第279話 絶対勝つんだ!
こんばんわ。
またまた、夜に投稿致します。
真樹達大谷津学院野球部は、21世紀枠での春の選抜高校野球出場を決め、現在甲子園に来ている。無事に開幕を迎え、大谷津学院は大会2日目に長野の強豪校である湯田中高校と試合することになった。開幕セレモニーを終え、いざ湯田中高校との試合を迎えた真樹達は、壮絶な打ち合いの末、何とか5-4で勝負を制した。そして、今は2回戦を戦っているのだが…。
『春の選抜高校野球2回戦。勝った方が準々決勝進出です!昨年夏の甲子園に初出場した千葉の大谷津学院と、富山の名門雨晴工業の試合。現在一歩も引かない投手戦が続いています。試合は依然として0-0と両チーム無得点。大谷津学院の中山と雨晴の高岡の両エースの投げ合い。両チーム無得点のまま、8回表の大谷津学院の攻撃を迎えます。』
そう実況したアナウンサー。伸治は初戦の湯田中相手に4失点したが、それで燃えたのか今回は7回を4安打無失点10奪三振と好投。そして、雨晴高校は甲子園で優勝経験こそ無いものの、春に3回、夏に4回の甲子園出場経験がある富山県の強豪校として知られている。大谷津学院の方も、そんな雨晴工業相手にわずか3安打無得点に抑え込まれていた。
「お、おい。ヤバいぞ…。点が入る気がしねぇ…。見てるだけでヒヤヒヤする…。」
「もう、杜夫!そんなネガティブな気持ちでどうするの?!僕は、真樹達を信じるよ!」
青ざめた顔でそう言った杜夫に、慶がきつめの口調でそう言った。その横で、菅野美緒の妹である莉緒がグラウンドに向かって声を張り上げた。
「湯川さーん!みんなー!頑張ってー!絶対勝てるわよー!」
「もう、莉緒ったら。さっきからそれしか言ってないじゃん。」
そう突っ込んだ姉の美緒。美緒は妹からの熱心な頼みに答えて共に甲子園にやって来た。莉緒は球場の写真こそ撮ったもののライブ配信などはせず、熱心に大谷津学院を応援していた。そうこうしているうちに、8回表の大谷津学院の攻撃が始まった。
『8回の表。大谷津学院の攻撃は、5番、ファースト。湯川君。』
この回は真樹からの打順だった。打席に向かう真樹に顧問の関屋が声を掛ける。
「湯川。」
「はい。」
「気負い過ぎるなよ。塁に出ることだけ考えろ。」
「分かりました。任せてください。」
そう言ってバッターボックスに向かう真樹。そんな真樹に武司と沙崙がベンチから大声を上げる。
「真樹ー!頑張れー!この状況をどうにかできるのはお前しかいないぞ!」
「洛陽との試合はもうすぐそこまで来てるわよ!三条君だって待ってるわよ!」
真樹達の試合の前に行われた試合では、甲子園のアイドルである三条知明率いる京都の名門、洛陽高校が既に準決勝進出を決めていた。そして、この試合では勝った方が準決勝進出及び洛陽高校との試合がかかっているのである。因みに、真樹は前年三条からサヨナラホームランを打ったことで暴徒化したファンから空き瓶などを大量に投げつけられたが、今はお互いにそこまで気にしていない。真顔でバッターボックスに立った真樹は粘りながらも2ボール2ストライクと雨晴のエース、高岡投手に追い込まれた。そして、粘った末の第7球…。
「あっ!」
「貰った!」
失投して思わず声が出た高岡だったが、真樹はそれを見逃さずに振りぬいた。打球はセンターオーバーの2塁打となり、ノーアウト2塁とチャンスを作った。そして…。
『6番。サード、本郷君。』
得点圏で丈が打席に立つ。それを見て大谷津学院の応援席にいる吹奏楽部とチア部の面々が盛り上がっていた。
「湯川先輩、やるわね。さあ、本郷君の打順よ。郁美、しっかり応援しなきゃ…って、郁美?!」
吹奏楽部の大神はがグフの準備をしつつそう言ったが、一方丈の彼女でチアリーディング部の宮下はというと、これでもかという位に両手を合わせて何も言わずに祈り続けている。それを見た津田は大神にボソりと何か言った。
