第41話 最後通告
おはようございます!
真樹は心配していますが、杜夫の方はどうしているのでしょうか?
杜夫宛に届いた、謎の人物ユキからの手紙。真樹は初めから怪しいと思い、杜夫に無視する事を何度も忠告したが、当の本人はいまだにそのユキという女性とやり取りを続けている。そしてこの日も、杜夫は学校から帰るとすぐに部屋に駆け込み、スマホを起動させてトークアプリを開いた。
「ユキちゃんからのメッセージは…お、来てる来てる!」
真樹はベッドに寝転がってユキから届いたメッセージを確認する。手紙が届いて連絡先を交換してから、彼は毎日この流れを繰り返している。今ではすっかり杜夫の放課後の楽しみとなっていた。そして、メッセージにはこう書かれていた。
『杜夫君、お疲れ様!もう学校終わった?私はさっき終わって家着いたんだけど、もう疲れちゃったぁ~♡』
それを見た杜夫は微笑みながら返信のメッセージを送る。
『お疲れ様!そうなんだ。俺もさっき学校終わって家着いた所!こっちも授業疲れてもうヘロヘロだよ~!』
『杜夫君もお疲れ様!』
『そうだ。ねぇ、ユキちゃんの写真見せてもらってもいい?俺のも送るから!』
そう言って杜夫は自分の顔写真をトークページに張ってユキに送った。やり取りをしてもう4日になるが、杜夫は雪の顔を知らなかった。なにせユキのアイコンは猫の写真であり、本人の顔じゃなかったからだ。しかし、杜夫は女の子とやり取りができるだけで嬉しいと舞い上がっていた為当初は気にしていなかった。そんな杜夫はユキがどんな人物か段々と気になっていた。写真を送った後、すぐにユキから返信が来る。
『ありがとう!いいわよ、これが私の写真ね!』
そう言ってユキは写真を杜夫に送ってきた。そして、それを見た杜夫はというと…。
「か、可愛い!清楚系アイドルみたいだ!ほ、本当に俺がこんなかわいい女の子とやり取りしているなんて…神様を信じていてよかった!」
送られてきた写真には、プリクラの写真を拡大したと思われるものだった。そこには、色白で目がパッチリ二重の今時風で可愛らしい少女が映っていた。杜夫にはドンピシャのタイプだったようで、彼はベッドでとび跳ねながらそう叫んでいた。
『すごく可愛いね!アイドルみたいだよ!』
『そう?嬉しいな!杜夫君も優しそうな顔だね!』
『いやいや…そんなこと言ってくれるのユキちゃんだけだからすごく嬉しいよ!』
杜夫は今まで、同年代の女性からあまりほめられたことが無かったので、女の子から自分への肯定的な意見を言われたことが嬉しかった。そして、杜夫は今までで一致番言いたかったことをメッセージで送った。
『あの、さ…。』
『何?』
『今週の日曜暇?』
『うん、空いてるよ!』
『じゃ、じゃあ…よかったら映画でも見に行かない?』
杜夫はユキをデートに誘おうとした。今まで女子と遊んだことが無かった杜夫は、なんとがデートにこぎつけようと、メッセージ送信後に祈るような気持ちで目をつぶった。そして、すぐに返信が来て、恐る恐る目を開けると…。
『いいわよ!私も杜夫君と一緒に遊びたいし♡』
と、杜夫の誘いにユキは乗ってきたのだった。
「キタァァァ!」
ベッドの上で大声で叫びながら、杜夫は立ちあがった。
「やった!俺の人生初デートだ!今まで女子からガリガリだとか、キモオタとか言われて馬鹿にされ続けて、非モテ街道まっしぐらだった俺が遂にデートだ!しかも、こんな可愛い子と!これで、俺もリア充の仲間入りだ!」
今までにない位ハイテンションではしゃいだ杜夫。その日の晩、彼はユキのことで頭がいっぱいになり、眠れなかったのは言うまでもない。
翌日…。
「なぁなぁ、真樹!聞いてくれ!俺、今度ユキちゃんとデートする事になったんだ!」
朝の教室で杜夫は目を輝かせながら真樹にそう言った。真樹はその言葉に一瞬顔を顰め、後ろにいた慶は唖然としている。そして、真樹は険しい表情で杜夫に言った。
