第34話 続く猛攻
こんにちわ!
体育祭も後半戦です!
大谷津学院の体育祭は午前中の競技をすべて終え、いよいよ午後の競技に入る。後半戦最初の競技は3年生による綱引き対決で、3本勝負だったが、紅組が一歩も許さず完封勝ちだった。その後、2年生による騎馬戦を終え、いよいよ問題のあの競技に入った。
「さあ、行くわよ!みんな、今こそクラスの結束を見せなさい!」
そう高らかに言ったのは立石だ。今から始まるのは、真樹が因縁ばかりつけられて練習中終始険悪ムードだったクラス対抗大縄跳びだった。とはいってもクラスが険悪ムードなのはいつものことなので、真樹は相変わらず面倒くさそうに「早く終わらないかな」と思いながら競技が始まるのを待つ。
「真樹、頑張ろうね!僕も一生懸命飛ぶから。」
「ああ、任せろ。」
慶が真樹に優しく声を掛け、真樹は自信気に頷いた。そして、気合が入っているのは二人だけでなく…。
「よーし、俺も頑張るぞー!引っかからずに飛べれば俺の好感度も少しは上がること間違いなしだ!」
相変わらずモテを狙っている杜夫が闘志を燃やしながらスタンバイしていた。m先はそんな杜夫を見て少し呆れながら、縄の持ちての所に立った。そして、ふと隣を見るとB組の所にイケメンの大和田裕也がいた。彼は縄の真ん中あたりに多数の女子生徒に挟まれるような感じで立っている。
(湯川。お前の所にだけは絶対負けないからな。うちに様に中のいいクラスの団結力ってやつをみせてやる。まぁ、回すのに失敗して女子生徒達から攻められる光景が目に見えているけどな。)
(勝手に言ってろよ。お前は俺のことなんかより自分のクラスの事でも考えてろ。)
心の中でけん制し合う二人。緊張ムードが漂う中、放送席から大きなアナウンスが流れる。
『それではみなさん。準備はよろしいでしょうか?回す係の方は縄を持ってスタンバイお願いします。』
そう言われて飛ぶ係の生徒は心の準備を整え、真樹を含む回す係の生徒は縄を手に持って各生徒達の様子をうかがう。隣のBクラスの女子生徒達は裕也と距離が近い者は嬉しそうにしており、距離が離れている者は羨ましそうにしている。良くも悪くも慣れ合っているようだ。A組は相変わらずピリピリモードだが。
『それでは始めます!よーい、スタート!』
スピーカーから始まりの合図が流れ、全クラスが一斉に縄を回し始める。順調に飛ぶクラスもあれば、すぐに失敗してしまったクラスもあるが、真樹達Aクラスは今のところ問題なく飛んでいる。真樹も一生懸命回し、少しでも記録が伸びるように踏ん張った。しかし、実はここにも恐ろしい罠が仕掛けられていた…。
競技が始まる少し前、体育祭実行委員の1年女子達は縄を持ってくるために、体育倉庫へ向かおうとしていた。
「じゃあ、縄取ってきまーす!」
A組の実行委員が立石にそう言い、立石はそのほかの生徒達に準備をするように喚起していた。そして、体育倉庫に着いた実行委員蜂は集まって何やら話し始める。
「みんな、次こそ失敗は許されないわ。例の物は持ってきたわね?」
「ええ。」
「勿論。」
そう言って実行委員たちはポケットから小さな瓶を取り出した。中には透明で粘度がある液体が入っている。
「今度ばかりはあいつも気付かないわ!」
「これで湯川を物理的にも痛い目に合わせられる!」
「ざまぁないわね!」
そう言って実行委員たちは縄の持ち手部分に液体をかけ始める。持ち手部分は滑り止め用のウレタンで覆われているので、すぐに液体が染み込んでいった。
「みんなが使い古しの液体入りスマホケースを持ってて助かったわ!こんな事に役に立つとは!」
「手が爛れれば競技続行は不可能。ついでに部活も出来なくなってあいつはもうおしまいよ!」
そう。今彼女達がかけている液体は、スマホケースから抽出したものだ。キラキラしたラメと液体が入ったスマホケースは女性から人気であるが、中の液体が漏れて皮膚にかかり、炎症を起こすという事態も起きている。それを知った実行委員たちは液体が染み込んだ部分を真樹に持たせ、化学火傷を負わせようと企てたのだ。
