第54話 悪魔の目にも涙
こんにちわ!
大変なことになってきましたが、果たして騒ぎの結末はどうなるのでしょうか?
市川真間子は激しく後悔した。自身が面白半分で仕掛けた偽ラブレターにより、まさか自分が命の危険にさらされるとは思わなかったからだ。杜夫の次のターゲットである木戸翔真はよりによってヤクザの組長の息子であり、しかも組員まで引っ張り出されて自分は取り巻き共々廃工場に連れて来られてしまったのだ。全ては真樹が杜夫の代わりに復讐するため仕込んだことなのだが、真間子も、そして翔真もそんなことは知る由もない。今がどういう状況かというと、取り巻き達は組員たちに押さえつけられた揚句に足を撃たれてうめき声をあげながら倒れている。そして真間子は鎖で手足を縛りつけられ、身動きが取れない状態で翔真にバタフライナイフを突き付けられている。
「あーあ、俺真間子ちゃんとデートしたかったんだけど、こんなに性格悪いって知って幻滅だなー。」
翔真は小馬鹿にするように真間子にそう言い放った。真間子は気が動転して何を言い返したらいいか分からず、黙ったままだ。翔真は更に笑いながら続ける。
「せっかく俺がお嫁さん候補にしようと思ったんだけど、俺のこと嫌いなんだよねー、君。じゃあもう、結婚指輪はめる必要も無くなったってことだよねー。」
「何だよ、何が言いたいんだよ…?」
真間子は困惑しながら翔真に問う。翔真はすぐさま答えた。
「こういうことだよ!」
翔真がそういった瞬間、真間子は左手薬指に今まで感じたことのない激痛を覚えた。そして、左手を見ると、翔真のバタフライナイフによって真間子の左手薬指は真ん中から切り落とされていた。
「ぎやぁぁぁぁぁぁ!」
あまりの激痛に真間子の断末魔が周囲に響き渡る。そして、その様子を見ていた取り巻き達もうめきながら声を出す。
「ま…真間子…!」
「やめて…。」
しかし、そんな取り巻き達の声など翔真達の耳に入るはずもない。組員たちがさらに楽しそうに煽り始めた。
「いいぞー、若!」
「その極悪女をやっつけちまおうぜ!」
一方の真間子は左手から大量の血を流しながら言葉にならないうめき声をあげている。そんな真間子に対して、翔真は攻撃の手を一切緩めることは無かった。
「いいねぇ、もっと叫べよ!この俺をバカにした報いだ!ほれ、もう片方!」
翔真はそう言って今度は真間子の右手の薬指も躊躇なく切り落とした。更なる激痛に真間子はまたも断末魔をあげる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
真間子は縛られたまま血だらけになっている。そして、両手薬指を切断された痛みとそれに伴う出血により、そのまま気を失ってしまった。
「ふん、ザマぁねぇな!この俺に喧嘩を売るからこうなるんだ!よーし、お前ら!そこの二人はお前らの好きにしていいぞ!」
「オッス、若!」
「ありがとうございます!」
「よーし、若の許可が下りた!やっちまおうぜ!」
翔真にそう言われた組員たちは、地面に倒れている取り巻き二人を掴みあげた。そして、再び手をあげようとしている。
「や、やめて…。」
「離して…。」
「うるせえよ。お前らもこいつと一緒に俺をバカにしたからな!それ相応の罰を受けてもらうぞ!」
翔真は取り巻き達にも怒りの矛先を向けていた。そして、組員たちの猛攻が取り巻き達に襲いかかろうとしている。
一方の真樹と佳久は物陰に隠れた状態で事の一部始終を見ていた。そして、翔真が真間子の両手薬指を切断したのを見た所で佳久に声をかける。
「佳久、今だ。退却するぞ!」
「お、おう…。」
二人は急ぎ足でその場から離れた。幸い翔真達は真間子達に夢中になっていたので真樹たちが見ていた事に気づいていない。急いで敷地内から出た真樹は携帯電話を取り出し、佳久にも声をかける。
「俺は警察に通報する。佳久、お前は救急車呼んでくれ。」
「わ、分かった。」
そう言って二人はそれぞれ警察と救急に連絡した。佳久はまだ動揺しているが、真樹はまだ涼しい顔をしている。
「もしもし、警察ですか?3丁目の工場跡地で怪しい男達が若い女性を襲っているみたいです。あ、救急は今僕の友達が呼んでます。早くしないとまずいことが起こりそうなんで、急いできて下さい。」
警察への通報を終えた真樹は携帯電話をポケットにしまった。ふと横を見ると、救急への通報を終えた佳久が青ざめた表情で立っていた。
「どうした佳久?顔色が悪いぞ。」
「当たり前だろ?逆に何でお前はそんなに冷静なんだよ?」
「計画通りにいったからだ。」
「そうじゃなくって…指切り落とされる所をみて何で平気なんだって言ってんの。」
「流血沙汰なんて小学校時代はしょっちゅうだったからな。いまさら何が起こっても驚かないわ。」
「…。やっぱり俺、お前の将来心配になってきたわ。」
そんなやり取りをしている内に二人の通報を受けた警察と救急が工場跡地にやってきたのだった。
「動くな、警察だ!」
「お前達はすでに包囲されている!観念しろ!」
通報を受けた警察はすぐさま工場跡地に入り、翔真達を包囲した。その様子を見て翔真達は完全に動揺している。
「わ、若!まずいっす、警察が来ました!」
「ば、バカな!誰かに見られていたなんてありえない!まあいい、追っ払って逃げるぞ!」
「了解です、若!」
翔真達は持っている武器を振りかざして強引に警察の包囲網を突破しようとした。しかし、大勢の機動隊相手に太刀打ちできる訳が無く、全員あっさりと逮捕されてしまった。翔真達が逮捕された後、今度は救急隊が入ってくいる。
「被害者は若い女性3人だ。全員出血が酷い、急げ!」
「この子は縛られている上に指を切断されている!ペンチだ!鎖を切断しろ!」
「はい!」
救急隊員は今まで見たことが無い状況に戸惑っていたが、大急ぎで既に意識を失っていた真間子と取り巻き達3人を救出し、病院に搬送した。周囲には野次馬達が集まり、普段は人気が無いのが嘘のようにざわついている。その中に、一部始終を見届け通報もした真樹と佳久もいたのだった。
「ま、真樹。これでいいんだよな…?」
「ああ。これで市川も地獄の恐怖を味わい、お前の学校の腫れ物である木戸翔真も警察に逮捕された。これが俺の考えた両成敗だ。」
「そ、それはありがたいよ。俺も翔真の傍若無人っぷりには困ってたし。でも、もう少し穏やかに仕返ししても良かったんじゃないか?すごい騒ぎになっちゃったぞ。」
「甘いな、佳久。ああいう屑共を相手にする時は遠慮も容赦もいらん。さもないと、懲りずにまた悪事を働くからな。」
真樹は険しい表情で佳久にそう言い、翔真達を乗せたパトカーと真間子達を乗せた救急車が工場跡地から去って行くのを見届けると、佳久と共にその場を後にした。こうして、かなり荒くて大胆なやり方にはなってしまったが、杜夫を晒し者にした真間子達を恐怖のどん底に突き落とし、友人を困らせていた翔真を逮捕させたということで、真樹の復讐代行は見事に成功したと言ってよかったのだった。
こんにちわ!
真樹の大胆っぷりが分かる話でした。
予想より長くなってしまいましたが、Episode4は次の話でラストです。
Episode5の内容も色々考えていますので、今後もお楽しみに!




