第30話 本番前日
こんばんわ!
中々いい天気になりませんね。
全く乗り気じゃない真樹をよそに、大谷津学院高校の体育祭の本番はどんどん近付いている。最初の予行演習では入場行進で注意され、大縄跳びの練習では女子生徒達に失敗の責任を押しつけられたりと、真樹にとっては最悪な時間になってしまった。そう言うこともあって、ここの所真樹はすこぶる機嫌が悪い。しかし、そんな予行演習もこの日で最後になった。
「みんな、今日までよく頑張ってきた。明日はいよいよ本番だから無理して怪我をするなよ!」
体育教師の上野は全生徒達にマイク越しでそう言った。その言葉の通り、体育祭の本番は翌日である。なので、真樹達1年生だけでなく、2・3年生も一緒に参加している。クラスの女子だけでもストレスが溜まっているのに、全学年の女子生徒が集まっている今の状況で、真樹の機嫌が今まで以上に悪いのは説明するまでもない。
「まるで地獄だ。こんな状況で明日も来なきゃいけないのか。」
苛立ちを募らせながら、溜息交じりにそう呟いた真樹。因みにこれまでの予行演習では学級委員長の美緒をはじめ、しょっちゅう女子生徒達と口論になっていた。そして日に日に苛立ちが増している真樹も逆切れし、慶や他の男子生徒達が仲裁に入るのがお約束になっていた。
「仕方ない。あと二日の辛抱だ。二日我慢すれば俺は全てから解放される。」
半ばあきらめモードな雰囲気でそう呟いた真樹。その後、全学年の入場行進が終わり、集まった角生徒の所に担任教師がやってくる。全体練習なので教職員もいるのだ。立石はA組の所にやってきて、全員が揃っているのを確認すると口を開いた。
「最初はどうかと思ってたけど、ちゃんと行進出来てたし、いいんじゃない?高校初の体育祭、いい思い出にしましょう!」
「「はい!」」
「それと湯川君!」
「…何ですか、先生?」
「いい加減機嫌直して。せめて競技中だけでいいから、女の子の事は忘れて頂戴!」
「分かりました。」
初めの頃よりはマシになっているとはいえ、やはりA組からは険悪な雰囲気が出ている。立石の言い分を擁護するのであれば、真樹の女嫌いを否定していない。だが、クラスが一体になるこの状況では割り切って競技に集中して欲しいということだ。真樹の方も機嫌が悪いなりに集中しようと努力はしているものの、女子から嫌われているが故に何かがあると喧嘩を売られてしまう。そして余計に機嫌が悪くなるという悪循環に陥っているのだ。立石も真樹も悩みの種は多いが、今はとにかくないごともないことを祈るしかできなかった。二人ともそんな思いを胸に、予行演習を続けたのだった。
「よし、みんなお疲れ様!明日は本番だ、気を付けて帰れよ!それと、風邪引くなよ!」
上野は全生徒達にそう言い、本番前最後の予行演習は終了。生徒達はそのまま帰宅となった。因みに大縄跳びの練習も行われたのだが、やっぱりA組は険悪な雰囲気が拭いきれず、思ったほど記録は伸びていない。そして、やっぱり真樹の回し方が悪いと喧嘩を売られ、それに対し真樹が言った女子生徒に怒号を浴びせるなど、雰囲気的に言えば最悪だった。2,3年の生徒達もこの状況を見て唖然としていたほどである。
「よーし、明日はいいとこ見せて俺自身のモテ期を引き寄せてやる!」
そう気合いっぱいに言い放ったのは杜夫である。高校で彼女が欲しいと思っている杜夫は、体育祭で活躍して、誰か声を掛けてくれないかという淡い期待を抱いている。もはや説明不要かもしれないが、そんな願望を堂々と言い放ったので、これを聞いた一部の女子生徒達は呆れ顔で杜夫を睨んでいたのだが、当の本人は気付いていない。そして、テンションが低い真樹を見つけて話しかけた。
「よう、真樹。まだ怒ってんのか?」
「当たり前だ。」
「お前さ。女子に嫌われてんのは同情するけど、いちいちムキになるのもどうかと思うぞ。」
「言いなりになれって言うのか?」
「そうじゃないけど、お前と女子のやり取りを見てるとお互い一方的に怒ってるだけで、何も解決につながってないっていうか…もっとじっくり話し合ってもいいんじゃないか?」
「向こうは俺の話なんて聞きたくもないさ。無論、俺もあいつらの言い分なんて正直どうでもいいけどな。」
「そう言う所だよ。女子が聞いてくんないなら、せめてお前が女子の話を聞いてあげろよ。聞き上手は女の子にもてるらしいぞ!」
「そう言うお前はそれを実践して、女子からの支持を集められたのか?」
「う…それは聞かないで。」
痛い所を突かれて冷や汗をかく杜夫。そしてもう一人、翌日の体育祭が楽しみでしかたないという人物がいた。無論、理由は杜夫と全然違うが。
「フフフ、いよいよ本番だ!お父さん達に僕の本気の走りを見せたいな!」
そう言ったのは慶である。以前から慶はこの体育祭を楽しみにしていた。無論、走るのが大好きな彼女なので、思い切り走りたいだけというのもあるのだが。
「ご機嫌だな、オニィ。」
「あ、真樹!まぁね。走るの好きだしね。それと、大丈夫?」
「何が?」
「今日も文句言われてたし、真樹ずっと機嫌悪かったし…。心配だったよ。」
「気にすんな。明日終わればまた元の平和な生活が戻る。我慢我慢、だぞオニィ!」
「そっか、そうだね!明日は頑張ろう!優勝しようね!」
「ああ。殺されないように頑張るか。」
そう言った真樹はやはり、この体育祭の中に漂う不吉な雰囲気をまだ感じ取っていた。慶も杜夫も首をかしげていたが、やはり何か得体の知れない違和感に気付き始めていた。
「いよいよ明日ね。」
「うん、準備はできてる?」
「勿論、大丈夫よ。」
「これで、あいつを地獄に落とせるわ!」
「楽しみね、湯川の公開処刑!」
一方、アンチ真樹の女子達による真樹抹殺計画も最終段階まで来ていたのだった。
こんばんわ!
次回は体育祭本番です!
真樹の運命やいかに?
お楽しみに!




