第32話 VS実行委員
こんばんわ!
迫りくる実行委員を相手に真樹はどう立ち向かうのか?
大谷津学院高校では今、体育祭が盛大に行われている。イベント事が嫌いな真樹も渋々参加しており、先程100m走にも出場したのだが、真樹は競技前も競技終了後も口汚いブーイングを浴びせられてしまった。あまりの状況に困惑する来客をよそに、競技は着々と進行している。
「うぉぉぉ、負けないぞー!僕の力見せてやる!」
現在行われているのは1年生女子による大玉転がしだ。勿論慶も出場しており、ただいま大玉をバトンタッチして走っている。ルールは大玉を50m先に立っている某まで転がし、そのままターンして帰ってくるというものだ。リレー方式で行い、一番先に全員ゴールしたチームが勝ちということだ。慶は渡された大玉を物凄い勢いで転がし、並走する生徒達を猛スピードで追い抜いた。
「よし、このまま逆転するぞー!」
トップに躍り出てそのまま折り返し地点まで差し掛かった時に悲劇が…。
「あっ、やっば!行きすぎたー!」
慶はボールに勢いを付け過ぎてしまい、曲がり切れずに結構後ろまで行ってしまった。そして、戻ってきた時には既に追い抜かれてしまった。
「どうしよう、このままビリなんてカッコ悪いよー!」
急いで戻った慶は遅れをとり返そうと再び猛スピードで大玉を転がした。何とか最下位いは免れたものの、結局3番手でゴールした。その後、後続の生徒が頑張った事により、A組はこの競技を2着で終えることができた。慶は待機場所に戻ってくるなり、悔しそうに座った。
「あ~あ、やっちゃった。やっぱり速く走ればいいってもんじゃないんだね。」
「ドンマイ、オニィ。でも頑張ったじゃないか!」
そんな慶を宥めたのは真樹だ。先程ブーイングを浴びせられたものの、本人は全く意に介してないようだった。慶は少し悲しそうに続ける。
「ありがとう、真樹。でもあそこまで行けたらやっぱり1位でゴールしたかったな!」
「まあ、大玉転がしなんてこういうときくらいしかやる機会ないし、家で練習できるもんじゃないから、ミスっても責められないだろ。切り換えてこうぜ!」
ごもっともな労いを慶に言う真樹。それからすぐに、場内アナウンスが響いた。
『続いては、1年生男子による障害物競争を行います。出場する生徒はスタンバイをお願いします。』
「真樹、出番じゃない?」
「ん?ああ、行ってくる。」
慶に言われて、真樹は入場口へ向かって行った。そして、ぼそりと他の人には聞こえない程度に呟いた。
「さあ、かかって来い。準備してるのはお前らだけじゃないぞ。」
それだけ言うと、真樹は一度後ろの植え込みに引っ込み、その後入場ゲートに到着したのだった。
『只今より、1年生男子による障害物競争を行います。皆さん、位置に着いて下さい。』
アナウンスが流れて、先に走る生徒達がスタート位置に着く。内容としてはハードル、網くぐり、麻袋に足を入れてジャンプ走行、グルグルバット、炭酸一気飲み、借り物競走の順番で行う。因みに真樹が走るのは3番目だ。
「よーい、スタート。」
スタートの合図が切られ、先人が出る。なんだかんだでみんな楽しんでいるが、終盤の炭酸一気飲みと借り物競走で遅れ始める生徒が出ている模様だ。ちなみに、この競技への参加は任意の選抜制なので炭酸飲料が飲めない生徒は参加を回避できる。勿論一気飲みがあることは事前に説明済みだ。そうこうしている内に真樹が走る番が来た。
(さーて、行くか。)
心の中で真樹はそう言いながらスタート位置に着く。そして、嫌な予感を胸に秘めながらスタンバイした。
『位置に着いて、よーいスタート!』
違和感を残しながらも、競技はスタートしたのだった。
一方ここは、障害物の一つである炭酸一気飲みのブース。ここで係である実行委員の生徒が炭酸飲料を渡すのだった。そして、そこには1年女子の実行委員が二人待機している。そして、真樹が走る番が回ってきた時、二人は目くばせしながらお互いに合図をする。
(いい?湯川が来たらちゃんと違和感無く渡すのよ。)
(分かってるわ。間違っても他の人に渡さないように誘導するから。)
そう合図した二人はコーラを紙コップに注ぎ、スタンバイをした。一方真樹はというと、グルグルバットを一番最初にクリアし、トップに躍り出た。
(丁度良かったわ。あいつが1位なら、かえって渡し易い。)
(フフフ、覚悟しなさい。湯川真樹!)