「チャンスで彼氏の打席よ。そっとしておいてあげようよ。」
「そ、それもそうよね。」
大神はそう言って演奏に入った。一方の宮下は周りの事が見えないくらいに祈り続けている。それでも試合は続き、丈は1ボール2ストライクと追い込まれてしまった。それでも、彼は諦めていなかった。
「また甲子園に来れたし、湯川先輩もチャンスを作ってくれた。それに郁美も応援してくれているし…俺がやるしかねぇ!」
バッターボックスでそう言った丈。そして、高岡が投じた4球目のストレートを…。
「そこだ!」
そう言って丈は振りぬいた。打球はレフト線を破り、長打コースになった。
「ナイスだぜ。丈。さすが頼れる後輩だ。」
2塁から一気にホームに戻ってきた真樹はそう言ってベンチに戻ってきた。実況のアナウンサーも興奮気味でマイクに叫ぶ。
『打ったー!本郷の勝ち越しタイムリーツーベース!大谷津学院が均衡を破りました!』
そして、大谷津学院の応援席も盛り上がっていた。
「やった、やったー!お姉ちゃん!大谷津学院が勝ち越したよ!」
「見たらわかるわよ!でも、ナイスね!流石だわ!」
勿論、杜夫と慶も盛り上がっている。
「よっしゃー!先制したぞ!このまま逃げ切れ!」
「いいぞ、大谷津学院!最後までしっかりねー!」
そして、チア部の方は宮下にチームメイトが声を掛けたのだが…。
「ほら、郁美!彼氏がタイムリー打ったわよ…って、え?」
チームメイトは驚いた顔をした。祈り続けていた宮下が顔を上げたかと思えば、涙と鼻水を大量に流していたからだ。
「う、うえぇぇん!丈、打ってよがったぁ…!」
泣きながらそう言った宮下。その後も大谷津学院は点を重ね、3-0となって9回裏を迎えた。伸治は点が入って気持ちが落ち着いたのか、簡単に2アウトを取り、最後のバッターに対しても…。
「勝つのは俺達だ!絶対に優勝だ!」
そう言って渾身のストレートを投げ込み、見事に空振り三振に仕留めてゲームセット。大谷津学院の勝利である。
『空振り三振!21世紀枠の大谷津学院、準決勝進出です!そして、洛陽との好カードが再び決まりました。』
伸治は見事に完封勝利を挙げ、大谷津学院は準決勝進出。その相手も前年戦った三条率いる京都の洛陽高校に決まった。その瞬間を誰よりも喜んでいる家族がいた。
「やった、やった!お父さん、お母さん!お兄ちゃん達やったよ!準決勝進出だよ!」
伸治の妹である優奈が嬉しそうにそう言った。母の美子と父の祐三もとても嬉しそうに言った。
「よかったわぁ。さすがうちの息子よ!」
「ああ。俺もすごく嬉しいよ。最後まで応援しなければ!」
そんなこんなでこの試合は大谷津学院の勝利で結末を迎えた。両行整列後、大谷津学院の効果が流れ、メンバーたちは球場から撤収の準備をしていた。そんな時、真樹は伸治に声を掛ける。
「ナイスピー、伸治!」
「ありがとうな。みんなが頑張ってくれたんだ。俺だって全力で抑えるさ。」
微笑みながら真樹にそう言った伸治。一方の真樹も、また洛陽の三条と戦えると思うと嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「約束は果たしたぞ、三条。だが、今回も俺たちが勝たせてもらう。」
前年対戦した時にまた試合したいと言った事を思い出しながら、そう言った真樹。その願いがまたかなったことへの余韻に浸りながら、大谷津学院野球部は球場を後にした。
こんばんわ。
因みに、この番外エピソードは尺の調整の為、かなり短めに書くつもりです。
展開が早くなりすぎと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、何卒よろしくお願いいたします!




