第52話 地獄への入り口
こんにちわ。
ここから真樹が畳み掛けます!
真樹の中学時代の友人である初富佳久は、同じ高校に通う木戸翔真に辟易していた。勉強はできないが腕っ節だけは強く、その上短気な性格で気に入らないことがあるとすぐ誰かに八つ当たりしたりもした。佳久も例外ではなったのだが…。
「ふざけんなよ、何で明日小テストなんだよ!あ、佳久!」
「何、木戸君?」
「お前、明日のテスト俺にカンニングさせろ!」
「何言ってんの?無理に決まってるじゃない!」
「は、ふざけんなよ!これでも食らえ!」
「うわぁぁ!」
要求を断った佳久はそのまま翔真に首を締めあげられ、床に叩きつけられた後に何度も踏みつけられた。またある時は…。
「おい、テメーらふざけんなよ!何俺より先に恋人同士になっちゃってんの?」
「な、何だよ木戸君…。」
「木戸君には関係ないでしょ!」
佳久以外にも被害者はいた。翔真は恋人を欲していたが出会いに恵まれず不満が積っていた。そんな中、彼のクラス内で一組のカップルが誕生したのだが、翔真はそれを自分への当てつけと思いこんで、二人に絡んできたのだった。そして、とんでもない要求をした。
「お前ら、今すぐ別れろ!そして、お前は俺の彼女になれ!そうしたら許してやる。」
「何バカなこと言ってんだよ!出来る訳ないだろ!」
「そうよ!私、木戸君みたいな乱暴者のヤンキーと付き合うなんて死んでも御免だわ!」
「は、俺に逆らう気?じゃあもう許さねぇ!」
「うわぁっ!」
「きゃぁ!」
翔真は二人の胸倉を掴んで投げ飛ばし、机や椅子を使ってこれでもかという位殴り続けた。佳久達他のクラスメート達の仲裁も聞かず、結局先生数人がかりでようやく止められた。このように、学校内で威張り続けて好き方だいしている翔真の事で、佳久は時々真樹に愚痴を言っていた。そして真樹はそんな翔真の恋人が欲しいという気持ちを利用して、真間子もろとも葬り去るというプランを実行したのだった。
真間子が翔真を盛大に振った翌日、真樹は佳久からその報告を受けた。そして、その後真樹はある場所に電話をかけた。
「もしもし?」
「ああ、誰だよ?」
「俺だ。湯川だ。木戸君、今いい?」
電話の相手は翔真である。相変わらず喧嘩腰な口調だが、電話越しでも普段以上に不機嫌な様子が伝わってくる。あのように振られたのだから当然なのだが。
「何だよ。俺は今機嫌が悪いんだよ。」
「ああ。お前の事は佳久から聞いた。その…本当にすまなかった!」
真樹は大声で翔真に謝罪をした。一瞬翔真はきょとんとしたが、真樹は尚も申し訳なさそうに続ける。
「お前の役に立とうと思って、お似合いだと踏んだ市川を紹介したことを本当に申し訳なく思う。俺も事情を聞いてあんなに性格が悪い奴だと思わなかった。第一印象だけでお前とマッチングさせようとしたのは悪かった。お前に嫌な思いをさせてしまって済まない。」
勿論真樹は真間子の本性を知っているので、この言動は演技である。普段なら翔真はキレて暴れる所だったが、返ってきたのは意外な反応だった。
「いや、いい。今まで俺に反抗的に逆らってきた奴ばっかだったのに、お前だけは俺のために動いてくれたから今回は特別に許してやる。だけど、あいつらだけは絶対に許さねぇ。いつかぶっ殺す!」
「勿論だ。同じ学校の生徒として本当に恥ずかしいし、申し訳ない。まぁ、このまま我慢して泣き寝入りしても報われないからな。メッセージでもいいし、それでも物足りないなら…あいつ部活入ってないし、直接文句の一つでも言いに来ていいんじゃない?今日はとりあえず、ゆっくり休んで心落ち着かせろ。」
「湯川…。お前、いい奴だな。」
「それほどでも。じゃあ。」
真樹はそれだけ言うと電話を切った。休み時間が終わろうとしているので教室に戻ろうとすると、後ろから慶がジュースを手に持って現れた。
「真樹、どうしたの?誰かと電話してたみたいだけど。」
