第57話 只今文化祭
こんばんわ!
大谷津学院の文化祭回です!
気温が段々と冷え込んでいく季節の中、真樹達の通う大谷津学院高校では文化祭が賑やかに行われていた。大谷津学院の文化祭は毎年二日間行われ、受験を考えている中学生やその父兄の他、近所の人達も大勢足を運んでいる。真樹達の1年A組は教室内で大判焼きを出していた。
「いらっしゃいませー!」
「あんことクリームが1パックずつですね、400円です!」
「ありがとうございました。」
こんな感じの会話が教室内に響き渡っており、彼らの大判焼きはそれなりに客足があるようだった。無論、真樹も今回の文化祭に渋々ながら参加している。今彼は教室の入り口付近にいた。
「大分溜まったな。そろそろ出してくるか。」
真樹は教室の外に設置されているごみ箱にゴミが溜まっているのを確認すると、新しいごみ袋に取り換え、溜まったゴミを持って校舎の外に行く。ご覧のとおり、今回の真樹の担当はごみの回収と処理である。クラス内の各担当をを決める際、真樹は案の定全く乗り気ではなかった。また、先日の騒動によって真間子達を成敗して病院送りにしたことによって、ただでさえ嫌われている真樹の嫌われ具合がさらに加速してしまった。真樹が文化祭に参加することに反対する女子生徒が大多数を占める中、美緒と担任の立石がそういう訳にはいかないと、彼に余っているポジションを用意したのだ。因みに、真樹がゴミ係に決まった際は「ゴミクズはごみと一緒がお似合いよ!」とクラスの女性陣から嘲笑されたのは言うまでもない。真樹自身はそんなことを気にも留めず、今もこうしてゴミ捨て場にゴミ出しをしている。ゴミを出し終えて教室に戻ろうとすると、真樹はふと声をかけられる。
「真樹、お疲れ!はい、喉乾いたでしょ!」
いつの間にか後ろにいた慶が優しそうな表情でラムネを差し出していた。真樹はそれを受け取って嬉しそうに飲み干す。
「ぷはぁー、上手い!ありがとう。それとわざわざ悪いな、オニィ。」
「いいんだよ。真樹ばかりにこんな雑用押し付けちゃったみたいでなんか申し訳ないし。」
「平気だ。むしろ、表に出なくて済むと考えるとありがたい位だ。」
申し訳なさそうに話す慶に対し、真樹は笑顔で返す。因みに慶の担当は売り上げの集計なのだが、どうやら今は休憩時間中の様だった。
「ねえ、真樹。もしよかったら、次の休憩で先輩の所回らない?」
「え、いいのか?」
「勿論だよ!この間も言ったでしょ?」
真樹の立場上、同級生の出し物に顔を出したら門前払いを食らうのは言うまでもない。なので慶は以前、真樹が所属する野球部の上級生のいるクラスの出し物に一緒に行こうと提案していた。真樹はそれを思い出し、頷きながら言う。
「そうだな。わかった、ありがとうオニィ。」
「いいの、いいの!折角だし一緒に楽しもうよ!」
慶は屈託のない笑顔で真樹にそう言った。ゴミを片付け終えた真樹は慶と共に教室に戻り、再び持ち場に就いたのだった。
休憩時間。
「じゃあ、真樹。行こうか!」
「おう。お待たせ!丁度行きたい所あったからそこにしようか。」
そう言って、真樹と慶は目的の場所に向かう。行く途中、隣のクラスの教室をのぞいてみると…。
「キャー、裕也くーん!」
「裕也くーん。こっちも接客してー♡」
「オッケー、オッケー!今行くから待ってて!」
学年一のイケメン、大和田裕也の所属する1年B組は喫茶店をやっていたのだが、案の定裕也の接客を受けたいと思った女子生徒が教室に殺到しており、最早1年生の出し物の中では一番の大盛況といっても過言ではない状況になっていた。
「どうしてみんな大和田君の所に集まるんだろう?僕、女だけど大和田君が好きって言う子達の気が知れないよ。顔がよくても、何か花にかけた感じがして嫌だな。」
「気にすんなよ、オニィ。正直言って俺も理解できないし、理解したくもない。」
