第49話 仕掛け人、湯川真樹
こんにちわ!
今回から真樹が大きく動き出します。
翔真との交渉により、真間子宛てのラブレターを書かせ、それを託された、真樹。その翌日、この日は土曜日で普段通り午前中は野球部の練習だ。真樹は普段より早く登校し、まずは昇降口へと向かう。勿論前日託された手紙を真間子の下駄箱に入れる為だ。土曜日は授業は無いが、真樹達みたいに部活動の朝連がある生徒のために朝6時にはもう開いている。真樹は生徒がまだ誰も来ない時間帯を狙って真間子の下駄箱までやってきた。
「お返ししてやる。覚悟しろ、市川真間子。」
そう言って真樹は真間子の下駄箱の隙間から封筒を差し込み、難なく仕掛けに成功。そのままグラウンドへと向かい、誰もいない中一人準備運動をしていた。軽く体操を行い、ランニングをこなしていると、誰かがグラウンドへとやってきた。
「おお、湯川。やけに早いな。」
「先生、おはようございます。」
顧問の関谷だった。関谷は荷物を置くと、ご機嫌な様子で真樹に話しかける。
「調子よさそうだな。」
「ええ、早めに目覚めたおかげでこうして余裕持って準備が整いそうです。」
「結構なことだ。今日はみっちりやるから、気合入れろよ。」
「はい!」
二人はそれだけ会話をすると、練習のためにグラウンド整備を始める。その後、伸治や武司をはじめとした野球部員がぞろぞろと登校し、いつも通り土曜の午前練習が始まった。しかし、真樹が真間子へ仕返しするための仕掛けを行っていたことは誰も知る由が無かった。
「じゃあ、今日の練習はここまで。気をつけて帰れよ!」
「「はい!ありがとうございました!」」
正午。特にトラブルもなく、野球部の土曜練習は終わった。みんなそれぞれ荷物をまとめて帰る準備をする。真樹は鞄の中に入れておいたスマホを取り出して確認すると、一見のメッセージが届いていた。差出人を確認すると、案の定翔真からだった。
『ちゃんと入れてくれたんだろうな?忘れてたらただじゃおかないぞ!』
相変わらす脅迫めいた喧嘩腰のメッセージだった。真樹は苦笑いを浮かべながら返信する。
『安心しろ。手紙は市川の下駄箱に入れた。まぁ、あいつが気付くのは月曜になってからだろうけどな。』
そう返信すると、またすぐにメッセージが返ってくる。
『そうこなくっちゃ!週明けが楽しみだ!サンキュ!』
翔真のメッセージを確認した後、真樹は心の中で呟いた。
(楽しみ…か。俺もだぜ、両成敗できると思うとな。)
不敵な笑みを浮かべた真樹は、手早く荷物をまとめて伸治達と共に学校を後にしたのだった。
週明けの月曜日。
「うぃーっす。」
「あ、真間子おはよう!」
「やっほー、真間子!」
真間子は普段通り登校し、仲がいい取り巻き二人と下駄箱で合流する。そして、何食わぬ顔で下駄箱を開けたその時だった。
「ん、何だこれ?」
真間っ子は自身の下駄箱の中に何かが入っているのに気付き、取り出す。勿論それは二日前に真樹が仕掛けた翔真の手紙だ。封筒を開けると中には便箋が一枚入っており、そこにはこう書かれていた。
『市川さんへ。初めまして。僕は翔真といいます。友達からあなたの話を聞いて、興味を持ちました。是非一度会ってお話ししたいと思っております。もしよろしければ、下に連絡先が書いてあるのでそこに連絡してください!』
勿論これは真樹の指示の下、翔真が書いたものである。真間子が怪訝な表情を浮かべながら、手紙の文章を読んでいると、取り巻きの二人が興味津津な様子で覗き込んできた。
「真間子、何それ?」
「ラブレター?」
「知らねぇよ。誰だし、翔真とか?」
真間子の反応は当然である。そもそもお互いに面識が無いまま、真樹は翔真に真間子の事を教えたからだ。そんな真間子を見て、取り巻きの一人が言った。
「もしかして、これ湯川の仕業じゃない。公津の敵を取るとか言ってたし、バカみたい。」
「いや、ちげーな。あいつはタダ者じゃない。体育祭実行委員の仕掛けすら見破った奴が、こんな単純なことする訳がねぇ。」
真間子はそう否定した。取り巻きが言っていたことは半分は当たっているが、真間子も真樹が簡単に陥れられる人物ではないことは頭に入っていたので彼がここまでばればれなことをしてくる訳が無いと踏んでいた。そんな真真間子に、もう一人の取り巻きが言う。
「じゃあさ。こいつもおびき出してメンタルボロボロにしちゃおうよ!湯川を陥れる前夜祭としてさ!」
「そうだな。楽しみが増えたと思えば悪くない。」
そう言って真間子は翔真の手紙を鞄の中にしまい、教室へと向かった。真樹への仕打ちの前に翔真でウォーミングアップをしようというお気楽な考えだったが彼女達はまだ気付いていなかった。自分達が、まんまと真樹の術中にはまっているということを。
真間子が手紙をもらったということがすぐに噂になったのは言うまでもない。というより、真間子自身が広めてネタにしていた。真樹はそんな状況を確認すると、翔真にメッセージを送った。
『市川が手紙を受け取った。連絡が来るかもしれないから楽しみにしていろ。』
『お、マジでー?よっしゃー、楽しみだ!』
翔真は自分が書いた手紙が真間子に渡った事が分かり、嬉しそうだった。一方の真樹は、真間子の動きを伺い、仕返しの方法を頭の中で細かく構築していた。そうしていると、慶が声をかける。
「ねぇ、真樹。」
「どうした?オニィ。」
「市川さんがラブレターもらったって話聞いた?」
「ああ。今そこら中で話されてんじゃん。」
真樹は仕掛けた本人なので当然知っている。そして、慶は首をかしげながら真樹に質問した。
「まさかとは思うけど、真樹が仕返しのために書いたの?」
「俺がそんな見え透いた罠仕掛けるかよ。それに、女子へのラブレターなんて、罰ゲームでも嫌だね。」
真樹は首を振りながらそう否定した。真樹は指示はしたものの、実際に手紙を書いたのは翔真なので真樹の言い分も間違っていない。慶は尚も怪訝な表情を浮かべながら続ける。
「はぁ…それにしても市川さん、本当に反省する気が無いみたいだね。いまだに杜夫の事をネタにするし、真樹の悪口のそこらへんで言いふらすし。」
「想定通りだ。」
「杜夫…まだ学校に来れないみたいだけど、心配だな。」
あの事件以降、杜夫はまだ学校に来れる状態ではない。この日で杜夫が学校に来なくなってから1週間が経過している。
「大丈夫だオニィ。俺が杜夫を学校に戻れるようにしてやる。」
「真樹…。」
「そのためにはまず、害虫を駆除しないとな。」
不敵な笑みを浮かべながら慶にそう話す真樹。彼の計画は水面下で順調に進んでいるのであった。
こんにちわ。
今のところ、真樹の計画は順調ですね。
これからどのように動き出すのでしょうか?
次回をお楽しみに!




