第262話 決戦の日
こんにちわ。
年内に終わらせたいので二日連続投稿します。
美緒が攫われてもう数日が経過している。犯人である幼馴染の子安愛理は、美緒の足をセメントで固めて水の中に沈めるつもりだ。彼女の死が刻一刻と迫る中、真樹はある作戦を実行しようとしていた。
-土曜日 AM10:00 -
「着いた。ここか。」
真樹は上を見ながらそう言った。ここは神奈川県横浜市神奈川区、東神奈川小学校の旧校舎前である。美緒が監禁されている場所をここだと推測した彼は、直接突入することを選んだ。因みに、普段土曜日は野球部の朝練があるのだが、顧問の関屋がこの日親戚の葬儀に参列しなければならなかったので、練習は休みになっている。
「でも、美緒がいてもいなくても危ない賭けになるね。何か僕、心配になってきた。」
慶は困惑しながらそう言った。実は、昨晩真樹は何かを思いつき、グループトークにメッセージを入れた。結果、杜夫達を含むいつものメンバー&莉緒がここに訪れたのだ。伸治と沙崙も少し不安そうに話す。
「菅野がここにいれば、助けられる。本当にやるんだな、真樹?」
「メッセージ見たけど、大胆過ぎて上手くいくのか分からないかも。」
そう言う二人に真樹は答える。
「心配するな。こっちも無策じゃない。杜夫、あれを用意してくれ。」
「あいよ!」
真樹にそう言われた杜夫は、鞄から箱を取り出した。そして、蓋を開けて中身を出すと…。
「お、お前…こんなん持ってたのか?」
武司が驚きながらそう言った。杜夫は自慢げに続ける。
「親が誕生日プレゼントでくれたんだ!これならどこからでもいい写真が撮れる。写真部には必須だ。」
杜夫が持ってきたものは、30㎝ほどの大きさの、白い小型のドローンだった。カメラも搭載されており、上からの写真を撮りたがっていた杜夫に彼の両親がプレゼントしたものだった。真樹はこのことを以前に聞いていたので、持ってくるように頼んでいた。
「よし、杜夫。起動させて飛ばしてくれ!」
「よっしゃー!」
杜夫はドローンの電源を入れ、リモコンの操作を始めた。するとドローンは静かに宙に浮き、校舎の所まで飛んで行った。
「公津さん、準備できました。」
「よし、カメラ起動!接続するよ!」
タブレットを持った莉緒がそう言うと、杜夫はカメラを起動した。すると、赤外線を介して莉緒のタブレットに接続され、映像が映し出された。
「よし、映った。そのまま操作を続けろ。」
真樹が二人にそう言う。杜夫のドローンはしばらく敷地内を飛び続け、教室や屋上を一通り見まわった後、体育館の窓まで来た。
「ん?待て、杜夫。ドローンをそのままキープだ。」
「お、おう!」
真樹に言われて、杜夫はドローンの動きを止める。すると、莉緒がタブレットの映像を見ながら言った。
「あ、いました!姉です!それと、やっぱり愛理ちゃんです!」
莉緒に言われ、タブレットの画面を覗き込む一同。そこには体育館の中に美緒と、愛理のグループがいるのが見えた。
「ホントだ!美緒だ!」
「縛られてるわ。後、足元に何かあるわ。」
慶と沙崙が映像を覗き込みながらそう言った。ここがアジトだと分かった時点で真樹は次の手を打つ。
「よし。第二段階だ。準備始めよう。」
真樹はそう言うと、鞄から何かを取り出して武司に渡した。
「ほら、お前の分だ。」
「真樹、マジでこれやるの?つーか、これが効果あんのか?」
「ああ。もう手段は選べない。作戦通り、俺が引き付けてその隙に武司が菅野を救出しろ。後はみんなで何とかする。」
困惑している武司に対し、真樹は表情一つ変えずに作戦の準備を始める。そんな二人を見て、莉緒が伸治に聞いた。
「あの~、湯川さんっていつもこうなんですか?」
「ああ。やり過ぎちゃうけど、なんだかんだで上手く切り抜けちまうんだよな。俺も昔そうやって助けられたし。」
伸治はかつて、母親が詐欺師に騙された際に真樹の作戦でお金を取り返したことを思い出しながらそう言った。こうして、真樹達の美緒救出作戦は進んでいったのだった。
一方その頃、体育館では。
「愛理ー!固まったよー!」
