第43話 だから言っただろうが
こんにちわ!
さあ、いよいよ問題のデート当日。
杜夫はどうなるのでしょうか?
デート。英語表記ではDateとなり、本来は日付を意味するものであるが、男女が二人で出掛けることという意味でも広く使われ、定着している。主に交際中の男女が二人で遊びに行くことを指すことが多いが、交際前の男女が付き合うきっかけとしてデートすることもある。初めてデートするという場合、緊張する者も少なくは無いが、今ここにも人生発デートを目前に緊張している者がいた。
「はぁ…まだかなぁ?すげードキドキする!」
そう、杜夫である。彼は今、印西市の千葉ニュータウン中央駅にて、ここ一週間連絡を取っていた女性、ユキの到着を待っていた。真樹同様、女性から無碍に扱われていた杜夫はずっと女性と親密になり、やがては彼女を作ることを熱望していた。彼は手紙をもらってから恋愛マニュアルを読み漁り、密かにデートから告白までの流れを彼なりに勉強していた。髪型も服装もユキの好みに合わせ、普段の彼だったらまず気ないだろうという黒を基調としたロックな感じの服装をしている。髪の毛も整髪剤で逆立てている徹底っぷりだ。
「とにかく真樹達に分からせてやる。ユキちゃんはありのままの俺を受け入れてくれた天使みたいな子だって!そして同時に、非モテともお別れだ!」
多くの人が行き交う駅の改札口で、彼はそんなことを口にしながらユキが来るのを待ち続ける。試しにトークアプリを開き、メッセージを送信すると…。
『ユキちゃん、俺もう着いたよ!今どの辺?』
『ごめん。もうすぐ着くから待ってて!』
返信はすぐに来た。どうやらもう近くにいるらしい。心拍数を更に上昇させながら、杜夫はユキがいないか辺りを見渡した。写真は以前送ってもらっていたので顔は知っているものの、実際に会うのは初めてだ。そんなこんなで杜夫が待っていると、突然方を叩かれた。
「杜夫君。」
女性の声がして振り返る杜夫。そしてこの後、彼の身にとんでもないことが降りかかるとは誰が思ったであろうか…?
一方、こちらは真樹の自宅。彼は家のテレビでプロ野球のデーゲームを見ていたのだが、試合を見る一方、やはり杜夫のことが気になって仕方が無かった。
「あいつ、今日デートか。正直言って哀しい結末しか予想できないが、どうしているのかな?」
手紙が杜夫の靴箱に入れられている所を真樹も一緒に見た。真樹は怪しいから何度も無視するよう促したが、異性への欲求が肥大、暴走している杜夫は全く真樹の忠告を聞こうとせず、相手の正体が分からないままユキとやり取りを続け、すっかり付き合った気でいた。真樹はデートを阻止しようとしたが、杜夫はデートの邪魔をされたくないと場所は一切教えなかった。なので、こうして家で待っていることしかできない。その後、試合を見終えた頃には時刻はすでに夕方になっていなので、真樹はそろそろデートが終わったと見越して杜夫にメッセージを送った。
『おーい、杜夫。どうだったんだよ?』
そうメッセージを送った真樹。だが、しばらく待っても変身が来るどころか既読すらつかない。そんな様子を見て真樹はますます嫌な予感がしていた。
「真樹ー、ご飯だよ!」
「うん、今行く!」
結局杜夫から返信が来ること無く、真樹は多恵に呼ばれて夕食を食べる。書奥後もケータイを確認したが、やはり既読がつかないままだ何の応答もない。結局、寝るまで様子を見たものの、この日に杜夫から真樹に返事が来ることは無かったのだった。
翌日。
「全く応答なしか。やっぱり、よからぬことが起きたに違いない。」
週が明けて、真樹は登校すべく朝の成田駅にいた。結局朝になっても杜夫から何の返信も無かったので、真樹は恐れていたことが起きてしまったのではないかと不安になっていた。そう思いながら改札を出ると…。
「真樹!」
大きな声がしたので振り返ると慶がいた。しかし、いつものニコニコ笑顔ではなく、血相変えて焦っているようだった。慶は真樹に駆け寄って続ける。
「大変だよ真樹!ちょっと、これ見てよ!」
慶は慌てた様子でスマホを起動させ、あるページを開いて真樹に見せる。それを見た真樹は思わず目を見開いた。
「やはり、こうなったか。クソ…やはりあの時、身体張ってでも止めるべきだったか。」
悔しそうな顔をしてそう呟く真樹。慶が開いたページには、『クソダサキモ男、告白ドッキリに引っかかる(笑)』とのタイトルの掲示板があった。そこには駅で待っていた杜夫の写真の他、杜夫が今までやり取りしていたユキとのメッセージの履歴などが張り出されている。そして、この掲示板の主だあろう人物の、『キモ男が本気でモテた気になって、勘違いしてるのウケる~www』と杜夫を嘲笑するようなコメントが書かれていた。
「まずいよ、真樹…。」
「とにかく、学校に急ぐんだ!」
駅を出た真樹と慶は大急ぎで学校まで走った。教室に入ると、案の定中にいた生徒達がざわついていた。そして、みんなスマホを見ている。
「公津の奴、ガチで真に受けてんの!」
「ウケる~!」
「ダサいくせにちょっと思わせぶりにメッセージ送ったら、本気にしたんだって!」
「キモーい!」
「あんな奴、好きになる子なんていないのに!」
「ざまぁ!」
掲示板の記事を見た女子生徒達は、大笑いしながら杜夫を嘲笑していた。当事者である杜夫はまだ来ていないが、今回の杜夫の件はどうやら既に学校中に広がっていたようだ。
「こ、これは…何でこうなったの?」
一方で、委員長である菅野美緒は唖然とした表情で掲示板を見ている。他の男子生徒達も、化物に遭遇したかような表情で教室内の様子を見ていた。
「くそう、遅かったか!」
「ヤバいよ、ヤバすぎるよこれ!」
真樹と慶は愕然とした様子で、悔しそうに席に付く。そして、担任の立石がホームルームをすべく教室に入ってきたのだが、異様な雰囲気に困惑した。
「みんなおは…よう。何なのこの雰囲気?」
「せんせーい、公津君がまだ来てませんけど、どうしたんですかー?」
一人の女子生徒がからかうような感じで立石に質問する。立石は何が起こったか分からず、混乱しつつも教壇に立って説明をする。
「公津君は体調不良なので今日は欠席です。はい、じゃあホームルーム始めるわよ!」
立石はそう言ってホームルームを始めた。それでも、他の女子生徒達は杜夫をバカにするかのように小声でクスクスと笑い続けていた。そんな様子を見て、真樹の怒りが込み上げない訳が無かった。
(畜生…みんなして杜夫を晒しものにしやがって。後で問い詰めてやる!)
