第222話 冬だ、鍋だ、地獄行きだ!
こんにちわ!
今年最後の投稿です!
12月22日。テスト休みが終わり、この日大谷津学院は終業式を迎えていた。朝、全校生徒が体育館に集められて校長の話を聞いている。
「え~、明日から冬休みです。最近、我が校はいろいろと問題が起こっているので、皆さんはくれぐれもトラブル等を引き起こさないようにお願いしますね。以上!」
そんな感じで終業式は終わり、生徒たちは教室に戻って行く。そんな時…。
「おい、クズ湯川!」
そう言ったのは裕也だった。裕也は真樹を見かけるなりケンカ腰で話しかけてきた。
「何?お前と話すことなんか無いんだけど。」
真樹は面倒臭そうに吐き捨てる。裕也はそんな真樹の態度が面白くなかったのか、不満げに叫んだ。
「チッ!折角この俺様がクリぼっちのお前に話しかけてやってんのによ!」
裕也に続き、取り巻きの女子たちも真樹を罵倒し始める。
「そうよ、生意気!」
「底辺のゴミ屑のくせに!」
「土下座しろ、土下座!」
好き放題言う女子たちに真樹は溜息交じりで言った。
「はぁ…うぜぇ。お前らみたいなのと話すと頭痛くなるからさ。冷やかしたいだけなら、さっさと向こう行ってくんない?」
「なっ!」
真樹の挑発的な言葉に女子の一人が顔を赤くして詰め寄ろうとしたが、裕也がそれを制止する。
「やめやめ!こんな糞つまんない奴に何言っても無駄!せいぜい寂しい冬休みでも過ごしてろよ、非モテ君!俺たちはイブとクリスマス当日にみんなでクリスマスパーティの予定あるからさ!行こうぜ、みんな!」
「やったー!」
「裕也君とパーティ!」
そう言って、裕也と取り巻き達は教室に戻って行った。そんな中、真樹はボソりと呟く。
「まぁ、こっちもこの後やらなきゃいけないことがあるからな。」
それだけ言うと、真樹も教室に戻りホームルームが始まる。
「じゃあ、ホームルーム始めるわね。とりあえず、体調崩す人増えてるから気を付けて。それと、冬休みの宿題もちゃんとやること。いいわね?以上!」
担任の立石のその言葉でホームルームが終わり、解散となった。そして、真樹の所に杜夫と慶がやってきた。
「真樹、今日が作戦の実行日だな。」
「でも、本当に上手くいくの?大野さんだよ。」
「ああ。大丈夫だ。問題無かろう。」
自信満々にそういった真樹。そこに美緒と沙倫もやってきた。
「上手く懲らしめてほしいけど、大野さんが非常識すぎて効果は未知数ね。」
「まぁ、でもここまで準備したし、失敗は無いんじゃない?真樹を信じよう!」
そう言った二人。こうして、一同は学校を後にし、大野を懲らしめる作戦へと向かったのだった。
-同日17:00 沙倫の自宅前-
「みんな、待ってたわよ!」
沙倫はドアを開けてそう言った。玄関前には真樹、慶、杜夫、美緒に加え、武史と伸治もいる。
「いよいよだな。大野の奴、面食らうぞ!」
真樹がそう言うと、被害者でもある慶、美緒、沙倫は少し燃えているような感じで言った。
「このまま野ざらしにするわけにはいかない!お灸を据えないと!」
「食べ物の恨みの恐ろしさを思い知らせてやるわ!」
「フフフ、準備は万端よ!覚悟しなさい、大野さん!」
一方の杜夫、武史、伸治は少し困惑した表情だった。
「それにしても、その大野ってやつマジで何なんだろうな?」
「怪獣?人間ブラックホール?」
「話聞く限り、誰かが食いに行くのを察知するセンサーでも付いているのか?怖い。」
そう話しながら、全員部屋に入っていく。そしていろいろ準備しているうちに、またインターホンが鳴った。
「お、来た来た!はーい!」
沙倫が玄関に行くと、1年生の宮下、大神、津田と登戸がいた。いずれも、以前大野から被害を受けた者たちばかりだ。
