第3話 何が悪い!?
こんばんわ!
真樹たちの学校生活をもう少し書いてみます!
千葉県成田市にある大谷津学院高校は、女子高から共学化したばかりの学校である。女子高時代から偏差値や進学実績は高く、卒業生の殆どは一流大学へ行き、OGにはアナウンサー、キャビンアテンダント、女優やモデルもいるなど女性にとっては憧れの舞台で活躍している者も多い。女嫌いである真樹はあえてそんな学校に通っているが、女子に負けず成績優秀である。しかし、その性格故に反感を買う事も多い。この日も最初の授業で教師である立石を呆れさせ、クラスの女子たちからは陰口を言われる始末だったが本人は全く意に介している様子はなかった。そんな空気が漂う中、午前の授業は終了し、昼食の時間になった。
「真樹、お昼食べよう!」
「おう!」
慶は風呂敷に包んだ巨大な弁当箱を持って真樹の机までやってきた。一方の真樹はごく普通のサイズの弁当だった。
「相変わらずでかい弁当箱だな。胃袋のどこにその量が入るんだ?」
「だって、いっぱい食べて体つくらないと今度の大会は勝てないよ!真樹ももっと食べれそうなのに!」
「俺は大丈夫だ。またデブに逆戻りするの嫌だからな。」
「気にし過ぎだよ。成長期だからたくさん食べたって罰は当たらないよ!」
「お前はオカンかよ。」
他愛もない会話をする真樹と慶。因みに杜夫は下の階にある学食で昼食を取っている。学食を利用する生徒と自宅から弁当を持参する生徒は半々位なので、教室内は普段より静かに見える。そんな雰囲気の中で二人は弁当を口に運んでいたが、ある生徒がそこに近づいてきた。
「ちょっといい?」
黒くて長いストレートな髪の毛、雪のように白くてきれいな肌、パッチリと開いた二重の目をした美人だが気の強そうな女子生徒が二人に鋭い視線を向けながら話しかけてくる。
「丘さん…。」
気付いた慶がその名を呟く。彼女は丘ユカリといい、真樹と慶のクラスメートだ。慶は首をかしげていたが、真樹は気にせず弁当を食べ続けている。
「あんたにも話しかけているんだけど、聞いてるの?湯川君。」
「聞いてるよ。でも今弁当食べるのに忙しいから後にしてくれないかな?」
「なっ…!」
真樹の不愛想な返事にユカリはイラッとした。そして真樹の机の上に手をバンと置いた。
「何?昼飯の邪魔でもしに来たの?」
「あ、あんたのその態度がムカつくって言いに来たの!なによ、ちょっと勉強できるからっていい気になっちゃって!」
「ちょ、ちょっと。落ち着こうよ!」
挑発する真樹に対し、怒りの感情が込み上げてきたユカリは正に一食触発状態。周囲は少しざわつき、慶は慌てて仲裁に入る。
「鬼越さん以外の女子に悪態つき続けてるせいでクラスの雰囲気が悪くなっているの。いい加減やめてもらえる?」
「お前らが勝手に言いがかり付けてきてるだけじゃん。嫌なら俺に構うなよ。」
「あ、あんたって奴は…!」
ユカリの心の中はもうすでに噴火寸前だった。真樹は相変わらず軽蔑の視線をユカリに送り、慶はアタフタしている。戦慄の雰囲気が立ちこむ中…。
「丘さん、湯川君!二人とも何喧嘩してんのよ!」
どうやら誰かが職員室に状況を知らせたらしく、担任である立石が険しい顔をしながら入ってきた。
「もう、何でいつもケンカするのよ!あなた達揉め事起こす為に学校来てるんじゃないんでしょ?!」
「だって、湯川君が…。」
「こいつが昼飯の邪魔するから…。」
「言い訳しない!」
立石は厳しい顔で真樹とユカリを一喝する。流石に二人もこれには負けたのか、小声で「すみません」と謝るしかなかった。
「あんまり揉め事起こさないでよね。せっかく同じ学校に入ったんだから楽しい学校生活送れるようにしなさい!」
立石はそれだけ言うと教室から出て行った。そして、ユカリの方も呆れ顔で真樹達に背を向ける。
「全く…何でよりによってあんたみたいな男子と同じクラスになっちゃうのよ。」
ユカリはそう言って自分の席に戻っていき、慶はホッと胸をなでおろす。
