第23話 美紅、終了。
こんにちわ!
さあ、美紅に鉄槌を下す時が来ました。
動植物園の休憩スペースで、まさに修羅場とも言える出来事が起こっていた。美紅が一方的に片思いしている修二の彼女を名乗る女性、塚田愛が現れたからだ。美紅は自分以外の女性が気に入られていることに関して当然面白くないと思っているので、すかさず愛に噛みついた。
「ちょっ、何言ってんのあんた?美人かもしれないけど可愛げも色気も微塵もないくせに生意気よ!」
「あんたみたいに色目使って他人を蹴落とすような悪女に修二君を渡す訳にはいかないわ。」
勿論愛もこれで言い負かされる訳ではない。しかし、何故愛はこのタイミングでここに現れたのか。詳細は数日前に遡る…。
「初めまして、塚田愛です。」
「紹介する。俺の彼女だ。」
夕方、修二によって津田沼駅前の広場に集められた真樹達は、その説明を受けてポカンとしていた。修二に彼女がいる事は満も知らなかったのだった。
「お、お前ら本当に付き合ってんの?」
「そうだ。」
「うん、飯山君も久しぶり!」
「ひ、久しぶり。修二、何で言ってくれなかったんだよ!」
「ごめんごめん。言う機会を逃してた。」
動揺しながら詰め寄る満に謝る修二。そして、事態が今一つ飲み込めてない真樹が修二に尋ねる。
「で、どうして俺達にこの人を紹介したの?」
「満から聞いているかもしれないけど、押上が中学の時女子生徒を不登校のち転校に追い込んだのは聞いているだろ?」
満は以前に真樹達に、美紅が美人で優等生な女子生徒に嫉妬し、取り巻きたちと組んでいじめ抜いた末、嫌いな教師共々学校から追い出した話を聞いていた。そして、それを思い出した慶がはっと気がついた。
「ま、まさかその生徒って。」
「ええ、私よ。」
その事実を知って、一同はさらに驚いた。まさか、今回の作戦の協力者の彼女が、美紅の一番の被害者だったのだから。真樹はすかさず今の状況を愛に説明した。
「そうだったのね。あの子、何も変わってないわ。」
「あなたが協力してくれれば押上の野郎に致命的なダメージを与えられるんですけどね。」
真樹は複雑に思いつつも、愛に協力要請を出した。というのも真樹も幼少期に酷いいじめを受けてトラウマを抱えている為、愛もそうなんじゃないかと踏んでいたからだ。すると修二も愛に声を掛ける。
「辛い事を思い出させちゃうかもしれないけど、できそうか。愛?無理にとは言わない。」
修二がやさしくそう声を掛けると、愛は心を決めたような力強い目をしながら言った。
「いいわ。私もこのままあの子の呪縛にとらわれたままじゃいられないし、私に手を差し伸べてくれた修二君の恩でもある。言いたいこといっぱいいってやるわ!」
「ホント?ありがとう!嬉しいよ!」
慶は笑顔で会いの手を握った。交渉成立だ。そして、愛は一つ気になっている事を尋ねた。
「あの、一ついい?」
「何?」
慶が首をかしげた。そして愛は真樹の方を向いて言った。
「どうして彼はずっと背中を向けているの?」
真樹は愛が来てから、説明はしつつもずっとそっぽを向いたままだった。女嫌いに彼にとって慶以外の女子と校外での接触、特に他校の女子と接触するなんて彼の中では考えられなかった。
「ごめんなさい。俺、女子って言う物がダメなんです。無礼は詫びますが、このスタイルだけは許して下さい。」
そう言った真樹を愛は不思議に思いつつ今回の作戦に参加してくれた。そう、最後の切り札として。
「よくも私を虐めてくれたわね!少しでも覚えていたら考えたけど、完全に忘れてるみたいだからもう許さないわ!」
かなりの怒りを込めて愛は美紅に言い放つ。そして、美紅はようやく思い出したのか、大声で叫びながら愛を指さした。
「思い出したわ!ちょっと綺麗で勉強や運動が得意だからって、男子にちやほやされて!可愛くないのに美紅より人気者になろうとしたから当然の報いを受けたまでよ!全部あんたが悪い!おまけに修二くんまでたぶらかすなんて!今度こそ外で歩けなくしなくちゃ!」
相変わらず時運勝手なことばかり言う美紅。そして、遂に修二の怒りが爆発した。
「マジでいい加減にしろよ押上!助けられなかった俺が言うのも難だけど、好きな人にこんな虐めして、尚且つ自分が一番だと思い込んでいる奴なんか誰が好きになるかよ!迷惑なんだよ、お前!」
普段はクールで、尚且つ自分の想い人である修二のあまりの剣幕に美紅は完全に動揺し、押し黙ってしまった。そして、愛の方も反撃に出る。
「でも、唯一の救いは転校先は私を受け入れてくれたし、修二君は私がいなくなった後も連絡してくれて気にかけてくれたわ。そして、告白もしてくれて私が修二君の彼女になれたの。ありがとう、あなたがいじめてくれたおかげでこんな素敵な彼氏ができたわ!」
勝ち誇ったように美紅を挑発する愛。美紅の方も、自分が愛を追い出したことがきっかけで、逆に修二と付き合うきっかけを与えてしまったとは思っていなかった。自分の片思いの人間が、よりによって自分が一番嫌いな人間と付き合っていたことで、もう彼女のプライドはズタズタだった。そして、遂に美紅も平常心を失い…。
