第263話 助かった美緒
おはようございます。
本エピソードもいよいよ大詰めです。
誘拐された美緒は、愛理達によってセメントで足を固められ、そのままプールに沈められようとしていた。しかし、場所を突き止めた真樹達の活躍によって美緒は無事に救出され、愛理達は全員真樹一人に完膚なきまでに叩きのめされた。そして、真樹が縄で縛った愛理を引きずりながら出てきたタイミングで、慶が警察に通報したのだった。
-十数分後-
「子安愛理だな。お前の仲間共々、散々警察の手を焼かせやがって。恐喝、窃盗、暴行及び、誘拐、殺人未遂の現行犯で逮捕する。」
駆けつけた警察官によって愛理は仲間共々パトカーに連行されていった。パトカーに乗せられる寸前、愛理は美緒の方を向いて言った。
「いいよね。美緒ちゃんは。美人で勉強もスポーツもできて!私みたいに、何もできない奴。どうやって生きていけばいいんだよ…。」
今までの自信満々な言動とは異なり、どこか寂し気で悲しそうな雰囲気を醸し出していた。そんなかつての幼馴染、愛理を美緒は複雑な表情で見つめていた。そんな時、真樹が止めの一言ともいえる一言を呟く。
「嫉妬して、自爆か。愚かすぎる末路だな。」
ホッパーフェイスの格好のまま真樹が辛らつな言葉を吐く状況は、傍から見てかなりシュールである。一方で美緒はというと、警察の後に駆けつけたレスキュー隊によって足のセメントの除去作業が行われていた。美緒の足を傷つけないよう、慎重にドリルや金づちを使い、数十分後…。
「はい、取れたよ!もう大丈夫だから!」
「や、やった…。本当に助かった…。」
美緒はフラフラになりながら、涙目で居間の状況を喜んだ。しかし、ここ数日監禁されていた影響もあり、かなり衰弱している。
「君、かなり弱ってるね。一度病院で詳しく検査しよう。」
「分かりました。」
医療班の言葉に対し、美緒は素直に頷きながらそう言った。救急車に案内される美緒を見て、莉緒もその後に続く。
「私も付き添います。家族なので。」
こうして菅野姉妹は救急車で近くの病院に向かうことになった。美緒は救急車に乗る直前、一同の方を向き直って言った。
「みんな。本当にありがとう。この恩は一生忘れないわ。でも湯川君。もうこれ以上危ない真似は控えなさい!」
それだけ言うと、美緒は莉緒と共に病院へ向かっていった。
「委員長のお説教は健在ね。」
「ああ、あれだけ元気があればすぐ戻って来るだろ。」
沙崙と杜夫が微笑みながらそう言った。そして、慶も続けて真樹に話しかける。
「美緒が助かってよかったね。でも、いくら嫉妬してたからって言いがかり付けて殺そうとするのは酷いよね。幼馴染にそれやられたら悲しいよね。」
「オニィと姫宮の関係も少し似ていると思ったぞ。」
姫宮とは、慶の中学時代の陸上のライバルである。彼女は慶の事を下に見て、ありとあらゆる妨害工作で経緯をつぶそうとしたが、真樹の手によって悪事を暴かれて、陸上界から追放、学校も退学になっている。
「あったねぇ。そんな事。真樹と美緒が無茶して姫宮さんに制裁加えてくれて、本当に助かった。ありがとう。」
慶はかつての事を思い出しながらそう言った。すると、武司が真樹の所にやってきて尋ねた。因みに、彼はマスクを脱いでいるものの、服装はホッパーフェイスMark2のままである。
「1個聞きたいんだけど、何でMark2になるのが俺だったの?真樹、迷わず俺を指名したじゃん?」
作戦開始直後は緊急だったためそんなことを考える暇もなかったが、終わった後に疑問がわいてきた武司だった。真樹はそんな武司に真顔で答える。
