第274話 実行犯の供述
こんばんわ。
3月初投稿です。
大谷津学院の3年生で、芸大の写真学科への入学を希望している木下希美絵の謎の妨害事件から数日が経った。真樹の罠によって彼女のデータを直接盗んだ実行犯は確保できたものの、裏にいるとされる黒幕に関しては、まだ検討が付かなかった。だが、写真部の小林や杜夫がある人物を怪しいと思い始めていた。そして、木下の入試を無事に終わらせるためにも、真樹は次の行動を取ろうとしていた。
ある日の夕方。千葉県内のとある住宅街。そこに二人組がやってきて、一軒の家に立ち止まった。2人は少し間を開けてその家のインターホンを鳴らす。すると、しばらくして玄関のドアが開いた。
「は~い。」
元気がなさげの少女の声がドアの内側から聞こえ、顔を覗かせる。随分覇気がなくやつれている感じであった。そして、その少女はドアの前にいた人物に驚きを隠せなかった。
「な、何で…?」
そこにいたのは何と真樹、そして木下希美だったのだ。そう、この家は木下からデータを盗んだ少女の家であった。彼女は停学、謹慎を言い渡されているので、真樹も木下も彼女が自宅にいることは分かっていた。少女は逃げるようにドアを閉めようとしたが、真樹の怪力ですんなりと阻止されてしまう。
「逃げるな。これだけの事をしたお前にはまだ話してもらうことがある。」
「うるさい、離せ!」
少女は引き続きドアを閉めようとしたが、真樹がドアを掴んでいる為、びくともしない。そんな時、木下も少女に向かって言った。
「いい加減勘弁しなよ。ここまでしておいて、ただで済むと思っているなら愚かだわ。話したいことがいっぱいあるのよ!」
少女はしばらく抵抗していたが、最終的には真樹達に粘り負け、諦めて二人を部屋に招き入れたのだった。
少女は二人を部屋に招き入れた後、ベッドの上に座り込み、不満そうな顔で尋ねた。
「で、話って何?停学になった私を笑いにでもきたの?」
なおも不貞腐れる少女に対し、木下は少し溜息交じりで答えた。
「はぁ…。そんな無駄なことするわけないでしょ。この前の事よ。」
「だから、私は頼まれただけだって…。それにもう済んだだでしょ?」
「その頼んだ相手って、香取真奈さんでしょ?」
その言葉に、少女は怯んだ。それでも、まだ取り繕うとする。
「い、いったい誰の事かなぁ~?」
とぼける少女に、今度は真樹が止めを刺す。
「言い訳しても無駄だ。1年の男子にお前と同じ中学の奴がいてすべて話してくれた。そして、その香取もお前の同級生。そして、香取が写真大好きブロガーなのも教えてくれた。もう言い逃れはできんぞ。」
真樹にそう言われて、少女はもう逃げ道はないと悟り、諦めたような表情で語り始めた。
「そうよ。全部真奈の指示よ。でも、私は後悔もしてないし、恨んでもないわ。」
元気がなさげに少女は続ける。
「真奈は写真を撮ってSNSにアップするのが好きだったし、私も真奈が取る写真が好きだった。マナの取る写真はキラキラしてて、本当に映えていたわ。そして、中1の秋にフォトコンテストに出るように勧めたわ。そして、いきなりあの子は優勝したの。」
実際香取は木下と同じ大会に出て銅賞を取ったこともあるので、写真の腕が全くないわけではない。しかし、映えばかり意識しすぎて、大会のコンテストとズレが生じることは多々あった。
「その後も色々な大会に出て賞をもらったり、SNSでも写真が評価されてフォロワーも増えていった。高校でもあの子の写真は陰ながら応援してたけど…木下さん。あんたがあの子の邪魔をした。」
「私が?何で?」
木下は突然自分の名前を言われて驚いた。少女は話を続ける。
「真奈はいつも言ってたわ。自分は誰よりも映える写真を撮ってるのに、木下さんの平凡でつまらない写真ばかり評価されるのはおかしいって。実際、私も真奈の写真の方が木下さんの写真よりもキラキラして好きだわ。」
そこまで言われると、木下の方もどう返答するのかわからなくなってくる。その横で聞いていた真樹も厳しい表情をしていた。
「結果、真奈の写真はあんたに潰された。私も悲しかった。でも、木下さんが写真での栄光を全部ひとり占めするのは不平等すぎるって思うわ。おまけに芸大受けるなんて生意気ってあの子も言ってた。」
正直、あまりにも一方的すぎる逆恨みである。黙って聞いていた真樹も、呆れすぎて黙っていられなくなってしまった。
「フン、くだらない。馬鹿馬鹿し過ぎて、聞いてるこっちが頭痛くなったぜ。」
真樹は溜息をしつつ、険しい表情でまくしたてるように話し続けた。
「一人の自分よりできる奴に嫉妬するあまり、腕を磨くのをやめたのか。そして、平然とマナー違反行為にも走り、入試の妨害までした。そして、お前はそんな奴の提案に何の抵抗もなく乗った。停学になっても、まだあいつをかばい続けるとは、愚かだ。女の嫉妬は糞だが、ツルみ合いはもっと糞だな。」
「なっ…何よ偉そうに!学校一女子から嫌われてる男のくせに!」
少女に言い返されても真樹は表情を変えずに続ける。
「友達なら、足の引っ張り合いやマナー違反に同調するんじゃなくて、注意したり、純粋に応援し続けるべきだったな。まぁ、とりあえずこの俺に悪事がバレちまった以上、どの道お前もアイツも終わりだが…。」
「…。」
真樹に言い負かされて、ぐうの音も出なくなった少女。最後に、木下が少女に問う。
「ねぇ、教えて。正直私もここまでされて、黙って見ていろなんてできないの。香取さんは今どこにいて、これから何をしようとしているの?」
「…。」
少女は気まずそうにしばらく沈黙した。しかし、真樹達に見透かされていると悟り、その後も正直に話したのだった。
それからしばらくして…。
「やっと終わりましたな。後はその香取ってバカ女を絞めるだけですね。」
そう言った真樹に木下は複雑な表情を浮べる。
「正直、そんなに逆恨みされているなんて全然思わなかったわ。もう少しお互いによく話して、高め合うことが出来ればこんなことにはならなかったと思ったのに。」
「勝手に嫉妬して、マナー違反してでも映えを狙う奴なんかに、そんな理屈は通用しません。徹底的に叩き潰すだけです。」
そう言い切った真樹に対し、木下は微笑んだ。
「フフ…公津君からはよく聞いてるけど、本当に容赦ないわね。湯川君って。」
そう話しながら二人は岐路に着くのであった。
こんばんわ。
久々に夜の投稿になりますが、3月もよろしくお願いします。
それではまた次回!