「ユキがどんな人物なのか分かったのか?」
「ああ、写真も送ってきた!」
「見せろ。」
真樹はそう言って杜夫にユキが送ってきた写真を見せてもらった。プリクラの拡大写真を見た真樹はさらに険しい表情で杜夫に言う。
「お前、こんな写真を信じたのか?」
「信じるもなにも、ユキちゃんから直接送られてきたんだぞ!間違いないって!」
「ユキは大谷津学院の近くに住んでるとか言ってたな。」
「ああ。」
「じゃあ、お前。この写真の人物を学校の近くで見たことあるのか?」
「いや、無いけど…。でもいいだろ、どうせ日曜日に会うんだから!」
杜夫はそう言ったが、やはり真樹には腑に落ちない部分があった。そして、真樹は慶にも写真を見せて問いかける。
「どうだ、オニィ。この写真の女を学校近くで見たことあるか?」
「いや…僕の記憶が正しければ見たことない子だね。それに、学校の近くに住んでるんだったら一回くらい見かけたことあるはずだし、可愛い子だったら頭に残りやすいと思うけど…。全く見かけないのって確かに変かも。」
慶の言葉に真樹は完全に同意していた。手紙が来てから数日間、登下校の際に写真に写ってる人物に該当する者を真樹と慶は見かけていない。そして何より、ユキが代理で杜夫に手紙を渡すように頼んだ人物も名乗り出ないのは不自然だと二人とも思っていた。そう考えている時に、慶の方も難しい顔で話し始める。
「あと、向こうは杜夫の顔を知ってるんでしょ?近くに住んでて、尚且つ杜夫のことが気になるんだったら放課後校門で待ち伏せて話しかけることもできたし、やり取りしてるんだったら待ち合わせて合うこともできたはず。なのにこれだけ親しくやり取りしてるのに一切表に出て来ないのはやっぱりおかしいよ。」
「恥ずかしがりやな子なんだろ!みんながいる前じゃ緊張するから、メッセージのやり取りをしているんだよ!」
慶が不自然に思っていることを伝えても、舞い上がった杜夫の頭の中では本人の都合よく変換されてしまう。そして、そんな杜夫に業を煮やした真樹は目を吊り上げながら警告した。
「なぁ、杜夫。この写真がユキ本人だっていう確証は無いし、そもそもユキって人物が存在するのかも分からない。それにさっきオニィも言っていたように不可解な部分が多すぎる半面、不自然なくらいお前の都合よく回っている。悪いことは言わない。もうやり取りするな。それと日曜日会いに行くのもやめろ。多分、お前にとって悲劇的な結末が待っているぞ。」
真樹は若干苛立ちが混じった様な口調で杜夫にそう言った。真樹もユキの正体が特定できないことの焦りを覚えており、手掛かりがつかめない以上もう杜夫を説得してユキとのやり取りをやめさせる以外の方法は無いと思っていた。しかし、杜夫は真樹の忠告を聞いた瞬間顔を強張らせて…。
「何なんだよ二人共!そんなに俺に彼女ができるのが気に入らないのかよ!鬼越はともかく、女嫌いの真樹には分からないだろうな、恋するモテない男の気持ちなんて!このチャンスを逃したら、俺は二度と彼女を作って将来結婚することもできないかもしれないんだぞ!そんなのは絶対に嫌だ!見てろ、ユキちゃんのハートを射止めて疑いなんか全部晴れさせてやる!」
突然怒り出してしまった。その様子を見て真樹と慶は何が起こったか分からず、ポカンと口を開けたまま立ちつくしていた。そんな中、真樹は何かを感じた。
「?!」
「どうしたの真樹?」
「いや、何か変な視線を感じたが…気のせいか?」
「そ、そうなんだ。何だろうね。」
「授業が始まる、座ろう。」
「うん。」
そう言って真樹と慶は自分の席に着席した。真樹は今までの事に疑問を持ちながら、先程自分で警告した悲劇的な結末をどう回避するか考え続けていたのだった。
真樹、杜夫の説得に失敗です。
さて、杜夫はどうなってしまうのでしょうか?
次回もお楽しみに!