「大した用じゃない。ちょっとしたお悩み相談だ。」
「そうなんだ。それにしても聞いた、市川さんの事?」
「ん?ああ、聞いたよ。」
「なんか、ガラの悪いヤンキーに告白されたのを杜夫と同じようにボロクソ言って振ったらしいね。市川さんて何なんだろ。趣味悪い。」
真間子は前日の事を周囲に言いふらしている。当の本人はヤンキー野郎を盛大に振って黙らせたと随分自慢げな様子だったが。慶はそんな真間子に対し、軽蔑の意を込めて言い捨てる。そんな慶に、真樹が微笑みながら言った。
「安心しろ、オニィ。あいつの好き放題も今回限りだ。」
「真樹…前にも仕返しするって言ってたけど本当にそんなことできるの?」
「大丈夫だ。土台は全て作った。後は俺に任せておけ。」
真樹は慶にそれだけ言うと、二人で教室に戻り次の授業の準備をする。そして授業が始まる直前、真樹は心の中でこう呟いた。
(おっと。後でもう一件電話しないとな。)
翌日の放課後。
「真間子ー、早く帰ろう!」
「ああ。待ってろ!」
取り巻きが真間子を呼び、いつもの3人で仲良く帰宅する。昨日も、そしてこの日の日中もこれといって大きな動きは無かった。そして、取り巻きの一人が真間子に笑顔で言う。
「いやー、それにしてもおとといは爽快だったわね。」
「ホント、ホント!真間子ったらヤンキー相手に怯まずあそこまでぼろくそに言えるなんて流石ね!」
「ふん。当然だ!あんなクソ野郎は今すぐ死ぬべき!だからシメてやったんだ!」
おとといの事を思い出し、楽しそうに話す3人。すると、そんな彼女達に話しかける人物がいた。
「おーい、ねぇちゃん達。ちょっといいかな?」
そこにいたのは6,7人ほどの男のグループだった。皆屈強な体格をしており、派手なスーツを着た者、いかついサングラスをかけた者、額に剃り込みを入れた者など、それぞれが強烈な印象を放っている。真間子たちは自分らに関係ないと一度無視したが、集団の中にいた紫のスーツを着た男が一人駆け足で近付いてきた。
「あんた達に話しかけてんだけど、無視しないで欲しいなー。ねえちゃん達!」
見るからに怪しい雰囲気に、取り巻き達はさすがに戸惑いを隠せなかった。しかし、真間子だけは反抗的な目でにらみながら言い返す。
「おっさん。邪魔なんだけど!しつこいと警察に付きだすぞ!」
「君にそんな権限があるのかな~?一昨日はうちの若に随分ひどいこと言ってくれたみたいじゃん!」
「は、知らねーよ!チンピラなんかと面識ねーし!」
真間子が言い返した所で紫スーツ男は引かない。そして、そのやり取りを聞いていた他の男達が真間子たちを野次り始めた。
「うわー、ひでー女だなこりゃ!」
「若に向かってあんなこと言っといて忘れるなんて最低だぜ!」
「どうやら、色々分からせる必要がありそうだな。」
そうして、他の男達もぞろぞろ集まって真間子たちを囲む。そんな状況になって取り巻き二人が慌て始めた。
「ちょっと、真間子。さすがにヤバくない?」
「このおっさんたちタダ者じゃないわよ。早く逃げようよ!」
「うるせぇ、このまま言われっ放しでたまるか!」
それでも真間子はまだ強がっていたが、段々と顔から流れる汗が増えてきた。しかし、真間子も意固地な所があるので簡単には引けなかった。そして、今度は黒いスーツを着たスキンヘッドの男が話し始めた。
「若!こいつら全然反省してないみたいですぜ!どうしますか?」
黒スーツ男は後ろに向かって声をかけた。すると、男たちをかき分けて一人の少年が出てきた。
「とことん痛めつけろ!俺が満足するまで。」
そう言ってできた少年を見て真間子は愕然としたのだった。
「お、お前は…。」
「よう。一昨日はずいぶん言ってくれたじゃないか、真間子ちゃん。」
その少年とは、まさしく2日前に真間子が罠にかけて散々侮辱した木戸翔真その者だったのだ。
こんにちわ。
トンでも展開になりましたが、真樹は何をしたのでしょうか?
次回をお楽しみに!




