第35話 そこまでだ!
おはようございます!
さぁ、体育祭も大詰めです!
現在秋の体育祭が開催されている、大谷津学院高校。今の所天候に左右されることなく、順調にスケジュールが消化されている。ただ一つのイレギュラーな要素を除いて…。
(ちょっと…、どうなってんのよこれ?)
そう心の中でぼやいたのは1年A組の体育祭実行委員の女子生徒だ。彼女は先ほど仲間の実行委員たちと共に、化学火傷を起こす液体を大縄の持ち手に染み込ませ、回す係だった真樹の手を爛れさせようとした。真樹は何のためらいもなく縄を持ち、競技中手放すことなく回していたのだが、手を痛がっている様子も、保健室に行く様子も見られなかった。加えて先程まで行われていた2年生女子の障害物競争、3年生による二人三脚も涼しい顔で観戦していた。そして今…。
「おらぁぁ!公津杜夫、玉入れくらいは活躍してやる!」
「僕も頑張るよー!えいっ、えいっ!」
「楽勝だ。野球部のスローイングを舐めてもらっちゃ困る!」
1年生による紅白対抗玉入れ対決が行なわれているのだが、真樹は何食わぬ顔で参加し、手で球を鷲掴みしながら杜夫、慶達と共に楽しそうに参加している。まさか真樹が透明なゴム手袋まで用意し、化学火傷を回避していた等考えもしていなかった。ちなみに、この勝負は紅白対抗ということもあり、最初にA組とB組、2回戦にC組とD組が対決する。初戦が終わり、真樹達A組がC組と交代しようと下がった時…。
「湯川君。」
「…。何?」
「手に砂が付いているわよ。」
実行委員の女子が真樹にそう声をかける。競技前に確認できなかった真樹の手の様子を見る為だった。真樹は手に着いた砂を払いのけたのだが、無論その時実行委員が見た真樹の掌は火傷どころか傷一つ付いていなかった。
(な、何でよ。化物なの、こいつ?)
「何だよ、払いのけたからこれでいいんだろ?」
「ふ、ふん。いいわよ!」
驚く実行委員に喧嘩腰でそう言った真樹はさっさと下がってしまった。その後、C組とD組の玉入れ対決が終わったのだが、入れた球の合計は真樹達紅組の勝利で終わったのだった。
「ちょっと、あいつ無傷だったわ!」
「意味が分からない!」
「何で、何でみんな失敗するのよ!」
「どうすんのよ?もう競技中に仕掛けられるのが無いわ!」
ここは校舎の裏にある体育倉庫。実行委員の女子達は企てた作戦がすべて失敗し、完全に焦っていた。因みに、先程の玉入れではどさくさに紛れて真樹の足を技と踏み、負傷させようと考えていたのだが、真樹は少し離れた所から球を入れていたのでこっそり踏むことも出来ず、結局失敗に終わっていた。
「こうなったら、湯川の今までの醜態をマイクで喋りまくってさらし者にするとか。」
「恥ずかしすぎるわよそんなの!むしろ私達がさらし者になってるじゃない!」
考えがまとまらず、苛立ちが頂点に達しようとしている1年実行委員の女子生徒達。そんな彼女たちの元に、意外な人物が現れた。
「やっぱり、そう言うことだったのね!」
女性の声だった。驚いた4人が振り返るとそこにいたのは…。
「菅野さん…?」
「美緒、何でここに?」
1年A組の学級委員長、菅野美緒が仁王立ちしていた。美緒は4人に対して、目を吊り上げて怒ったような表情で睨んでいる。そして、そっと近づきながら言った。
「1年男子が出る競技だけ、なんか変な雰囲気がすると思ってたけど。これはどういうことなの?」
「わ、私達はただこの体育祭を楽しく進行させたいと思って…。」
「そう、そう!だから余計なものを取り除こうとしただけ…。」
「それって、俺のことでしょ?」
その声を聞いて、実行委員はさらに驚いた。なんと美緒に続いて今回のターゲットだった真樹まで現れたのだ。そして、真樹の方も美緒がいたことが予想外で驚いていた。
「何で菅野がここにいるんだ?」
「私もこの異様な雰囲気が気になってね、ちょっと探りを入れようとしたらこうなってたの。」
そんな美緒を見て、真樹は怪訝な表情を浮かべる。何事もなく平然と現れた真樹を見て、実行委員の女子達は一斉に非難を始める。
「あ、あんたが来るせいでせっかくの体育祭が大無しよ!」
「そうよ。いっつも雰囲気悪くするくせに、体育祭まで険悪な雰囲気にしないで!」
「女性の敵、今すぐ帰れ!」
「みんなあんたの存在そのものに迷惑してるのよ!」
例によってかなり理不尽な文句の言われようだった。だが、真樹は普段から文句を言われ慣れているので特に臆せずに冷静に切り返す。
「やっぱりお前ら、俺のことそう思ってたんだな。よかった、口に脱脂綿仕込んでおいて。お陰でお前らが用意したコーラを飲み干さなくて済んだわ!」