不敵な笑みを浮かべる二人の実行委員。そして、真樹は駆け足で炭酸一気飲みブースに駆け込んでくる。
「はーい、こっちこっちー!」
実行委員の女子が手を振り、真樹を誘導する。真樹はそれに従い、炭酸が入ったコップが置かれてるテーブルの前にやってくる。
「はい、これ!」
実行委員はコーラが入った紙コップを真樹に渡し、真樹は素直にそれを受け取って口の中に流し込んだ。その瞬間、実行委員の女子達は心の中でガッツポーズをした。
(馬鹿め、引っかかったわね!)
(下剤入りコーラをお見舞いしてやるわ!)
そう、真樹のコーラにはこっそり下剤が仕込まれていた。実行委員の女子達は真樹が大衆の前で大恥をかき、不登校になるほど精神的に追い詰めようと考えてこの作戦を思いついたのだった。今回、炭酸を渡す係の二人はあらかじめ下剤を用意しており、真樹の出番が来るのを見計らってコップにコーラと同時に粉末にした下剤を入れていたのだった。ブースはグラウンドの内側にある為観客席からは見えにくいので、二人は他に気付かれずに下剤を仕掛けることができた。
(さあ、盛大に腹を下しなさい。湯川真樹!)
(恥ずかしくて、二度と学校に来れないようにしてやるわ!)
実行委員の女子達がそう考えているのをよそに、真樹は下剤りコーラを飲みほしてそのまま次の借り物競走へと向かった。
真樹は炭酸一気飲みを難なくクリアし、借り物競走に移っていたのだが…。
(参ったな。とんでもないお題だ。)
借り物競走はお題をくじ引きで決めるのだが、少し真樹にとって都合が悪かったのか、心の中でそう不満を漏らした。しかし、さっさとゴールして終わらせたかったのであたりを探していると、久慈の内容と一致する物を見つけたのか、真樹はダッシュで教職員の席へと向かった。そして、座っていた立石の所に向かう。
「あら、湯川君!どうしたの?」
立石は不思議そうに真樹に尋ねた。真樹は無言でくじの中身を見せ、指をさしながら立石に訴える。
「ポニーテールの女性…ああ、私ね!分かったわ、行きましょう!」
借り物のお題がポニーテールの女性だったのだが、女嫌いの真樹にとって正直嫌な物だった。立石もそれを分かっていたのか、真樹とは少し距離を置いて並走し、ほぼ同時にゴールをした。
「湯川君、ナイスランよ!」
立石のその言葉に、真樹は無言、無表情でピースサインをした。そして、真樹はゴールした人の待機場所へ、立石も教職員の席へ戻って行く。その後、全ての生徒が競技を終えて、誘導に従いグラウンドから退場して行った。そして、体育祭お実行委員も片づけをしていたのだが…。
「フフ、上手くいったわね!」
「湯川の奴、この後地獄が待ってるわ!」
「良い気味ね!」
「これであいつも終わりよ!」
実行委員の女子達は、バレることなく下剤を盛る事に成功し、すっかりいい気になっていたのだった。
退場した真樹は、自分のクラスの待機場所にゆっくりと戻ろうとしていた。そして、競技に行く前と同様にこっそりと茂みに隠れた。そして、口に手を当てると何かを吐きだした。
「はぁ、やってくれるじゃないか。」
真樹の口からは、コーラ色に染まった大量の脱脂綿が出てきたのだった。そう、真樹はこの障害物競走で実行委員の女子が無いかを仕掛けてくると読んでいたのだった。炭酸一気飲みなら係の生徒がついて誘導がしやすいということから、ここしかないと踏んでいた。そして、それは見事に的中していた。それに備えて真樹はあらかじめポケットに大量の脱脂綿を用意しており、移動するタイミングでそれを口に詰め込んでいたのだった。お陰で下剤入りコーラはほぼ脱脂綿が吸収し、真樹は微量を摂取しただけで済み、腹を下すことは無くなった。上手くいって満足した半面、不安はまだぬぐい切れていない。
「これで終わるとは思えないな。引き続き気を引き締めよう。」
そう言って真樹は引き続き警戒しながら待機場所へ戻って行ったのだった。
こんばんわ!
真樹が一枚上手でしたね。
さて、競技はまだ残っていますが、真樹はどう立ち向かうのか?
次回もお楽しみに!




