第293話 退学阻止への道
こんにちわ。
最近暑い日が増えてきましたね。
大谷津学院は現在、2年連続で新入生の定員割れを起こし、赤字経営となっている。理事長の上野と校長の日暮里は、原因を校内問題を暴露する真樹とし、退学処分にして学校から追い出そうとしている。更に、担任の立石と野球部の顧問である関屋にも教員免許剥奪をちらつかせて圧力をかけた。徐々に外堀が埋められはじめ、真樹は段々と窮地に追い込まれていくのだった。
ある日の放課後。
「ねえ、丈。ショッピングモールに新しいお店入ったんだけど、一緒に行こ!」
「おお。行く行く!俺も興味があったんだ。」
2年生に進級した宮下郁美と本郷丈である。前年から二人は交際を続けており、1年生の時は違うクラスだったが、2年ではめでたく同じクラスになった。そう言うこともあり、お互いの部活動の練習日以外ではよく二人で一緒に帰っている。この日はショッピングモールに行くようだ。手を繋いで駅の方向に歩き出す宮下と丈。そんな時、ふと丈が言った。
「そう言えば、何かうちの学校色々ヤバいらしいぜ。」
そう言った丈に対し、宮下も真面目な表情で言った。
「新入生も少なかったし、雑誌であんなこと書かれちゃったらね。まぁ、自業自得な部分もあるけど。」
「でも、下手すりゃ潰れるかもって噂まで出てるしな…。校長や理事長のやり方は好きじゃないけど、学校がなくなるのはちょっとな…。」
通っていた学校がいきなり倒産し、教職員と生徒が突然路頭に迷うなんてことは、無関係な生徒からすればかなり困る話である。宮下も少し考えながら言った。
「確かにそうよね…。私も困るわ。でも、私も噂で聞いたんだけど、学校側は何でも暴露する湯川先輩を追い出せば平気、みたいなこと言ってたらしいわよ。」
「はぁ…そういうことするから雑誌にも書かれるし、入学者だって減るのにな…。何もわかってないし、そもそも湯川先輩のせいにすること自体が間違っている。」
宮下の話を聞いて、丈は呆れながらそう言った。そんな丈を見て宮下はまた口を開く。
「でも、湯川先輩がこのまま退学になるとは思えないのよね。こんな噂も出て、黙ってるわけないだろうし。」
「当たり前だろ。先輩は悪くないし、もし何かあったら野球部みんなで抗議してやる。」
「フフフ…。そう言う人に対して思いやりがある所が、好きよ。丈。」
「郁美…。俺も、そんなお前が好きだ。」
学校の倒産や真樹退学の噂は広まっていたが、2人とも真樹を信じている様だった。そんな二人は駅まで向かい、帰宅前にショッピングモールでのデートを楽しんだのだった。
-土曜日 15:30 中央線四ッ谷駅前-
「あ、湯川君。こっちこっち!」
「飯田さん。お忙しい中すみません。」
野球部の朝練を終えた真樹は、そのまま家に帰らずに四ッ谷まで向かった。そこで飯田と待ち合わせをし、合流した二人は近くのカフェに入った。そこでしばらく待っていると、スーツ姿で眼鏡をかけた細身の男性が入ってきた。
「飯田。久しぶりだな。去年の同窓会以来か?」
「岩本も久しぶり。時間作ってくれてありがとうな。」
岩本と呼ばれた男性は笑顔で飯田と握手しながら言った。
「湯川君。紹介するよ。彼は弁護士の岩本彬。大学の同級生で、僕が国際関係部で彼が法学部。岩本、彼がこの前話した湯川真樹君だよ。」
「初めまして。大谷津学院高校3年の湯川真樹と申します。本日は来ていただき、本当にありがとうございます。」
飯田が弁護士の岩本を紹介した後、真樹はお辞儀しながら丁寧に挨拶した。岩本も微笑みながら真樹に挨拶する。
「初めまして。弁護士の岩本です。飯田とは大学の旅行サークルで一緒になってな。今は忙しくてなかなか会えないけど、良き友人として付き合いは続けているんだ。」
お互いに挨拶を済ませた後、3人は席に着いた。そして、後から来た岩本のコーヒーが来た所で、本題に入った。
「湯川君。飯田から少し話は聞いたけど、校長と理事長は学校内での問題や、それに伴う入学者の減少を全て君のせいにして、退学処分にしているっているのは本当かい?」
岩本にそう聞かれた真樹は真剣な顔で頷いた後に答えた。
「そうですね。学校が揉み消そうとした問題を僕が公にしたので、評判が地に落ちた。営業妨害だからそれ相応の処分を覚悟しろと言われました。録音のデータもあります。」
そう言って真樹はスマートフォンを取り出した。真樹は理事長室に呼ばれた時、部屋に入る前にボイスレコーダーを起動させてブレザーに入れておいたのだった。そして、理事長室でのやり取りはハッキリと録音されていた。それを聞いた飯田は唖然とした。
「これは酷い。陳さんの自殺未遂まで揉み消そうとるるなんて…。一体ここの経営陣は何を考えているんだ。」
そう言う飯田に岩本も頷きながら言った。
「これはもう擁護できないな。名誉棄損、脅迫、立派な不当退学だ。湯川君、これだけ有力な証拠があれば君が退学になることは無いし、このふざけた校長や理事長に対して処分することもできる。湯川君はどうやって戦いたい?」
岩本も大谷津学院の現状を野放しにはできないと判断し、真樹に協力することを承諾した。真樹は少し考えた後、真顔のまま答えた。
「僕の退学を阻止したいのも勿論ですし、理事長や校長にも鉄槌を下したいです。でも、経営陣を辞任させたところで赤字なのは変わらないし、倒産して友達や後輩、罪もない先生が路頭に迷うのも嫌ですね…。なので、考えたんですけど…。」
真樹は少し間を置いて、再び真剣な表情で聞いた。
「学校って、身売りできますか?」
それは、真樹が今の問題を丸ごと解決するための考えだった。
こんにちわ。
真樹の反撃、上手くいくのでしょうか?
それではまた次回。