取り巻きの少女が美緒の足のセメントを確認してそう言った。セメントは完全に固まり、これで美緒は完全に動けなくなった。
「よーし、運ぶわよ!」
愛理はそう言うと、取り巻きは美緒を台車に乗せ、体育館を出る。そして、隣にあるプールまで台車を押し、プールサイドに立った。ここまで、全員が杜夫のドローンで見られていることに気付いていない。
「いやぁ、懐かしいね!私はプールの授業大嫌いだったけど。」
「…。」
愛理の言葉に対し、美緒は絶望や恐怖からもう何も言えなくなっていた。校舎が使われなくなってもプールの水は抜かれないまま放置され、コケなどで水は緑色に変色している。更に、今は真冬だけあって表面には薄い氷が張っていた。
「じゃあ、美緒ちゃんの泳ぐ時間だよ!みんな、お願い!」
「はーい!」
「お楽しみの時間だ!」
「面白くなるぞー!」
愛理に指示された取り巻き達はそう言って美緒を台車ごとプールに近づける。汚くて冷たいプールの水が近づくにつれ、美緒は放心状態のまま呟いた。
「ああ~もうダメなのね。私、こんなところで死んじゃうんだ…。」
美緒が水面まであと少しの所まで来た、その時だった。
「待て、悪党共!」
突然の声に驚く愛理達。すると、プールに人が二人は言ってきた。
「な、何よこれ…?」
愛理は唖然とした表情でそう言った。そこにいたのは緑色のスーツとフルフェイスのヘルメットをかぶった二人組がいた。
「俺は貴様ら糞女から委員長を助けるためにやって来た、ホッパーフェイスだ!」
「同じく、ホッパーフェイスMark2、参上!」
そう名乗った二人。実はこれ、ホッパーフェイスのコスチュームを身にまとった真樹である。もう一人、Mark2を名乗ったのは武司だ。因みに、ホッパーフェイスMarkは前日真樹の見ていた再放送の3話には登場していないが、本放送では15話から登場しており、現在は二人体制で怪人と戦っている。突然の出来事に愛理達や美緒も何が起こったのか理解できていない。真樹は話を続ける。
「さあ、バカ女共。今すぐ菅野美緒を解放して、警察に自首しろ!」
「ふざけた格好したあんたに言われたくないわ!今、長年の恨みを晴らす大事な時間なの!邪魔しないで!」
愛理は怒りながら真樹に言い返し、美緒が乗った台車に手をかけようとした。しかし、真樹はそれを見逃さない。
「そうはさせるか!」
真樹はそう言うと、ダッシュで愛理に接近して思いきりタックルをかけた。すると、愛理の体は吹き飛び、プールサイドの端まで転がっていく。
「きゃあっ!」
「愛理!」
悲鳴を上げた愛理に、取り巻き達が駆け寄る。それを見て、真樹は武司に声を掛けた。
「武司、今だ!」
「よっしゃー!」
武司は美緒が乗った台車に駆け寄り、急いで押しながらプールから出る。因みに、ホッパーフェイスの格好をしている理由は、真樹曰く「相手を驚かせて隙を作る為」である。
「菅野、安心しろ。分からねえかもしれないが、俺だ!」
「ゆ…、夢じゃない。ってゆうか前原君?」
武司は美緒にそう声を掛け、美緒も目の前の事がようやく現実だということが分かり、ついでにMark2の中身が武司であることにも気づいた。そして、美緒は武司に再び問う。
「じゃ、じゃあ今大太刀回りしてるのは…?」
「真樹だよ。」
「やっぱり…。」
それを聞いて美緒は呆れつつも、どこか安心した表情を浮べたのだった。
美緒を奪還された愛理達は、まだプールサイドにいた。そして、そのことに皆が怒り始めた。
「愛理~、あの子取られたんだけど!」
「マジあり得ない!」
「お楽しみなのに!」
取り巻き達が真樹に文句を言い始めた。そして、愛理の方もまだあきらめてなかった。
「何よ!折角の時間邪魔して!みんな、こんなの無視して奪い返しに行くわよ!」
愛理達は武司を追いかけようとしたが、そこに真樹が立ちふさがる。
「まて、お前らの相手はこの俺だ。」
とおせんぼうする真樹に対し、取り巻きの一人が逆上しながら迫る。
「もう我慢できない!ぶっ殺してやる。」
そう言ってカッターナイフを手に真樹に迫ったのだが…。