「こんばんわ~!」
「よろしくです!」
「お、お邪魔しますね!」
「先輩、なんか色々ありがとうございます!」
「いいの、いいの!さ、入って!」
沙倫は4人を招き入れ、1年達も真樹たちの準備を手伝う。そして、そろそろ準備が完了しようとした時だった。インターホンは鳴ってないのに、突如ガチャっと玄関のドアが開く音がした。
「フッ、やっぱり来たか。」
真樹は予想通りとばかりにそう言った。皆がテーブルに着こうとしたところで、そいつは現れた。
「どうも~。先輩の家でパーティ?私をハブるなんて許さないわよ~!」
案の定、呼んでもいないのに大野花子は現れた。それを見た大神と宮下はイライラしながらヒソヒソと話している。
「私がパーティーやる事SNSに書いただけなのに、本当に来るのね。」
「やっぱり普通に考えても無理ね…最早ストーカーじゃん。」
実は、真樹は大野を誘い出すために、大神に今日の事をSNSに書くように指示していたのだった。そして、誘いに乗った大野は全員既に配膳についているのに、無理矢理空いている所に座る。全く悪びれる様子もない大野が来た所で、作戦開始になった。
「じゃあ、作るわよ!」
沙倫はそう言うと、台所からカセットコンロ、巨大な金属の鍋、肉や野菜、魚を大量に持ってきた。見ての通り、鍋パーティである。
「わーい、美味しそう!」
大野は早く食べたくて仕方がないという感じだった。しかし、次の瞬間状況が一変した。
「さあ、まずは1種類目、入れるわよ!」
沙倫はそう言って台所からまた何か持ってきた。今回使っている鍋は日本にある普通の鍋ではなく、中国や台湾で使われる火鍋用の中が二つに仕切られている鍋だ。なので、1つの鍋で2種類の味が堪能できるのだが、スープの第一弾を沙倫は鍋に投入した。
「おお、いいねぇ!美味しそう!」
「冬はこれだな。温まりそうだ!」
慶と杜夫は大野のことなど気にせず涎を垂らしながらそう言った。投入されたスープは唐辛子が大量に使われており、燃えるような真っ赤な色をしていた。真樹達は微笑みながらその光景を見ていたのだが、突然大野が立ち上がって言った。
「ちょっと、何よこれ!これじゃあ私が食べれないじゃん!私が食べれない物出さないでよ!」
唐辛子スープに負けないほど顔を真っ赤にして、大野は怒鳴り散らした。実は、作戦を立てているときに大野に弱点が無いか真樹が探っていたところ、大野のSNSの過去投稿文に『唐辛子を食べる人は人間じゃない。』という文を見つけ、彼女が辛い物が苦手なのを知った。そこで、アメ横に行き、赤唐辛子を大量に買い込んでいたのだ。文句を言う彼女に、津田と登戸が怒り出した。
「ちょっと、勝手に付いてきてそれは無いでしょ!」
「そうだ、そうだ!作ってくれている先輩に失礼だろ!」
それでも大野はまだ後ろでギャーギャー騒いでいる。初めて大野の事を生で見た武史と伸治は完全に引いていた。
「普通にヤベえな、こいつ。」
「ああ。想像以上だ。」
鍋パーティの会場は一瞬で修羅場と化した。だが、沙倫はニヤリと笑いながら別のスープを持ってきた。
「じゃあ、もう片方にはこっちを入れるわね!」
火鍋のもう片方に、真っ白く濁ったスープが入れられた。今度は普通の鶏がらスープである。
「やったー!白い方は全部私が食べるわね!」
大野はまた勝手なことを言った。しかし、沙倫は更に追い打ちをかけるようにあるものを持ってきた。
「おっと、スープも温まってきたし、そろそろこれを入れないとね!」
皿の上には白くて四角い塊が沢山乗っているのだが、その瞬間大野がまた騒ぎ出した。
「な、何よこれ?!臭い、臭いわ!やだ、やだ!」