「はぁ、心臓に悪かった。」
「とんだ昼休憩だ。」
真樹は不満そうにそう呟く。すると、慶が頬を膨らませながら真樹に言った。
「もう、丘さん相手に火に油注ぐとか勇者だよ勇者!その勇気をもう少し別の事に使おうよ!」
「皆が言えないから俺が代わりに言ってやったのに。」
真樹は溜め息交じりに慶にそう呟く。ユカリは美人で成績も良く、教師陣からも評判の生徒だ。一方かなり負けず嫌いの上に気が強く、物事をはっきりという性格である。典型的な優等生タイプ故に真樹の日頃の態度に苛々していたのかもしれないが、真樹には知る由も無かった。
「ういーっす。あ、あれ…何この雰囲気?」
学食で昼食を取っていた杜夫が教室に戻ってきたのだが、その異様な空気に困惑していた。そんな空気を残したまま昼休みは終了し、午後の授業が始まったのだ。
「じゃあ、俺今日部活だから。」
「うん。僕は帰るね!」
「じゃあな~真樹。」
真樹を残して慶と杜夫は帰っていった。野球部に所属している真樹だが、大谷津学院は進学校故に運動部の設備があまり充実していない。そして元々女子高なので野球専用設備などあるはずもなく、校庭での基本練習が主である。更に練習日も水曜日の放課後と土曜日の午前しか使えないという限られた環境で効率よく練習せざるを得ない。だが、真樹は特に不満も無く練習はを休んだことは一度も無い。そんな真樹はグラウンドへ向かおうとしていたが…。
「おい、湯川!」
男性の声だった。真樹が気がついて振り向くと、そこにはある生徒がいた。
「大和田…。」
女子から人気ナンバーワンであるサッカー部所属のイケメン男子、大和田裕也がいた。
「話がある。」
「部活あるからまたにして。」
そう言って真樹は立ち去ろうとしたが、裕也は駆け足で真樹の前に回り込む。
「待てよ。長くないから。」
そう言う裕也の表情は少し怒っているように見えた。真樹は裕也とほとんど話したことはなく、怒らせた覚えも無いので訳が分からないと思っていると、裕也が口を開く。
「お前、昼間に丘さんに喧嘩売ったよな?」
「それがどうした。」
裕也のクラスは隣だが、どうやらそこまで話は広まっているらしい。真樹はどうでもよさそうだったが裕也は続ける。
「あんな綺麗で優秀な子なのに、よくそんなひどい事できるよな。」
「話が見えん。それに先に喧嘩売ってきたのは向こうだ。」
真樹も反論したが、どうして裕也が怒っているのかまでは理解できていなかった。
「お前さ、いつも女子に酷いこと言っては雰囲気悪くしているみたいだな。何で仲良くしようとしないの?」
「仲よくする理由が無い。毎回見てて思うけど、お前はお前で女子に媚び過ぎだ。」
「全く…精神年齢低いな。せっかく共学校に通っているのに女性と接する機会を自ら喧嘩売って断つとか。俺には理解できない。不満があったとしてももう少し優しくできないのか?」
「女子に優しくしたら負けだ。」
「そう言う所を言ってるんだよ!何があったか知らないけど、変な意地張って他の女子に平気でひどいこと言う…相手の気持ちも考えろ!」
「女子の心理なんて知りたくもない。お前はお前で好きにしてればいいじゃん。」
「そんなんじゃ大学や社会人でやっていけないぞ。俺は女性とは仲良く優しくすべきだと思うし、将来恋愛や結婚もしたい。だから、自分で女性と険悪な雰囲気を作るお前が理解できないよ。」
「じゃあするなよ。」
あーだこーだ言いあう二人。そして、真樹が反論した所で裕也は溜め息をつく。
「はぁ、話にならない。お前と同じクラスになった女子が気の毒だよ。じゃあ。」
裕也はそう言ってその場から立ち去って行った。真樹はそれを見てぼそりと呟く。
「俺、あいつ嫌いだわ。」
真樹は裕也を一瞥し、気を取り直して部活へ向かって行ったのだった。
こんばんわ。
殺伐とした雰囲気の上に、長くなっちゃいました。
でも、裕也君に始めたセリフを与えられてよかったです。
それではまた次回!