第270話 囮作戦
おはようございます。
最近、寒すぎて風邪を引かないか心配になってます。
大谷津学院3年生の木下希美は、芸大を受けるべく本試験前に課題を大学に提出した。しかし、別のものが彼女と1ミリ単位で全く同じものを本人よりも前に提出するという事態が発生し、盗作疑惑を恐れた大学から本試験の辞退を促されてしまった。彼女は落ち込んでいたが、今は第一志望の大学の受験準備に取り掛かっている。そして、そのことは、職員室でも話題になっていた。
「ふぅ…終わった。2月は受験シーズンだから忙しいわね。」
職員室のデスクでは、立石が忙しそうに仕事をしていた。受験を控えた3年の授業に加え、自身のクラスの進路調査もしなければならないからだ。一区切り終わり、お茶を飲んでいた彼女の所に関屋が話しかけてきた。
「立石先生、いいですか?」
「どうしました?」
「木下さんの件、聞きました?」
「確か、美大を受けるって聞きましたけど…。」
「その事なんですが…。」
関屋は木下の担任ではなかったが、彼女のクラスの数学の授業を担当しているので、今回の件も耳に入っていた。関屋がこのことを話すと、立石は驚いていた。
「そ、そんなことが…?」
「ええ、信じられませんが…。」
「でも、一体なんで?」
「分からないですが、怖いですね。木下さんの身に何か危ないことが起りそうな気が…。」
「どんな理由があっても、意図的に木下さんの邪魔をしているなら許せませんね。」
立石も関屋も、木下の件には首を傾げるしかなかった。だが、一方で犯人を突き止めるべく動いている者もいた。
その日の昼休憩中。真樹は杜夫と共に写真部の部室にいた。そして、今回の被害者でもある木下と、硬後輩の小林もいる。真樹が杜夫に呼んでくるように頼んでおいたのだった。そして、真樹は木下に例の写真を見せてもらった。
「う~ん。確かに1ミリ違わず同じものを別人が取るのは無理そうだな…。コピーでもしない限り無理だ。」
真樹の言葉に、木下は覇気がない様子で話す。
「でも、そうだとして…一体誰が?全然心当たりがないわ。」
後輩の小林も木下の言葉に頷く。
「そうですよ。それに、データを盗んだとして、どうやって盗むんですか?」
小林の問いに対し、真樹は少し間を置いてから木下の方を見て言った。
「先輩。提出した写真のデータは家で管理してましたか?」
「実は、その時家のパソコンが調子悪くて、学校のを使ってたわ。準備も部室の設備を借りていたの。」
それを聞いた真樹は真剣な表情で言った。
「今回の犯人は学校の中にいます。先輩が受験することと、提出する写真の情報を何らかの方法で突き止めて、今回の犯行に及んだと見ていいでしょう。」
真樹の言葉によって、部室にはどんよりとした空気が流れる。そんな中、杜夫は真樹に聞いた。
「それはそうと、真樹。どうやって犯人を見つけるんだよ?虱潰しって訳にはいかないんだろ。」
杜夫の問いに真樹は真顔のまま答えた。
「おびき出す。そのために先輩にやってもらいたいことがあります。」
「私に…?」
真樹にそう言われ、キョトンとする木下。そして、真樹は作戦の概要を写真部員に話した。
放課後。写真部の部室前にて。
「…。開いてる。誰もいないわよね…?」
一人の女子生徒が部室に入ってきた。だが、彼女は写真部員ではない。きょろきょろと、無人の部室を物色していると、机の上にノートパソコンとUSBメモリーが置いてあるのに気づく。
「不用心ね。この前の事、もう忘れてるのかしら?」
そして、パソコンを立ち上げてUSBを読み込み、中のデータを閲覧する。
「あった。これね。申し訳ないけど、頂いちゃお!」
女子生徒がデータをコピーしようと写真をクリックしたその瞬間、ピーッ!という警報のような音がパソコンから響き渡る。そして、その直後に部室の扉が開いた。
「やっぱりいました。あいつが犯人です。」
真樹は冷静にそう言った。真樹の考えた作戦は、木下に受験で使う写真の事をわざと教室内で話させ、家のパソコンが故障中だから仕方なく学校の物を借りていることもアピールさせた。因みに、木下の家のパソコンは現在は既に修理が完了しているので、自宅でも作業できるようになっている。それと、真樹は木下のUSBに細工を施し、無理矢理コピーすると警報が鳴るアプリを仕込んだのだった。結果、パソコンとUSBを用いた囮作戦は成功したのだった。この状況を見た木下は怒りながら言う。
「ちょっと!私の写真をどうするつもりだったのよ?!」
そう言われて、真っ青になる女子生徒。加えて杜夫と小林も怒りながら言い放つ。
「貴様、俺たちの先輩の邪魔しやがって!」
「許さねぇぞ、泥棒め!覚悟しやがれ!」
杜夫達が指をポキポキ鳴らしながら捕まえようとしたが、女子生徒は諦めない。
「くそっ!」
写真を諦めて強引に突破しようとした女子生徒だが、真樹によってあっさり捕まってしまう。
「残念ながら逃げることは出来ん。」
真樹はそう言って女子生徒の両手を背中に回し、床に押し付けて確保した。そこに木下も詰め寄る。
「あんたのせいで、私この前大学受験できなかったのよ!どうしてくれるのよ!」
「私じゃない!私はただ、頼まれてやっただけで…。」
女子生徒は言い訳していたが、杜夫と小林の怒りはまだ収まらない。
「どんな理由だろうが、窃盗には変わりないだろうが!」
「そうだ!部室を荒らした罪は重いぞ!」
結局、女子生徒は真樹達に職員室に連れて行かれた。しかし、真樹はまだ何か引っかかっている様だった。
(この女の言うことが本当なら、黒幕がもう一人いるのか?だとしたら、そいつも潰さなければならん。)
そう思いながら、真樹は杜夫達と共に女子生徒を職員室に突き出すのであった。
おはようございます。
本当は昨日というこうする予定でしたが、色々あって今日になりました。
ごめんなさい。
次回もよろしくお願いします。




