第256話 姉を探して
こんにちわ。
今日は雨で残念です。
大谷津学院の生徒である菅野美緒が行方不明になった。突然の事に美緒の家族だけでなく学校側も騒然となっている。警察も必死で美緒の事を捜索しており、菅野家だけでなく学校にも事情聴取に訪れ、バレー部の面々だけでなく、担任の立石やクラスメートの真樹達も警察から話を聞かれた。しかし、依然として手がかりはなく、捜査はまだ難航しているのであった。
放課後。
「さて、帰るか。」
すべての授業を終えた真樹は椅子から立ち上がり、帰り支度を始める。するとそこに慶、杜夫、沙崙もやって来た。
「真樹、帰ろう。」
「警察から色々聞かれたけど、やっぱりわかんねぇな。」
「ホントに…。美緒はどこにいるんだろう?」
やはり、皆美緒の事が心配である。しかし、依然として美緒の行方が分からず、不安は増す一方だった。
「俺も、最後にあったのは昨日の居間位の時間だったからな。部活には参加していたのは間違いないから、いなくなったのはその後だということしかわからん。」
真樹の言う通り、全員が美緒の居所に関して心当たりがない。4人が教室を出ると、伸治と武司もそこにいた。
「おお、みんな帰ろうぜ。」
「やっぱり…部活以外で菅野がいないと違和感あるな。」
武司の言葉に全員が暗い表情になる。いつも一緒にいたクラスメートが突然姿を消した事で、重苦しい空気が漂っていた。全員が校舎から出ると、真樹が言った。
「菅野は少なくとも校内にはいなかった。だから、いなくなるとしたら恐らくここも消えた場所としては可能性があるだろう。」
真樹が指さした場所は、学校に面している道路と路肩の植え込みである。この場所はお世辞にも人通りや車が多いというわけではなく、特に夜になると人通りは少ない。
「でも、そうだとしてどうやって美緒がいなくなったの?」
慶がそう聞くが、真樹を含め誰もそれが分からないでいた。すると、杜夫が植木の方を見て何かに気が付いた。
「ん?何か落ちてるぞ。」
杜夫はそう言って植木の方に向かう。すると、アニメのキャラクターのキーホルダーが1つ落ちていた。それを見て伸治が言った。
「これって、ハイスピードスパイクの主人公じゃね?」
それは美緒が好きな漫画原作のアニメである。そのキャラのデフォルメされたキーホルダーだったが、今度は沙崙が何かに気付いた。
「これ、美緒が鞄に付けていたやつだ!何でここに?」
そう、それは美緒が通学鞄にいつも付けている物であった。美緒以外にこのアニメのキャラのキーホルダーを付けている者はおらず、皆が美緒の物であると気づいた。
「じゃあ、昨日菅野はここを通ったってことは間違いってことか?」
「そのようだな。几帳面なアイツが、そんな大事な物を落として放置する訳がない。おそらく消えたのはここだ。」
武司の問いに真樹はそう答えた。すると、前方から声が聞こえてきた。
「あ、あの…。」
その声を聴き、全員が前を見る。そこには中学生らしい制服姿の少女が立っていたのだが…。
「えっ?リオリオじゃん!」
「マジか!本物だ!」
中学生インフルエンサーであるリオリオこと菅野莉緒が立っていた。視聴者である伸治と杜夫は、驚きのあまり大きな声を上げた。
「お姉ちゃんのお友達ですか?」
「お姉ちゃん?」
莉緒の問いに慶が首を傾げる。すると、真樹が莉緒の前に立って言った。
「菅野美緒に顔がそっくりだが、やはりあんたは…。」
「はい。妹です。」
冷静な真樹に対し、他の者は驚きを隠せない。
「ええっ?マジかよ!」
「最初見た時は確かに似てるなって思ったけど、姉妹だったとは。」
武司と沙崙はそう言った。莉緒は悲しそうな表情で続ける。
「お姉ちゃんが昨日から帰ってこなくて、私も探したいって思ったのでここまで来たんです。でも、私も心当たりがなくって…。」
莉緒の言葉に全員の表情が曇る。そんな中、真樹は杜夫から拾ったキーホルダーを受け取り、莉緒に見せる。
「このキーホルダーに見覚えがあるか?あいつがいつも鞄に付けていたものだが、そこに落ちていた…。」
キーホルダーをみた莉緒ははっとした表情で言った。
「これは…間違いありません。姉のです!」
莉緒の言葉を聞き、全員の空気が張り詰める。美緒が昨晩ここでいなくなったことがほぼ確定したも同然だからだ。
「でも、物を大事にする美緒がどうしてそれを落としたままいなくなったのかが僕にはわからないよ。仮になくしたら、美緒は必死で探すと思う。」
慶の言うことはごもっともだった。そして、それに対し真樹が厳しい表情で言った。
「これはあまり考えたくないんだが…おそらく菅野は何者かに無理矢理連れ去られた可能性が高い。キーホルダーもその時に落ちたのだろう。それなら説明がつく。」
真樹の言葉に戦慄が走る。杜夫は驚いた表情で真樹に言った。
「つ、連れ去られたって…何で?誰に?」
「それは分からん。だが、これは重要な手がかりだ。とにかく警察に通報しよう。」
真樹は携帯電話を取り出し、警察に通報した。警察が来るのを待つ間、莉緒は真樹達に言った。
「私、もう心配で配信どころじゃなくなって…お母さんもお父さんもずっと姉の事を探しています。私も探しますんで、もしよろしければ皆さんも一緒に探していただけますか?」
莉緒の問いに対し、伸治と沙崙が言った。
「ああ、勿論だ!」
「美緒は大事な友達だから、当然よ!」
「あ、ありがとうございます!」
莉緒は深々と頭を下げながらそう言った。その後、警察が到着し真樹達は再び事情聴取を受けることになったのだった。
その頃、美緒はというと…。
「ううっ…。いつまで閉じ込めるつもりよ…。」
ほぼ丸一日、縛られたまま軟禁されている美緒は、元気のない声でそう言った。連れ去った犯人である子安愛理達は、朝から出て行ったきり戻ってこない。美緒はその間も愛理達が悪さをしているのではと思っていた。
「私、あの子に何かしたかしら…?」
正直、美緒には愛理が非行に走った理由も自分を連れ去った理由も未だに分からない。そんなことを考えると、扉が再び開いた。
「やあ、元気してた?」
朝と同じように愛理が仲間を引き連れてそう言いながら現れた。美緒は愛理を睨みながら言った。
「気が済んだでしょ。いい加減解放しなさいよ。」
「いや、そうはいかない。お楽しみはこれからよ!」
愛理は首を振りながら美緒にそう言った。そして、取り巻き達が美緒の所に近づいた。
「これから楽しい場所に連れてってやる。」
「だから、ちょ~っと大人しくしててね!」
そう言って取り巻きの少女たちは黒い布で目隠しをし、口に白い布を巻き付けて塞いだ。
「うぐぐ…。」
美緒はもがくが手足を縛られているので動けない。そんな美緒に愛理は言う。
「場所も知られたくないし、叫ばれても困るから、しばらくそれで我慢してね!じゃあ、行こ!」
そう言って愛理は美緒と椅子を縛り付けている縄だけをほどき、仲間たちと美緒を担いで車のトランクに押し込んだ。
「さーて、メインイベントの会場に行くわよー!」
「「「イェーイ」」」
愛理は仲間たちと気分揚々な様子で車を発進させ、どこかに向かったのだった。
こんにちわ。
事件が動き始めました。
果たして、真樹達は美緒を見つけることが出来るのか?
次回をお楽しみに!




