第297話 学校、買って下さい
こんばんわ。
5月ももうすぐ終わりですね。
-土曜日 AM8:00 上野駅-
「すみません、僕の為に時間を作ってくれて。」
朝の上野駅の改札で、真樹は頭を下げながらそう言った。相手は勿論飯田と岩本だ。
「なんのなんの。湯川君の為なら、僕も力になるよ。」
「弁護士としても、僕は君を救いたい。気にしないで。」
2人とも優しい表情で真樹に対してそう言った。そして、およそ10分後。
「ごめんなさい、お待たせしました。」
「湯川の為に僕たちも頑張りますんで、よろしくお願いいたします。」
現れたのは立石と関屋だった。この日は土曜日で本来は野球部の朝練があるのだが、関屋は翌日に練習試合を設ける代わりにこの日は臨時でオフにしている。全員が揃った所で真樹が言う。
「立石先生に、関屋先生も…本当にありがとうございます!」
深々とお辞儀しながら真樹は二人に礼を言った。そして、岩本が全員に声を掛ける。
「さあ、行きましょう。ここからが勝負ですから。」
その後、5人は改札に入って行き、電車に乗って移動したのだった。
-AM 9:50 水戸駅-
「着きましたね。少し緊張してきました。」
常磐線の特急ときわ号から水戸駅のホームに降りた真樹はそう言った。そんな真樹に対し、立石と関屋が宥めるように言った。
「大丈夫よ。私は湯川君が嫌いな女かもしれないけど、あなたの味方よ。先生も協力するから。」
「俺も正直、理事長や校長の言い分はあんまりだと思った。絶対にお前を退学させたりはしない。」
優しい表情で言った二人。そして、改札を出た所で岩本が言った。
「皆さん。もう後戻りはできません。気を引き締めていきましょう。」
それから、一同はバス停に向かった。そう、なぜ水戸に来たかというと、これから水戸大学に大谷津学院買収に関する交渉をするためだった。岩本が大学に連絡を取った結果、大学の運営側からも興味があるので話がしたいとの回答を得られたので、こうして皆で水戸まで来たのだった。その後、大学方面に行くバスが到着し、5人はそのバスに10分ほど乗った後、ようやく水戸大学に着いたのだった。大学の受付で、岩本が受付に話しかける。
「失礼します。先日ご連絡させて頂いた、弁護士の岩本です。関係者の方もお連れ致しました。」
「岩本様ですね。はい、かしこまりました。どうぞ。」
受付の女性職員に案内され、真樹達は大学構内にある応接室に案内された。そして、しばらく待っていると品性のある60代位の男性と、複数の職員が入ってきた。
「ようこそ、我が水戸大学へ。私、本大学の理事をしております笠間甚五郎という者です。今回の件、関係する各職員もお連れ致しました。」
水戸大学理事長の笠間が挨拶すると、まずは岩本が立ち上がって言った。
「弁護士の岩本彬です。土曜日にもかかわらず、お時間を作って頂き、ありがとうございます。」
その後、真樹が挨拶をする。
「初めまして。大谷津学院高校3年、湯川真樹と申します。よろしくお願いいたします。」
真樹の挨拶の後、飯田、立石、関屋も自己紹介を済ませた。水戸大理事長の笠間は、このほかに学長、総務部長、広報部長を一生に連れていた。各自自己紹介が終わった所で、笠間が本題に切り込む。
「今回のお話ですが…そちらの学校を我々に買い取って欲しいという事でしたが…。まずは理由を聞かせて頂いてもよろしいかな?」
笠間の問いに対し、まずは岩本が答える。
「はい。大谷津学院の理事長と校長は、学校内で問題が起きても、当事者がお気に入りの生徒ならとがめることもなく、場合によっては事実を隠蔽しようとしてました。そして、その都度ここにいる湯川君が様々な事件を解決していましたが、不祥事の隠蔽に邪魔になったからという理由で退学処分にしようとしています。更に、担任の立石先生と部活の顧問である関屋先生に対しても、湯川君の退学に反対するなら二人の教育免許を剥奪すると脅迫しました。これ以上こんな経営陣を野放しにすると、大谷津学院はもう学校経営を続けることはできなくなるでしょう。そこで、御社に経営してほしいと思い、今回お話に伺いました。」
岩本がそう述べた後、飯田が続いた。