それだけ言うと、二人は目当ての場所まで向かった。階段を上り、3年生のクラスがある階まで上がると、真樹は3年C組の教室を指さしながら言った。
「ここだ、ここ!引退した野球部の先輩がこのクラスなんだ!」
「たこ焼きかぁ。いいねいいね!僕、たこ焼き大好き!」
慶は楽しそうにはしゃぎ、真樹も安心感漂う笑顔を見せながら二人は教室に入る。教室に入ると、一人の男子生徒が真樹を見るなり笑顔で駆け寄ってきた。
「おお!真樹じゃねぇか!お前なら来てくれると信じてたぜ!さぁ、たこ焼き食ってけ食ってけ!」
「ありがとうございます!稲毛先輩の所なら、勿論足を運びますよ!」
ブースの前で呼び込みをしていた筋肉質で大柄な男子生徒が真樹達を招き入れる。彼の名前は稲毛秀太。3年C組の男子生徒で、真樹が入学時に野球部で4番でキャプテンを務めていた。因みにポジションはサードだ。
「野球部頑張ってるみたいじゃねぇか!お前ほどの奴がいれば甲子園も夢じゃない!来年は絶対行って俺達が実現できなかった夢をかなえてくれ!」
「勿論頑張りますよ!あ、オニィ!この人は野球部OBの稲毛先輩だ!先輩、こいつはオニィこと鬼越慶。俺のクラスメイトです!」
「ん?真樹のクラスメイトか。俺は稲毛秀太!よろしくな!」
「はい!僕は鬼越慶です!宜しくお願いします!」
初対面だった慶と秀太が挨拶をする。その後、二人は3年C組のたこ焼きをそれぞれ購入し、食べ始めた。
「どうだ、俺たちのたこ焼きは?結構自信作だぜ!」
「上手いです!来てよかったです!」
「美味しい!これなら僕、あと2パックはいけそうだよ!」
真樹と慶は秀太のクラスのたこ焼きに随分満足気だ。秀太も自分のクラスのたこ焼きが後輩達から好評と分かり、喜んでいた。それぞれが至福の時間に浸る中、教室にある人物が入ってきた。
「ヤッホー、秀太!しっかりやってるみたいね!」
教室内に入ってきた女性が、秀太を見るやいなや、ご機嫌な様子で挨拶してきた。年齢は20代前半から半ばという感じで、モスグリーンのジャケットにジーパン、黒く長い髪の毛をポニーテールに纏め、眼鏡をかけた風貌は所謂「インテリ女子」を彷彿させる感じだった。
「ね、姉ちゃん!来たんだ!」
「「姉ちゃん?!」」
秀太の発言に真樹と慶は一瞬驚いた。そして、入ってきた女性は一度お辞儀をすると、真樹と慶に挨拶する。
「初めまして!稲毛智子です。弟がいつもお世話になってます!」
稲毛智子と名乗る女性は落ち着いた声色で真樹と慶にそう自己紹介した。それを聞いた真樹はすかさず秀太に問う。
「こ、この人。先輩のお姉さんですか?」
「おお、そうだ!」
智子は秀太の姉だということが分かった。とりあえず、真樹と慶の方も挨拶をする。
「初めまして。湯川真樹です。先輩と同じ野球部です。」
「僕は鬼越慶です。真樹のクラスメートです。」
お互いに挨拶を済ませると、秀太の方から姉である智子に質問をする。
「姉ちゃん。今日収録ないの?一人で来るなんて珍しいじゃん。」
「無いわよ!だから来たんじゃない。今日は可愛い弟が高校最後の文化祭やるって聞いたんだから、東京から飛んできたわよ。」
そんな二人に会話に真樹と慶は首をかしげながら言う。
「「収録?」」
難にことか分からにという表情を浮かべた二人に対し、秀太は笑顔で言った。
「そうだ。実は俺の姉ちゃん、プロの声優やってるんだぜ!」
その言葉を聞いて真樹と慶は一瞬固まった。そして、状況が飲み込めたときに驚きの声をあげたのだった。
「ええっ!?」
「ほ、ホントなんですか?」
二人がびっくりしたのは言うまでもない。今や若者の憧れの職業ランキングで上位に食い込むようになった声優という立場の人が目の前にいるのだから。ただ、誇らしげな表情を浮かべる秀太に対し、姉の智子はどこか後ろめたい表情を浮かべていたのだった。
こんばんわ!
またもや新キャラの登場です!
ただ、秀太が姉が声優であることを言った途端、当の智子が暗い表情を浮かべたのはなぜか?
次回をお楽しみに!




