第268話 膨らむ疑問
こんにちわ。
今月最後の投稿です。
不可解な事件が起こった。大谷津学院3年生で写真部前部長の木下希美が芸大受験の為に学校に課題を提出したのだが、木下が提出したものと全く同じものがその前日に提出されたというのだ。木下は何かの間違いではないかと必死で訴えたのだが、盗作疑惑を恐れた学校が彼女に対し本試験の受験辞退を要請したのだった。彼女は渋々受験辞退を受け入れて第一志望の受験準備に向けて気持ちを切り替えようとしたのだが、やはり完全に納得できるわけではなかった。
ある日。大谷津学院内の大教室にて…。
「翔子。少し音が弱いわ。もう少し力入れても大丈夫よ。」
「分かったわ。愛。」
吹奏楽部1年でフルート担当の大神愛が、トランペット担当の津田にそう言った。そして、その隣でも…。
「うーん…最後少しタイミングがズレたわね。もう一回おさらいしよ!」
「「「了解!」」」
チアリーディング部の宮下が、他のメンバーたちにそう言った。大谷津学院野球部が21世紀枠で春のセンバツ高校野球の出場が決定した為、吹奏楽部とチアリーディング部が応援に帯同する為に大教室を借りて合同自主練をすることになったのだ。前年夏に野球部が甲子園出場を決めた際は、真樹を嫌う2年生女子部員達から非難を浴びた両部1年生達だが、宮下が仕返しとばかりに週刊誌にそのことを暴露した為、2年生部員達は世間から非難を浴びた。そのこともあってすっかり大人しくなった2年女子たちは、今回に関しては何も言ってこなかった。それでも、2年達は真樹の応援に来ることはなく、裕也のサッカー部の応援に帯同することになっており、甲子園への応援は両部とも1年生が中心になっている。その後、皆練習を再開し、本番に向けて演奏と振付の合わせを熱心に行ったのだ。
「うん、上手いったわね。本番もこの調子で行くわよ!」
ご機嫌な様子で宮下はそう言った。その様子を他のメンバーがニヤニヤしながら話す。
「さすが郁美。彼氏の応援となると気合が入るわよね。」
「今度は彼女としての応援だもんね。本郷君、大活躍間違いなしよ!」
宮下は同級生で野球部の本郷丈と付き合っている。2人の話を聞いた宮下は顔を赤くしながら言う。
「なっ…ちょっとやめてよ!そんなんじゃないから!」
「もう、照れちゃって…。」
茶化される宮下。その横で、吹奏楽部の津田が真面目な表情で話す。
「そう言えば、写真部が今大変なことになってるらしいわよ。」
それを聞いた一同の空気が一気に変わる。そして、大神も続けて話し始める。
「うん。小林君から私も聞いた。写真部の小林君とクラス同じなんだけど、木下先輩が提出した課題と同じものを別の誰かが前の日に提出したらしいわ。それで、先に来たのが優先だからって先輩が入試を辞退させられたらしいわよ。」
その話を聞いた一同は当然ながらドン引きしている。
「ええ~、何それ…?」
「怖い…。意味わかんない。」
「木下先輩可哀想…。」
この話は写真部以外にもかなり広がっており、木下も担任や写真部顧問に掛け合ったのだが、いまだに原因が分かっていない。宮下も難しい表情で言う。
「なんか、この間の菅野先輩の件と言い、嫌なことばかり起こるわね…。でも、うちらはそんな事ないように信じよ!さ、最後にもう一回通しで行くわよ!」
「「「「「オッケー!」」」」」
宮下達は気持ちを切りかえて、再度練習に励む。限られた時間の中、彼女たちは練習に力を入れるのであった。
その夜。真樹の家にて…。
「う~ん。どうも引っかかるな。」
真樹は夕飯後にテレビで刑事ドラマを見ていたのだが、杜夫から聞いた話がどうしても頭から離れなかった。
「写真を盗むにしても、大勢いる受験生の中でなぜ先輩が狙われたんだ?」
真樹の考えでは、何者かが木下のデータから写真をコピーし、自分の物として大学に提出したと考えていた。だが、なぜ木下が狙われたのかまでは見当がつかなかった。
「受験生なんて全国にいくらでもいるから、今回の犯人も近くにいるのか?」
真樹がそう呟いているうちに、刑事ドラマの中で動きがあった。
『犯人はもう分りました。あんただぜ、鈴木さん!』
『ええっ。俺じゃありません!』
刑事にそう言われて鈴木という男が動揺する。今放送しているドラマの話では、ある漫画家が殺害され、鈴木というライバル漫画家が犯人として疑われている所だった。刑事は説明を続ける。
『あんたは被害者の山田先生のストーリーを盗作した。だが、それが本人にバレて口封じの為に殺した。そうだろ?』
『出鱈目だ!証拠はあるのか!』
『ありましたよ。とっさの行動だったから手袋も何もつけずに犯行に及んだ。近くの川に捨てられてた金属バットに被害者の血痕とあんたの指紋が出たってさっき鑑識から連絡があったぞ。これでもう言い逃れは出来ないな。』
『…。お、俺の方が…。俺の方が絵が上手いのに、面白いからってだけでアイツばかり評価されるのが許せなかった!あの話だって、あんな下手くそにかかせるくらいなら俺が書いた方がいい!それが読者の為でもあるんだ!』
『はいはい、身勝手な言い訳は署で話してね!じゃ、そういうことで!』
主人公の刑事はそう言って犯人を逮捕した。真樹はそれを見てふと思った。
「盗作か。今回も下手すりゃ先輩が盗作犯にされるところだったな。」
真樹はそう呟いた後、携帯電話を取り出してどこかに電話を掛けた。
『もしもし?』
「もしもし、杜夫か?俺だ。」
電話の相手は杜夫である。杜夫は不思議そうに返事をする。
『どうしたんだ真樹?こんな時間に?』
「木下先輩の話だが、犯人は近くにいるかもしれん。」
『ええっ?マジかよ。』
杜夫は驚いた表情でそう言った。真樹は更に続ける。
「大学の受験なんて日本全国から来る。だが、今回は狙ったように先輩と同じ写真を本人よりも早く提出した。もし最初からそれが狙いなら、先輩の受験の事を知っている人間じゃないとできない。」
『た、確かに…。でも、誰がどうやって?』
「それはまだ分からん。だが、このまま放置されれは先輩の受験に支障が出る。」
『そ、そうだよな。写真部としても、先輩の事放っておけないし。』
杜夫も心配そうに話す。真樹は表情を変えずに言った。
「だから、犯人を燻り出すしかない。俺に考えがある。」
真樹は杜夫に自分の考えを話す。こうしてしばらく話し込んだ後、二人は電話を切り、真樹は就寝したのだった。
こんにちわ。
久々に1年女子たちを登場させてみました。
そして、今回真樹はどう動くのか?
次回もお楽しみに!




