第4話 部活は至福
おはようございます!
今回は真樹の部活動でのお話しです!
大谷津学院にも勿論部活動は存在する。ただし、進学校且つ元々が女子高なので運動部もあるが文化部の方が盛んだ。特に有名なのは書道部と吹奏楽部で、女子高時代から全国大会の常連である。他にはダンス部、バトン部、美術部等などがコンクールで実績を残している。その後、共学化に伴い部活動でも男子の受け入れ、新しい部の設立などが行われたが、慶が所属する陸上部や杜夫の所属する写真部は男女共同である(ただし、それでも女子部員が大多数)。そして真樹の所属する野球部と裕也が所属するサッカー部は男子生徒獲得のために新たに創設された部で歴史は浅い。なので県大会ではそれほど実績はない、むしろ弱小なのだがそれでも真樹はそんな野球部の練習が好きだった。そして、今日は数少ない練習日である水曜なので放課後のグラウンドで練習に勤しんでいた。
「48,49,50!ふぅ…。」
真樹達野球部員はランニング、キャッチボールを終えて素振り練習に入っていた。少ない練習時間を無駄にしないよう、部員たちは真剣に取り組んでいる。そして、素振りを終えた所で部員たちは集められた。
「よーし、全員集合だ!」
声を掛けたのは野球部顧問である関屋賢一である。普段は数学を担当しており、大谷津学院では数少ない男性教師の一人だ。彼は共学化されると同時にこの学校に赴任してきたのだが、野球部設立の際に自身が野球をずっとやっていたため自ら顧問に名乗り上げてくれた。因みに年は27歳で真樹の担任である立石より1年後輩である。
「みんな、秋の新人戦や選抜に向けての秋季大会も近い。だからこれからはより実践に近い練習をしていこうと思う。3年がいなくなった今みんなが部の力にならなきゃいけない時だ!」
「「はい!!!!」」
現在野球部は2年生7人。真樹達1年生6人の13人である。前の3年生が引退する前でさえ20人ギリギリだった今、残された下級生達で何とかするしかなかった。その後、ノックの時間が始まった。まず2年生が先に受け、その次が1年生なのだが、照明設備が無い為夕方になると球が見え辛くなる。そんなこんなで苦労が絶えないのだが、真樹の番がやってきた。
「次、湯川!」
「はい!」
元気良く返事をしてノックが始まった。関谷の方も秋の大会にかなり掛けているようでノックにも力が入っており、鋭い打球をガンガン打ちこんでいる。しかし真樹は臆することなくどんどん球を取っていき、終わってみればノーエラーだった。
「いいぞー、湯川!秋の大会もその調子でいけ!」
「ありがとうございました!」
関谷に一礼をして真樹は下がってゆく。そして、戻ってきた所で声を掛けられた。
「調子よさそうだな、真樹。」
日焼けした肌、大きく開いた力強い目つきで背の高い部員だった。彼の名は中山伸治。真樹と同じ一年生部員で、関谷が期待している左ピッチャーである。
「ああ。夏は3回戦で負けたけど、今度こそ俺は選抜出たいからな。」
「気合いっぱいだな。でもこの人数と、それに千葉はレベル高いしな。生半可な気持ちじゃ無理だぞ。」
「分かってる。だから少ない練習時間を無駄にしちゃいけないんだ。」
大谷津学院は毎年夏の大会に出場しているもののいつも3回戦止まりで、今年も例に漏れなかった。部員がギリギリで真樹は1年生ながらファーストのレギュラーに抜擢されて大会ではヒットと打点を記録したものの、3回戦で強豪校に当たってしまい、コールド負けを喫してしまった。そしてその高校がそのまま甲子園へ進んだのだった。
「しかし、吹奏楽部の応援が来ないのは寂しかったな。」
「いいよ別に。女子しかいない部に来られても鬱陶しいだけだし。お陰でこっちは打席に集中できてむしろ助かっているよ。」
寂しそうに言う伸治に対して真樹はそう答える。甲子園の常連校は吹奏楽部も全国クラスというケースは多いが、大谷津学院野球部の応援には全国クラスの吹奏楽部はおろか、チアリーディング部すら来た事が無い。理由はどちらもコンクールに専念したいとのことだったが、そのため大谷津学院の攻撃時のみ球場が静かになると言う異様な風景になり、一部では「サイレント応援」として名物になっている。
「どこまで女嫌いなんだよ、お前は。俺も100%嫌って訳じゃないけどやっぱりうちだけ静かだと悲しいわ。」
「うるさい方が集中できるのか?」
「そうじゃないけどさ。でも、お前ももう少し女性に心開いたらどうだ?聞いた話だと、鬼越以外の女子としゃべったことないんだって?」
「今に始まった事じゃない。それに、それほど困っている訳じゃない。」
「でもここ、女子の方が多いじゃん。俺も彼女が欲しい…とまでは言わないけど女子とは仲良くやっていきたいな。」
「それは伸治の自由だ。俺はご免だけどな。」
真樹の女嫌いは部の全員が把握しており、今の伸治同様辟易させられる部員も多い。確かに野球部はできて日が浅い部であり、部員の殆どが野球部は女子に注目されていない事も知っている。ただし、伸治同様女子とは仲良くしたいと思っている部員が大半で、女子生徒をここまで露骨に拒絶しているのは真樹位なものである。その後、ノックを終えた部員たちは最後にフリーバッティングを行った。打撃投手として伸治が呼ばれ、マウンドからどんどん球を投げ込んで行く。そして、真樹の番が来た。
「中山、湯川!グラウンド使用可能時間が迫ってきた。残りわずかだから、全力でやってけ!」
「「はい!」」
関谷に言われて、伸治はマウンドから渾身のストレートを投げ込み、真樹はフルスイングで振り抜いた。ジャストミートした打球はどんどん外野へ伸びて行き、完全にホームランコースで植え込みに落ちて行った。
「よし、二人ともいいぞ!本大会もその調子でな!」
関谷は部員たちの状態が思ったより良好なのが分かり、少し嬉しそうだった。その後、日が沈んで中は暗くなり、グラウンドの使用可能時刻である18:00になった所で練習終了。部員たちは一度教室に戻って着替え、下校して行った。
「しかし、すげーバッティングだな。このままいけば真樹はクリーンアップ確実だな。」
「伸治の球も重かったな。本大会は絶対に抑えてくれ。」
真樹と伸治はそんな会話をしながら学校を後にした。そして、伸治は気になっていた事を真樹に聞いた。
「なあ、真樹。」
「何?」
「お前、いつも楽しそうだけど、そんなに野球好きで実力もあるならもっと強い学校にも入れたんじゃないか?どうしてここを選んだんだ?」
部員が少ないとはいえ、真樹の実力は確かである。伸治の疑問は誰もが思う事だったのだが真樹は真顔で答えた。
「野球部が楽しいのは勿論だよ。だってここなら女子と関わらずに済むからね。だけど、ここに来た理由はもっと重要な意味があるんだ。」
「何だよそれは?」
「簡単だよ。優秀な女子生徒が集まるうちの学校で男子がそれらをぶっ倒す。そうしたら爽快じゃない?」
不敵な笑みを浮かべながら語る真樹の前に、伸治は「お、おぅ…。」としか言いようがなかった。
おはようございます!
大谷津学院の部活事情を書いてみました。
今回は女史との対決はありませんでしたが、そろそろ書いてみようと思います。
それではまた次回!