第295話 身売り先は...?
こんにちわ。
そろそろ物語を動かしていこうと思います。
-日曜日 19:00 新宿駅東口-
「あ、こっちです!お待ちしておりました。」
そう言って手を振っているのは、大谷津学院理事長の上野富恵だった。彼女は派手な格好と帽子をかぶっている。隣には校長の日暮里香里もいた。そんな二人の所に壮年の女性が一人やって来た。
「上野理事長に日暮里校長。今回は誘っていただいてありがとうございます!」
スーツを着た女性はそう頭を下げた。そんな彼女に対して、校長の日暮里は握手しながら笑顔で出迎えた。
「いいんですよ!山下さんの所の塾との付き合いじゃないですか。さあ、さあ。行きましょう!」
そう言って上野と日暮里は山下という女性と共に歌舞伎町方面に向かって歩き始めた。女性の名は山下明子と言い、千葉県内で10か所校舎を持つ高校受験専門塾、「山下塾」の塾長である。3人は歌舞伎町の繁華街に到着すると、洒落た外観の建物に入って行った。店の看板には『Blue Rain』という英語名のネオンサインが青白く光っている。上野たちが入店すると、派手な格好の若い男性が出迎えた。
「ようこそ、Bule Rainへ!あ、理事長に校長!お久しぶりです!」
男性が笑顔で上野たちに話しかける。そう、ここは歌舞伎町にあるホストクラブの一つだった。上野と日暮里はこの店を気に入っており、常連となっている。そんな上野は笑顔で出迎えのホストに話しかけた。
「ええ。忙しくて中々来れなかったの。あ、今日はお客様もお連れしたわ。」
「山下です。よろしくお願いします!」
上野から紹介された山下は、ホストにお辞儀をした。すると、出迎えのホストはノリノリな様子で上野たちを案内した。
「まぁまぁ、固い話はここまでにして!みんな、今日は沢山飲んで楽しみましょう!」
ホストは上野たちを小綺麗なソファーに案内し、年代物のワインやおつまみ等を運んできた。そして、酒が入ったことで上野と日暮里、山下は更にハイテンションになった。
「本当に、山下さんにお越し頂いて嬉しいわ。」
「私もです。そちらの塾からいいお話ができると聞いて、是非ともと思いましてね!」
「いえいえ、こういう時はお互い助け合いましょう!」
一言でいえば、大谷津学院と山下宿の接待である。酒が回りながらも上野は山下に話を続けた。
「お宅の生徒が来年うちの学校に来てくれるなら、2年連続定員割れなんていう屈辱から脱却できます。ただし、勿論それなりの報酬をいただきますが。」
「いいんですよ。うちも最近合格実績が落ちてきているので、大谷津学院さんに枠を作っていただければ、こんなにありがたい話はありません。大谷津学院の合格実績が増えれば、入塾者も間違いなく増えます。そちらにお支払いした分を差し引いても、お釣りがくるでしょう。」
上野と山下は楽しそうにそう話した。要約するとこうである。大谷津学院は来年度の定員割れを避けるために、昔から付き合いのある山下塾の生徒を、塾側から紹介手数料を受け取った上で形だけの入手を実行して入学させる。山下塾は接待費を大谷津学院側から持つ代わりに、紹介手数料を学校に払って自身の生徒を入学させ、合格実績を上げて入塾希望者を増やそうとする考えだ。そして、交渉は酒が入っていたこともあり、あっさり成立。その横で、校長の日暮里は指名したホストに酒を飲みながら愚痴を言っていた。
「本当に迷惑な生徒なの。頭いいけど愛想は無いし、うちの学校に相応しくないわ。いると空気が悪くなるの。」
「いるよね~。そう言う風に勉強できるけど、調子乗ってるやつ。俺もそんなやつとは絶対友達になりたくないわ。」
ホストも日暮里に頷きながらそう言った。因みに、この愚痴は紛れもなく真樹に対してである。隣で話を聞いていた上野も同意した。
「あの生徒のせいで、入学者が減ってうちは大赤字よ。でも、山下さんが助けてくれるお陰でもう大丈夫。来年は入学金もたんまり貰えて、このお店にいっぱい来れるから!」
「いえーい!山下さん、マジ優しー!サイコー!理事長、いっぱい来てよー!」
別のホストが喜びながらそう言った。因みに、ホストクラブでの飲食費用は上野や日暮里のポケットマネーではなく、大谷津学院生徒の入学金や学費の一部が使われている。そして、酒が入った山下も喜びながら言った。
「今日はみんなにとっていいお話ばっかりね!じゃあ、もっと飲んじゃおー!」