「ケース一つでもかなりひどい炎症が起きるから、4つ分かければかなり重症化するはず。」
「しかも終わるまで縄を離すわけにもいかないから、もう逃げられないわ!」
「フフフ、あいつがもがき苦しむ場面が思い浮かんできた。」
そんなことを話す実行委員の女子生徒達。やがて、液体が完全に染み込んだのを確認すると、実行委員たちは縄を持ってグラウンドに向かったのだった。
そんな恐ろしい作戦が実行中だが、各クラスは自分達が一番多く飛ぼうと必死になっていた。真樹は液体が染み込んだウレタンの持ち手を持ち、一生懸命縄を回した。ちなみに、予行演習中ではA組は20回以上飛べたことが一度もなく、15回が最高だった。そして、隣のB組は安定して20回前後飛んでいた。ただ、本番中はA組もB組も緊張からかミスが目立ち、なかなか記録が伸びない。制限時間が迫る中、真樹も少々疲れているようだ。
(意外と腕に来るな。だが、ここがラストスパートか。せめて20回は飛べるように気をつけて回そう。)
息を切らしながら、心の中でそう呟く真樹。そんな真樹に声援が飛ぶ。
「真樹!頑張ろう!」
「お前回すのうまいから自信持て!」
「真樹ー、大丈夫だ!息は合ってるから気にせず行こう!」
慶、杜夫、そして同じく回す係の男子である臼井が声援を送る。それを受けた真樹はもうひと踏ん張りしようと思い、一生懸命回し続けた。段々息が合ってきたA組は先程よりも上手く飛び始めた。
「「18,19,20…!」」
こうして遂に練習中一度も届かなかった大台の20回に到達した。そして…。
「パァン、パァン!」
『終了です!只今記録をしております!しばらくお待ちください!』
競技が終了し、場内アナウンスが流れる。そして、記録の測定が終了し…。
『お待たせいたしました!最高記録は32回飛んだ1年C組です!』
その場内放送を聞いて大喜びのC組生徒達。因みにそれ以外の記録は、D組24回、A組20回、B組18回だった。A組の生徒達は練習より飛べたと満足気だったが、B組の方をふと見ると裕也が茫然としている。裕也は真樹にだけは負けたくないと思っているので、かなり堪えた様だ。一方真樹はようやく終わったと言わんばかりにホッと一息つき、実田と一緒に退場して行った。
(フフフ、湯川め。安心しているのもう今の内よ。)
(手の皮剥けて、部活も勉強も、その他生活も苦労しなさい!)
作戦成功を確信した実行委員の女子生徒達は心の中で笑いながら真樹に軽蔑の視線を送っていたのだった。
真樹は待機場所に戻ってくると、すぐに裏の茂みに向かった。そして、ずっとポケットに入れていた右手の握りこぶしをようやく出した。
「今度はそう来たか。全く、自分の感覚の鋭さが恐ろしくなるぜ。」
真樹はそう言うと手を開き、右手にはめていた薄くて透明なゴム手袋を外し始めた。そして、手袋の手のひらの臭気確認をして…。
「俺の手を使いものにならなくするつもりだったが、そう簡単にはいかないぜ。」
そう勝気な感じで言った真樹。幼少期からの経験により、自身に迫る危険を察知する能力にたけている。そして、今回も練習中ずっと険悪な雰囲気だった大縄跳びで何も起こらない訳が無いと読んだ真樹はこっそり持ってきた透明なゴム手袋をはめていた。そして、予感は見事に的中。予行演習の時と比べて、持ち手の臭いが明らかに異なるのに気づいた真樹は「やっぱりな」と思った。
「この後はどう来るかな…。黙っている訳ではないとは思うが…。」
2回目も見事に危機を回避した真樹。しかし、それでも警戒を解かず、残りの競技にも気をつけて挑むことにしたのだった。
こんにちわ。
今回も真樹が見事に乗り切ってくれました。
さぁ、体育祭もいよいよクライマックス。
真樹と実行委員の対決の行方は…?
次回をお楽しみに!