「許さない…許さない許さない許さない!!!!美紅をこんな酷い目にあわせて!こうなったら、二人とも美紅に酷いいじめをした人として掲示板に書き込んでやるわ!美紅は可愛いから、みんな味方になってくれる!これが明るみになったら二人とも虐めの主犯として一発で退学よ!覚悟しなさい!」
「そうはいかないぜ!」
そう言って真樹は隠れていた草むらから勢いよく飛び出してきた。真樹に続いて慶と武司、満も出てきた。当然ながら、美紅は驚いている。
「な、何なのよあんた達!」
「濡れ衣着せるのもここまでだ押上!お前のさっきまでの言動は全て動画にとってある!だから、もうお前の思い通りにはならないぞ!」
真樹は美紅が事実を捻じ曲げるのを想定して、ボロを出した所を全て動画として残しておいたのだった。こうしてもう猫を被って話を盛る事が出来なくなった美紅は完全に追い詰められた。
「お、女の子のことを勝手に動画にとってただで済むと思ってんの?よりによって一番知られたくない所を取るなんて!盗撮、犯罪、最低!今すぐ消しなさい!そしたら許してあげなくもないわ!」
「無駄だよ!さっきの押上さんの醜態は全てライブ配信させてもらった。これでもう逃げ場は無くなったよ!僕達を勝手に悪者にした天罰だ!」
慶は今までの鬱憤を晴らすように美紅に冷たく言い放つ。そして、美紅は今まで経験したことが無い位人に責められている上、完全に自分が不利な状況にすっかり耐えられなくなっていた。
「うるさい、うるさい、うるさい!みんな許さない!こうなったら、こうしてやる!」
美紅は何を思ったのか、近くにあった握りこぶしほどの石を拾い上げ、真樹達めがけて投げ始めた。流石にこの攻撃では迂闊に近寄ることはできない。
「うわっ、こいつ石投げてきやがった。ひえっ、やめろ!助けてくれ!」
「どうしよう!当たったら骨が折れる!やばい、うわっ!」
武司と満は必死に逃げ回りながら悲鳴を上げる。そして、周りに石が無くなったと見るや、美紅は茂みに落ちていた太く長い枝を拾い上げ、愛に向かって殴るかかる。
「ヤバい、あいつマジでやる気だ!」
「くそお、完全にぶっ壊れちまった!」
武司と満はその美紅の様子に完全にドン引いている。彼女は普段子猫の様な愛嬌をふりまいているが、今の彼女は理性を失った猛獣その物だった。
「うわぁぁん!世界い可愛い私に恥をかかせた罪、死んで償え!」
愛はその様子に恐怖を感じ、修二にすがる。そして、それを止めるべく真樹と慶が正面から美紅を受け止める。
「勘弁しろ、押上!お前の負けだ!」
「こんなことしたって一門の価値もないよ!」
「うっさい!根暗男と、オトコ女は引っ込んでてよ!触んないで、汚れる!」
そう言って美紅は持ってた枝を振りかざし、真樹の背中を叩きまくる。勿論真樹の背中には激痛が走っているが、このまま黙る真樹ではなった。
「いってぇ…こんのぉ!いい加減に…しやがれ!」
そう言って真樹は美紅の持っている枝にひざ蹴りを食らわせた。すると枝は真っ二つに折れ、それを慶が取り上げる。
「こらっ!君達何やってんだ?!」
丁度巡回していた園の職員が真樹達に駆け寄る。真樹は背中の痛みをこらえながらゆっくりと立ち上がった。
「いってぇ。まぁ、仕方ない。説明しよう。」
一方美紅は…。
「う、うわぁぁぁん!みんなのバカ、バカ!地獄に堕ちろ!」
子供の様に大泣きしながら、尚も真樹達に暴言を吐き続けた。
その後、真樹達は園の事務所に連れて行かれ事情聴取を受けた。美紅はみんなが自分を虐めて私は悪くないと言い張ったが、真樹の映像が決め手となり、園内を荒らして暴力行為を働いたとして学校に連絡が行ってしまった。結果、美紅は同級生及び他校生への暴行、園内での迷惑行為、更に真樹が撮った動画で過去のいじめの事実が暴かれ、1週間の停学処分が言い渡された。さらに、これがきっかけで教職員からの信用も失ってしまった。こうして、好き放題にふるまっていた押上美紅の独裁国家は崩壊したのだった。
「いてて、あの野郎本気で殴りやがって。」
「まぁまぁ。骨は折れてなかったんだし。それにしても、これで濡れ衣を着せられなくなったと思うとホッとするよ。」
騒ぎの翌日の放課後。真樹と慶は二人で駅目指して歩いていた。美紅が停学になって登校していないので、校内はいつもに比べて静かな印象を受けた。
「でも、押上さんがいじめた相手がまさか好きな人彼女になるなんて。因果応報だね。」
「ああ。これであいつも少しは大人しくなるだろ。じゃなきゃもう、今度こそ終わりだな。」
「それにしても修二君と愛さんお似合いだったな。真樹もお似合いの彼女見つけないとね!」
「絶対に嫌だ!恋愛も結婚もクソ!俺は全ての女性をぶっ倒す!それだけだ!」
慶が言ったジョークに腹を立てて否定する真樹。捨て身の戦法で平和を取り戻した真樹の学園生活は、まだ続く。
こんにちわ!
内容がカオスな上に長くなってしまいました。
ごめんなさい。
次回から新編です。
今度はどんな強敵が現れるのか?
お楽しみに!