イライラを隠せないまま、この日も授業が始まったのだった。
1限目終了後、真樹は険しい表情で席を立ちあがった。
「真樹、どこ行くの?」
「晒した奴の見当はついてるんだ。今からシバきに行く!」
「ちょ、真樹落ち着いてよ。僕も行く!」
怒り心頭で教室を出る真樹に、慶はなだめながら一緒に付いて行く。二人がやってきたのは1年C組の教室だ。扉に近づき入ろうとした所で、二人は足を止め、目の前の光景を少し驚きの表情で見た。
「これやったの、あなたでしょう?市川さん。」
スマホを掲げながら、委員長の美緒が険しい表情で市川という女子生徒に詰め寄っていた。そして、隣には立石もいる。美緒の前には癖のある長い髪が特徴の気の強そうな女子生徒が腕組みしながら面倒くさそうに壁に寄りかかっていた。
「だから何?」
「とぼけないで!アカウント名がMamakoになっているけど、この学校で真間子なんて名前、あなたしかいないでしょ?」
美緒は更にその女子生徒に詰め寄った。彼女の名前は市川真間子。C組の女子生徒で、気が強くかなり自己中心的な性格だ。自分が楽しむためなら誰かが苦しんでもかなわないという、外道な一面が見られる。正直言って勉強も運動も得意という訳ではないが、カリスマ性があるのか学内に友達は多いようだった。真樹の方もアカウント名から、彼女が犯人であることは見当がついていたが、そんな真間子に対し、立石も厳しい表情で問う。
「ねえ、市川さん?本当なの?どうしてこんな事したの?」
立石がいつになく怖い顔をしながら真間子を問い詰めたが、当の彼女は全く罪悪感が無いのか、溜息交じりで退屈そうに答えた。
「いいじゃんか、別に。最近退屈だったから、私が気に入らなかった奴を公開処刑したまでだ。」
「やっていいことと悪いことがあるでしょ!名誉棄損じゃない、これ!」
美緒もさっきより顔を強張らせて問い詰めた。一方真間子には反省の色が一切見えず、更につけ上がった。
「うるせぇな、いちいちよ!あんなダサくてキモい奴、晒して何が悪いんだよ?あんなのが一人や二人いなくなったって悲しむ奴いないし、寧ろみんな喜ぶから。それとよ、菅野。てめー、いい気になってんじぇねえぞ!委員長だか、バレー部のレギュラーだか何だか知らねーけど、てめーの事も気に入らねぇんだよ!」
そう言って真間子は美緒に掴みかかる。慌てて立石が仲裁に入った。
「やめなさい、二人共!市川さん、あなたって子はどこまで反抗的で自分勝手なの?」
入学当初から真間子の生意気な性格を立石は好きではなかった。一方、真間子の方も気に入らない人間に対しては酷い態度をとるものの、人脈があるので自分の居場所を確立している。
「勝手に騒いでろよ。私は今はただ、嫌いな奴が苦しむのを見ながら楽しみたいだけなんだからさ。ってことで、次はお前だぞ、湯川!」
真間子は近くに来ていた真樹と慶の方を振り向きながら言い放った。真樹も負けじと軽蔑の視線を送るものの、真間子は狂気じみた笑顔で自信満々に言う。
「お前は前から気に入らねぇ。男のくせに女子に反抗的な態度とってよ。行っとくけど、私含めて女子みんなあんたの事大っ嫌いだから。公津の次はお前を晒しものにして居場所なくしてやろうか?ハハハハ!」
「ふん。勝手に言ってろ。俺だってお前みたいないじめっ子気質の女嫌いだし。最後に負けるのはお前だから覚悟しな!」
移植即発の雰囲気が漂ったが、真間子は何事もなく笑いながら教室に戻って行った。そして真樹の方も心を決めた。市川真間子だけは絶対に許さない…と。
とんでもないことになってしまいました。
デート当日、彼に何が起きたか?
杜夫の運命はどうなるのか?
次回をお楽しみに!