「今の大谷津学院は、お気に入りの生徒はとことん甘やかして気に入らない生徒はどんなに優秀でも切り捨てる、独裁国家になってます。経営不振もすべて杜撰なやり方のせいだったのに、すべてを湯川君に押し付けて追い出そうとしています。そこで、学力だけでなく人格面での育成に力を入れている本校に、大谷津学院の経営を代わっていただきたいと思い、今回お越し致しました。」
飯田も丁寧な口調でそう言った。その後、真樹は少し緊張しながらも、飯田の後に続いた。
「僕は今まで…勉強も野球部の練習もずっと頑張ってきました。そして、友達が苛めに遭った時も僕は全力でかばいました。ですが、理事長と校長は、僕を余計なことをする面汚しとして僕を追い出すことを決めたのです。好きな生徒がどれだけ校則違反を起こしても何も言わないのに、都合が悪いと判断した生徒は、僕みたいに徹底的につぶそうとしているのです。学校の評判が落ちたのも間違いなく校長と理事長が問題を放置し続けたにも関わらずに、です。無理を承知でお願いします。これ以上、あの経営陣を放置し続けたら、学校は無法地帯になっていずれ倒産します。僕は、罪もない友達や後輩、先生たちを路頭に迷わせたくないのです。お願いします。学校の施設は好きに使っていただいて構いません。大谷津学院を買って下さい。」
真樹が深々とお辞儀をしながらそう言った後、立石と関屋も続いた。
「私は湯川君の担任を3年間務めております。確かに彼は不器用で誤解されることも多いですが、正義感が強くて誰よりも友達を大事にしている優しい子なんです。そんな彼が理不尽な理由で退学になる所なんて辛くて見たくありません。私からもお願いします。付属校の新設にお困りでしたら、是非我が校を傘下にして下さい!」
「僕も同意見です。ここにいる湯川は勉強は常に学年トップで、我が校の甲子園出場にも貢献しました。3年間顧問としてみてきた私にはわかります。彼は、こんな理不尽極まりない理由で退学させられるような子じゃありません。彼のおかげで救われた生徒もいます。それに、嫌いな生徒を庇ったからと言って教員免許を剥奪しようと脅迫するような上層部の下で、私はもう働きたくありません。お願いします。是非我が校を水戸大学の付属校として立て直してください。」
5人は必死の思いで頭を下げながらそう言った。大谷津学院側の話が終わった後、学長、総務部長、広報部長は厳しい表情で話し始める。
「状況は気の毒だとは思いますけど、いきなりそう言われましてもねぇ…。」
「茨城県内の学校ならともかく、千葉県の学校ですか…。」
「正直…いくら進学校でも、そこまで評判が地に落ちた学校の経営を我々が引き受けるメリットはあるのでしょうか…?」
やはり、水戸大の経営陣たちはいい顔をしなかった。彼らの言葉を聞いた真樹達は半分諦めていたが、理事長が立ち上がりながら言った。
「話は分かった。我が校は『教育者は、全ての模範であれ』をモットーに、数多くの卒業生たちを教職に就かせました。それは今でも変わりません。しかし、同じ教育者、学校経営者として、大谷津学院の現状は見逃せません。ましてや、気に入らないからという理由で退学や教員免許剥奪など、言語道断。付属校新設の断念も視野に入れていた中、大谷津学院さんをうちの付属校として使わせてくれるならありがたい。いいでしょう。そのお話、喜んで引き受けます。」
なんと、水戸大学理事長の笠間は大谷津学院の身売りをあっさりと承認したのだった。岩本は満面の笑みを浮かべながら言った。
「ほ、本当ですか?!あ…ありがとうございます!やったな、湯川君!」
岩本は真樹に対してそう言った。真樹も微笑みながら続く。
「本当にありがとうございます。こんな無茶苦茶な話を引き受けて頂き、感謝の気持ちしかありません。しかし、あの経営陣があっさり身売りに同意するとは思いません。でも大丈夫です。こっちにも証拠がありますし、あの独裁者たちが笑っていられるのも今だけです。」
こうして、水戸大学は大谷津学院の買収に賛成した。そして、理事長の上野と校長の日暮里に対して、真樹は反撃する準備を着々と整えていたのだった。
こんばんわ。
書いていたら、日付が変わってしまいました(笑)
真樹の反撃開始です。
次回もお楽しみに!