こうして、大谷津学院と山下塾の問題だらけのホストクラブ接待は続くのだった。
そして、月曜日。2限目の授業が終了した時…。
「湯川君、ちょっといい?」
真樹の机の所に、美緒が複雑な表情でやって来た。真樹は怪訝な表情を浮べる。
「何だよ。説教されるようなことは何もしてないぞ。」
「いいから来て。話があるの。」
美緒はそう言うと、真樹を教室の外に連れ出した。その様子を見た杜夫、伸治、武司は不思議そうな雰囲気で話している。
「何だ、菅野の奴、真樹を連れ出すなんて。」
「またお説教か。まぁ、いつもの事だけど。」
「でも、菅野も怒っているようには見えなかったけどな。」
その横にいた慶は少し気まずそうに黙っている。
(もしかして、美緒…身売り計画に感づいた?いや、でも僕は誰にも話してないし…。)
心の中で慶はそう呟いた。そして、美緒は誰もいない階段の踊り場までやってきて真樹に問う。
「湯川君。理事長と校長は、本気であなたを学校から追い出すつもりよ。どうするつもり?」
「ああ、知ってる。そう来ると思ったよ。」
「これでいい訳?立派な不当退学よ!もう少し反撃するべきよ!」
美緒にそう言われたが、真樹は表情一つ変えずに続ける。
「勿論、俺もこんな処分には猛反対だ。だが、正面から反論したって火に油を注ぐだけだ。」
「じゃあ、どうするつもりよ?」
「まあ、もう少し時間がかかるけど見ておいてくれ。策は既に打っている。」
真樹がそれだけ言った所でチャイムが鳴り、二人は教室に戻って行った。
放課後。
「昼間はああ言ったけど、そろそろどうにかしないとまずいな。」
帰り道、最寄り駅に着いた真樹は改札を出ながらそう呟いた。身売りを画策したものの、やはり買い取ってくれる企業はそうすぐには出てこない。真樹が少し不安に思っていると、携帯電話が鳴った。
「ん?岩本さんだ。」
電話の相手は、ジャーナリストの飯田の友人で、今回協力してくれる弁護士の岩本からだった。真樹はすぐに電話を取って話し始めた。
「もしもし、岩本さん?」
「もしもし、湯川君。今大丈夫?」
「僕は平気ですけど、どうしました?」
真樹が聞くと、岩本は嬉しそうな声で言った。
「大谷津学院を買収してくれそうな所が、一つ見つかったんだ!」
「ほ、本当ですか!因みに、なんて所ですか?」
「水戸大学だ。」
「おお、これはまたいい所ですね。」
真樹は少し微笑みながらそう言った。水戸大学はその名前の通り、茨城県水戸市にある私立の総合大学である。本部がある水戸キャンパスに文系が4学部(教育学部、文学部、法学部、経済学部)と勝田にある、ひたちなかキャンパスに理系が3学部(理学部、工学部、農学部)ある。学部全体の偏差値も60を超えており、教育のレベル自体は高い部類だ。また、看板学部である教育学部では教員採用試験の合格率が全国でもトップという優れた一面も持っている。しかし、真樹は少し疑問に思う部分があった。
「そんないい所に身売りできるのは嬉しいんですけど、どうしてそこに身売りできる可能性があるんですか?」
真樹は岩本にそう問うと、岩本はハキハキした様子で答えた。
「水戸大学は数年前から付属の高校を新設する計画を立てているんだけど、校舎の建設費や用地買収の問題が解決できず、全く目途が立てられない状態なんだ。もし大谷津学院を買い取ってくれれば、大学は法人の譲渡金だけ負担して学校の設備をそのまま使えるし、湯川君達からしても安定した法人が上に立ってくれるから、倒産に怯える必要もなくなる。お互いのメリットは大きいよ。」
岩本の言う通り、この身売りが上手くいった際、双方win-winの関係になれる。真樹は岩本の説明に納得しつつ、ある懸念材料を話した。
「問題はどうすれば買い取ってもらえるようにアピールできるかと、どうやって理事長と校長を追い出せるかですね。」
「確かに簡単な話ではない。だが、理事長と校長はもう罪に問えるし、水戸大学も付属高校新設案が没にされるのは避けたいだろう。きっと上手くいく。僕を信じて付いてきて欲しい。」
「分かりました。また何かありましたら、連絡をお願いします。」
そう言って真樹と岩本は電話を切った。真樹は少し微笑みながら呟く。
「チャンスは一度しかないだろう。だが、こっちには証拠がある。覚悟しろよ、校長と理事長。」
そう言って彼は少し早歩きになりながら、自宅へ向かって言ったのだった。
こんにちわ。
この身売り計画、どうなるのか?
次回をお楽しみに!