「だ、脱脂綿?!だから下剤が効かなかったのね!」
「は、下剤?何の事だ?」
「あっ!」
この時実行委員の一人が「しまった」と青ざめた表情を浮かべた。真樹はコーラを飲まなくて済んだと言っただけで下剤に関しては触れていない。むしろ、飲み物に何か仕掛けらあるかもしれないと読んでいただけで下剤とまでは断定していなかったが、苛立つ実行委員が真樹の挑発にあっさりと乗り、墓穴を掘ってしまった。そして、それを聞いた美緒も驚きの表情で問い詰めた。
「あんた達、下剤なんて仕込んでたの?!もしそれを他の生徒が飲んで体調崩していたらどうするつもりだったのよ!」
「ち、違うの!これはただの手違いで…!」
手の内がばれてしまい、実行委員たちは完全にアタフタしている。そして、真樹はされに彼女たちを牽制するためにある事を云った。
「それとお前、さっきから俺右手を気にしているみたいだったけど何かあるのか?」
「な、何でもいいでしょ!」
同じクラスの実行委員に対し、真樹はそう問いただした。実は真樹は大縄跳びの後、実行委員が自身の右手の方に視線を注いでいるのに気付いていたのだ。案の定はぐらかされたので、真樹は溜め息をつきながら呆れ声で言う。
「まあ、いいや。俺ちょっと潔癖だからな。縄跳びの時透明なゴム手袋用意してて良かった。」
「ゴム手袋なんて付けてたの?お前エスパーかよ!どおりで手が爛れてない訳ね!」
「やっぱり縄の持ち手に細工してたんだな!」
苛立ちが頂点に達し、もはや完全に冷静さを失ってしまった実行委員たちはまたも墓穴を掘ってしまった。本当は真樹の方も持ち手から漂う異臭で仕掛けがある事に感づいていた。だが、基本的にあまり信用されていない真樹は自分がいくら主張したとしても無駄だと思い、向こうに自白させるべく牽制をかけていたのだ。真樹の作戦は見事なまでに成功したのだった。そして、それを聞いた美緒がさらに目を吊り上げて問いただす。
「手が爛れる?どういうことよ!あんたたち、そんな危険なことまでしてたの?どっちが雰囲気悪くしてんのよ!」
これにはさすがの美緒も完全におかんむりだった。一方の真樹はしてやったりの表情で続けた。
「もうお前たち、言い逃れはできないな。今度俺を嵌めたかったら、もっと巧妙な罠を仕掛けるんだな。」
勝ち誇ったように笑顔を見せる真樹に、実行委員の女子は悪あがきといわんばかりに激しく真樹を怒鳴り散らす。
「ふん、いい気になるなよ湯川!」
「いくらあんたが言ったって、敵だらけのあんたじゃだれも信用しないわよ!」
「そうよ、そうよ!私達が何もしてませんって言ったらそれで終わりよ!」
「ざーんねん!」
しかし、真樹は不敵な笑みを浮かべる。隠ぺい工作される事など、真樹はお見通しだった。そして、こっそりポケットに忍び込ませたスマホを取り出して言い放った。
「あ、今のやり取り全部録音したから。お前らが隠ぺいしないとでも思ったか!観念しろ!」
もはや勝ち目が無くなった1年実行委員の女子達は愕然とした様子でその場に膝をついてうなだれた。そして、勝利を確信した真樹はようが済んだとばかりにその場から立ち去ろうとし、美緒がそれに続く。そしてむしろにいる美緒に問う。
「おい、菅野。」
「何よ。」
「どうして俺の味方をした?」
「いきなり何なの?」
「お前も俺のこと嫌いだから、奴らに肩入れして隠ぺい工作することもできたはずだぞ。どしてそうしなかったんだ?」
思えば、体育祭の出場種目を決める時も真樹と美緒は衝突していた。正直言って美緒も他の女子と同じように真樹と仲良くないし、美緒も真樹を面倒な存在だと思っている。しかし、今回は結果的に真樹の味方の付く形になってしまったので、真樹は不思議がっていた。
「正直言えば湯川君のことは鬱陶しいと思ってる。だけど、やっていいことと悪いことがあるでしょ?私は運動部だから、やっぱりフェアなやり方じゃないと許せないの。さすがに今回はやり過ぎよ。一歩間違えれば無関係な人まで危険に晒している訳だし。それに、こう見えて学級委員長だから、やっぱり不正があれば正さないといけないと思った訳。それだけよ。」
美緒はそれだけ言うと真樹を追い抜いて先に太行く場所へ駆け足で戻って行った。真樹も悪事を見事に暴くことができて少し満足気だった。こうして裏でお五めいていた黒い陰謀は打ち砕かれ、大谷津学院の体育祭は平和なままクライマックスを迎えようとしていた。
こんにちわ。
実行委員が見事に成敗されました。
そして、体育祭もいよいよラストスパートです!
次回もお楽しみに!