彼女の言う通り、白い塊が運ばれてきた瞬間部屋の中に独特な臭いが充満した。沙倫が持ってきた物は臭豆腐といい、豆腐を植物の茎などに漬け込んで発行させた食材だ。台湾や中国大陸では日常的によく食べられているが、その強烈な臭いから人によって好き嫌いが分かれている。沙倫は大好物で来日後も自主的に作っていたのだった。そして、大野が沙倫の胸倉を掴みながら食って掛かった。
「陳先輩がそんな人だと思わなかった!私に腐った豆腐を食べさせてお腹壊そうとしたんだ!最低!オニババ!」
「ちょっ、うぐぐ…。やめてよ、放してよ!」
あまりにひどい状況に、ついに美緒がブチ切れながら立ち上がった。
「もう、大野さん!いい加減にしなさいよ!さっきから聞いていれば、好き勝手ばっかり!折角の鍋パーティを台無しにしないでよ!」
そう言いながら美緒は沙倫から大野を無理矢理引き剝がした。そして、真樹も立ち上がって大野に冷たい眼差しを送りながら言った。
「お前がここまで自己中な糞野郎だとは思わなかったよ、大野。」
「何よ!湯川先輩も最低!」
大野は場の雰囲気を壊したことに対して微塵も反省していなかった。真樹はさらに続ける。
「食べたいのに食べれないのは辛いよなぁ。でも、お前はオニィ達にそういうことをしたんだぞ。今回だって呼んでもないのに勝手に上がり込んできて、その上文句言いながら大暴れするとか、クソガキ以下だぞ。分かってんのか?」
真樹の言葉にその場にいた全員が「うんうん」と頷いた。しかし、大野の怒りは収まらない。
「結局、みんな自分が食べたいモノ食べたいだけでしょ!卑しい、ケチ、ケダモノ!みんなお腹壊しちゃえばいいのよ!ご愁傷様!」
大野はそれだけ言うと怒りながら部屋を出て帰ってしまった。解放された後、咳込む沙倫にもいが心配そうに声を掛ける。
「沙倫、大丈夫?」
「ゲホ、ゲホ…大丈夫。あー、びっくりした。」
その様子を見て、大神と宮下は溜息交じりで呟く。
「もう、理解不能よ。酷すぎるし。」
「理解なんか一生できない。っていうかしたくないわ。」
津田と、誕生日会を台無しにされた登戸は笑っていた。
「でもなんか、仕返しできた気分。スッキリした!」
「ざまぁみやがれ!誕生日を台無しにした天罰だ!」
そんなこんなで状況も落ち着き、鍋に入れた具材も火が通った所でパーティーを再開することにした。
「できたみたいね!じゃあ、みんな食べよー!お疲れ様ー!」
沙倫がそう言い、改めて鍋パーティ開始。慶はおいしそうにモリモリ食べている。
「うん~美味しい!日本の鍋もいいけど、火鍋も美味しいね!2種類いっぺんに食べれるなんて贅沢~!」
杜夫も満足げに食べている。
「色々あったけど、上手くいって良かったな。鍋も美味いし!」
一方美緒、武史、伸治は初めて食べる台湾の鍋料理に驚きつつも喜んでいた。
「辛いわね…でも寒いから温まるし美味しいわ。豆腐もすごい匂いだけど、意外とありかも!」
「確かに臭いよな!でも、スープの味付けばあんまり気にならないぞ。」
「うん。食べれば普通に美味い!サンキューな、沙倫!」
全員が鍋料理に大満足だった。真樹も少し安堵しながら言った。
「これで懲りるような奴じゃないから、もう少し揺さぶりをかけるか。でも、今日は作戦成功したし、よかったな。」
「ほら、真樹も食べよ!無くなっちゃうわよ!」
沙倫にそう言われ、真樹も鍋を食べながら満足気に頷く。こうして、『大野に食べさせない作戦』は一応の成功を収め、一同は鍋パーティを楽しんだのだった。
こんにちわ!
冬と言えば鍋ですよね!
真樹の作戦が上手くいって良かったです!
それでは、今年の投稿はこれで最後です。
皆さん、よいお年をお過ごしください!
来年もよろしくお願いします!