「ホッパー、パーンチ!」
「きゃあ!」
真樹は攻撃をかわし、相手の顔面に強烈な右ストレートをお見舞いした。相手は悲鳴を上げ、殴られた反動でプールに落水した。
「こ、このぉ!」
「許さない!」
残りの二人の取り巻きも、木刀や金属バットを持って真樹に接近するが…。
「ぬるいんだよ、バカ女!」
真樹は攻撃を簡単にかわして高く飛び上がった。そして、飛び込み台に上って再び飛び上がり、そのまま落ちてくる反動を利用して…。
「ホッパー、キーック!」
「ぐはっ…!」
木刀を持った少女の顔面に強烈な回し蹴りをお見舞いした。案の定、その少女も吹っ飛んでプールに落ちた。更に、それを見て怯んだ金属バットを持った少女にも…。
「ホッパー、チョップ!」
「いたぁい!」
脳天に強烈なチョップをお見舞いされ、頭が眩んだ。そして、フラフラしながらそのままプールに落ちてしまった。こうして、残されたのは愛理だけになってしまった。
「う…うわぁぁぁっ!ば、化け物だぁ!」
そう言って愛理は悲鳴を上げながら体育館の方に逃げて行った。真樹もすぐに追いかけ、体育館のステージの所に愛理を追い詰める。
「逃げても無駄だ、子安愛理。」
「うるさい!勉強も運動もダメで、親からも学校からも見放された私の気持ちがあんたに分かんのかよ!」
「分からん。そして、それで犯罪を押していい理由にもならん。」
「も、もう怒った。美緒ちゃんの代わりにお前をぶっ殺してやる!」
愛理はそう言うと、隠し持っていた折り畳みナイフを取り出して、真樹の心臓めがけて突っ込んでいった。しかし、野球部で反射神経が鍛えられている真樹の相手になるはずがなかった。
「お前みたいなクズに殺される俺じゃない。」
真樹はそう言って、ナイフを持った愛理の手を掴んだ。もう片方の手でチョップを食らわせてナイフを床に落とし、後ろ手で締め上げる。そして、背中に強烈な蹴りをお見舞いした。
「きゃあ!あ、あんたね…女の子に暴力振るう男なんてサイテーよ!」
「悪いが、セメントで足を固めてプールで溺死させようとするやつに言われたくない。これで最後だ!」
横たわった愛理の両足を掴んだ真樹は、そのまま持ち上げて体を回転させた。
「ホッパー、スイング!」
ジャイアントスイングをお見舞いしたのだった。10回転位した所で真樹は愛理を壁の所に投げ飛ばし、壁に体を打ち付けた愛理はもうフラフラだった。
「こ、こんなはずじゃ…。」
「残念だったな、子安愛理。」
ぐったりしている愛理に対し、真樹はそう言い残したのだった。
一方、美緒を救出した武司はというと…。
「おーい、武司!こっち、こっち!」
「おお、菅野いる!無事だったか!」
「やった、作戦は上手く行ったんだ!」
校庭の真ん中で沙崙、伸治、慶と無事に合流していた。そのまま3人で美緒を校舎買いに連れて行く。
「お姉ちゃん!」
「り、莉緒…。」
莉緒は美緒を見るなり抱き着いた。
「よかったわぁ、無事だったのね!」
「う、うん…でも、何でみんなが?」
美緒が莉緒に問うと、莉緒が答えた。
「私の動画でお姉ちゃんの捜索に関して配信したら、視聴者さんがコメントで情報提供してくれたの。そして、お姉ちゃんの学校のお友達も一緒に探してくれたの!」
「み、みんな…。」
美緒は安心して微笑みながらそう言った。しかし、一つ重要なことに気付く。
「そ、そういえば…。湯川君!」
校舎内には愛理達と対峙している真樹がまだ残っていた。そのことで美緒は焦りだしたが…。
「お、おい。あれ見ろよ!」
杜夫が指をさすと体育館の中から誰かが出てきた。よく見ると、ロープでつながった何かを持っている。
「真樹だ!真樹は無事だったんだ!やったー!」
慶が嬉しそうにそう言った。そう、ホッパーフェイスの格好をした真樹が、ロープで縛った愛理を引きずりながら出てきたのだった。こうして、真樹の大胆かつぶっ飛んだ作戦により、美緒の命は救われたのだった。
こんにちわ。
年内に終わらせるため、かなり長く書きました。
次回もこんな感じになるかもなので、よろしくお願いいたします。