「お前が一番パワーあるからな。万が一俺がやられた後にお前が全部かたずけてくれると信じたからだ。」
「そ、そんな無茶苦茶な。いくらなんでもキツイわ!」
まさかの回答に武司は苦笑いするしかなかった。全てが上手くいって、ほっとしている所に伸治が声を掛ける。
「ふぅ…。まぁいいじゃねえか。助かったんだし!それと、いい時間だし、せっかく横浜来たから中華街で昼飯でも食おうぜ!」
伸治の提案には全員が賛成し、一同はそのまま中華街へ向かっていったのだった。
一方で美緒はというと、横浜市内の総合病院に搬送された。すぐに精密検査を受けた結果、怪我は掠り傷程度だったものの、数日間ろくに物を口にしていなかった影響で体力が低下していたこともあり、1日入院して点滴治療することになった。病室に運ばれベッドに横たわる美緒に、付き添いできていた莉緒はポケットから何かを取り出した。
「お姉ちゃん。はい、これ。」
「これ…私の!どこにあったの?」
莉緒は美緒のお気に入りのアニメキャラのキーホルダーを渡した。誘拐された際に鞄から落ちたものである。
「誘拐された時に落としたみたい。お姉ちゃんの学校の人が見つけてくれたよ。」
「そう…。何もかも迷惑かけまくったわね、私。」
「お姉ちゃんは悪くないわ。みんな心配してたよ!私の動画の視聴者さんも本気で心配して、情報提供してくれたし。」
「どういうこと?」
「お姉ちゃんが行方不明になった後、私が動画で生配信してお姉ちゃんの事話したら、視聴者さんが手がかりを教えてくれたの。そのおかげで、湯川さんたちが愛理ちゃんのアジトを突き止められたって訳。」
「はぁ…あんたも危ないことしたわね。でも、助かったわ。ありがとう。」
姉妹でそんな話をしているうちに、一時間後。
「美緒!」
「大丈夫だったか?」
二人の母である麻子と父親の祐太郎が血相を変えて病室に入ってきた。
「お母さん、お父さん…。」
美緒は少し安心した表情でそう言った。二人は美緒の手を握りながら美緒に話しかける。
「無事だったのね!本当に良かった!」
「本当に心配したんだぞ!でも、生きて帰ってきてくれて父さんたちは嬉しいぞ!」
「心配かけてごめんね。でも大丈夫よ。明日には退院できるし。」
その日の夜。
「千葉県成田市で、女子高生を誘拐したとして10代の少女4人が逮捕されました。逮捕されたのは、横浜市内に住む非行グループの少女4人です。調べによると、4人は千葉県内に住む高校生、菅野美緒さんを誘拐した上で、セメントで足を固めてプールに沈めようとしたとの事。調べに対しリーダー格の少女は容疑を認め、菅野さんとは幼馴染で、何もかもうまくできる菅野さんの事が憎たらしかったから殺そうと思ったと供述しております。さらに、少女たちはここ最近頻発していた恐喝や窃盗に関しても容疑を認め、ストレス発散と遊ぶお金が欲しかったことが理由であることも述べており、警察は更なる余罪が無いか捜査を続ける模様です。」
「どこまでも救いようがない奴だな。俺とは大違いだ。」
帰宅後、夜のニュースを見ながら真樹はそう言った。真樹は幼少期、肥満体質で勉強も運動も苦手だったため、女子から酷いいじめを受けた。その後、野球を始めたことがきっかけで体系も改善し、猛勉強して進学校に主席入学した。そんな自分と比べて、努力することなく落ちぶれた愛理達を真樹は憐みの思いで見ていた。
「まあいいや。俺はバカ女たちを直接フルボッコにできて気分的にすっきりしたし。」
そう言って真樹は上機嫌のまま部屋に戻り、眠りに就くのだった。
おはようございます。
次回で本エピソードはラストです!
必ず今年中に終わらせますので、お待ちください!




