはやはり寂しさの様な物がにじみ出ている。秀太もそれに気付いたのか、首をかしげながら聞いた。

「何だよ姉ちゃん。元気ねえじゃん。何かあった?」

 妙な空気が流れる中、真樹だけが黙ってその状況を見ている。そして、智子は何かを悟ったような表情で口を開いた。

「あのね、秀太。私、声優引退しようと思っているの。」

 その言葉に3人は一瞬固まる。そして、秀太は何が起こったか分からないとでも言いたげな表情を浮かべ、姉の智子に言った。

「は、何で?あんだけなりたいって言って声優なったのに?」

「昔はね。でももう無理よ。」

 悲しそうな表情で智子はそう言った。すると、慶の方も残念そうに続ける。

「えー、そうなんですか?智子さんの声、落ち着いた大人の女性って感じがしてカッコいいのに。僕は好きだけどな、智子さんの声。」

「ありがとう。でも私じゃあまりにも力不足だったわ。哀しいけど、そうするしかないみたい…。」

 慶に対して微笑みながらそう言う智子。すると、黙っていた真樹がようやく口を開いた。

「何か事情があるみたいですね。失礼を承知ですが、よかったら話してくれませんか?先輩も腑に落ちないみたいですし。」

「そうだよ姉ちゃん。真樹の言う通りだよ!せめて理由言えよ!応援してきた身にもなれっってんだ!」

 真樹と秀太に諭された智子は一呼吸置いてから答える。

「いいわ。ここじゃ騒がしいから場所を移しましょう。」

  こうして4人は立ち上がって教室を出た後。中庭の隅っこに移動してきた。そして、異様な空気に包まれる中、智子は口を開いた。

「私ね。小さいころから魔法少女アニメが好きで、いつか自分もこうなりたいって思ってた。そして、声優って職業を知って、声優になれば自分が好きなものになれる。そう思って高校を出たら声優養成所に入ろうと思ったの。」

「あん時は猛反対されてたけどな。『大学だけは出て!』って言われて。」

 秀太がそう付け加えた。智子は大谷津学院の卒業生ではないが、それなりの進学校に通っており、両親はそのまま大学進学すると思っていたのだろう。

「その時は折れて進学したわ。だけど、どうしても諦められなかったの。バイトはしてたけど養成所に通うお金は無いし、飛び込み同然でオーディションに応募したけど落選。それでも、悪あがきみたいだけど、自分のボイスサンプルをいろんな事務所に送ったの。そしたら、小さいけれど一か所だけ私に興味を持った事務所があったわ。そこが今の事務所。」

「そ、そうだったんですか。大変だったんですね。」

「だが、恐るべき気合いだな。落ちた時点で諦める人も大勢いるだろうに。」

 智子の経緯を聞いて慶も真樹も驚きの表情を浮かべながらそう言った。智子は引き続き、その後の事を話し始める。

「案の定両親には反対されたわ。だけど、私はどうしてもやりたいって通した。その当時4年生だったけど、他に就職も決まって無かったし。そうしたら、3年やって売れなかった引退して普通に就職するっていう条件付きで認められたの。で、今年がその最終年。私ももう25だしここまでやってだめなら諦めるしかないわね。」

「何でだよ、姉ちゃん!そう言えばあれ、どうなったんだよ?ケロ子ちゃん!あの声は姉ちゃんじゃなきゃダメだろ!」

 ケロ子ちゃんとは、教育チャンネルで夕方にやっている『突撃、ワン吉くん!』という犬の男の子が主人公の幼児向けショートアニメの登場キャラクターだ。名前の通り、ピンク色のカエルの女の子なのだが毎回出てくるという訳ではなく、よく言えば準レギュラーに近い扱いだった。その声を智子が担当していると聞き、再び慶と真樹を驚かせた。

「ええっ?智子さんあれに出てたんですか?知らなかった。スゴいです!」

「俺も見たことあるが、ケロ子の声と全然違う。ボイスチェンジャーでもついているみたいだ。」

 真樹が驚いたのは実際の智子の声と彼女が演じているケロ子の声のギャップである。智子の地声は女性にしては結構低めで落ち着いている。しかし、ケロ子は文字通りカエルの女の子というキャラのため、かなり甲高くやかましい声だった。女嫌いの真樹ではあるが、智子の声優としての技術の高さには感心せざるを得なかった。そして、智子は更に残念そうに続ける。

「そっか。知らなかったのね。実はワン吉君、今年で放送終了よ。エキストラ同然でチョイ役拾ってる私の唯一の準レギュラーも失ってしまうわ。よりによって最後の年にね。」

 智子のその言葉を聞いて3人はなんだか悲しくなり、黙り込んでしまった。智子もそれを察したのか、申し訳なさそうに謝りながら言った。

「ごめんね!折角楽しい学園祭なのにこんな暗い話して。」

「いえ、いいんです。聞きたいって言ったのは僕ですし。」

 真樹はそう返した。一方の智子の方も何か吹っ切れたような表情で言った。

「じゃあ、私はもう少し回ったら帰るわ。聞いてくれてありがとうね。それと秀太もたこ焼きありがとう!美味しかったわ。この後も頑張んなさいよ!じゃあね。」

 そう言って智子は3人に礼を言い、手を振りながらその場から立ち去った。秀太はその様子を何とも言えない表情で見つめており、溜息交じりに言った。

「はぁ、姉ちゃん才能あると思うんだけどなぁ。何でこうなるんだろう?俺はずっと応援してたんだけどなぁ。」

 残念そうにそう言った秀太。そして、ふと真樹と慶の方を見ると申し訳なさそうに言った。

「あ!悪ぃ、二人共!俺まで落ち込んじゃ、意味ねぇよな。とにかく、真樹も鬼越さんも来てくれてありがとうな!」

「いえ、俺の方こそ。たこ焼きありがとうございました!」

「僕もです!すごくおいしかったです!」

 秀太、そして真樹と慶はお互いに礼を言った後、秀太は自分のクラスに戻って呼び込みを続け、真樹と慶も自分のクラスに戻ることにした。その途中、慶が思わず呟く。

「厳しい世界なんだね。あんな素敵な声でも売れないなんて。」

「理不尽だよな。才能ある人が淘汰されて、アイドルの真似事するのが売れるんだから。」

 皮肉たっぷりに真樹はそう言い捨てた。真樹としても、どうしてあんなに技術がある人が売れなくて、大津悠の様なアイドル声優ばかり持て囃されているのか理解できないでいた。色々すっきりはしなかったが、休憩時間を終えた真樹と慶は教室に戻り、それぞれの仕事をこなしたのだった。

こんにちわ。

今回はちょっと暗い話でした。

果たして智子の声優人生はこのまま幕を閉じてしまうのか。

今後の展開をお楽しみに!

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