第216話 食べ物は怖いぞ
こんばんわ。
今月最終投稿です。
真樹は先ほど家でテレビゲームに興じていたのだが、慶からのSOSメッセージを読んだ後に家を出て電車に乗った。東京方面の快速列車に乗り、急いで慶たちがいる千葉駅へと向かった。
「ん~、あの大野とかいう奴、何なんだ?」
前日に大野の被害に遭った宮下が丈にSOSメッセージを送っていたのを見たのだが、元々関わりが無い上に、写真で見るだけでも普通の人間の行動と比べて明らかに常軌を逸しているので、真樹も理解に苦しんでいる。そう思っている間に電車は目的地の千葉駅に到着し、改札を出ると慶だけでなく、一緒にいた大神と津田がお通夜の様な表情で立っていた。
「オニィ!」
「あ、真樹来た!」
慶が手を振りながら真樹を呼ぶ。真樹もすぐに駆け寄って話を聞いた。
「オニィ、メッセージ見たぞ。何なんだ、あれは?」
「い、いや。僕も何が何だか…でも空気はめちゃくちゃになって…。」
慶がそう言って横を見る。そこには、今にも泣きそうな津田を大神が慰めている姿があった。
「うぅ…何で、何でよ!?」
「よしよし、泣かなくていいわ。悪いのは向こうなんだから。」
とりあえず、ただ事ではないと察した真樹は3人に言った。
「とりあえず、一度場所を変えよう。ゆっくり話を聞かせてくれ。」
真樹は3人と共に近くのファミレスに移動し、席に着く。そして、大野に振り回された時に減退した食欲が戻ってきたのか、真樹以外の3人はボリュームがあるものを注文して、なかなかの勢いで食べている。そんな時、慶が言った。
「ごめんね、真樹。せっかくの休みでのんびりしてたのに。」
「気にすんな。行くって言ったのは俺だ。」
真樹は隣に座っている慶にそう言うと、今度は向かい側に座る大神と津田の方を見て言った。
「オニィから、大野が来て食べ物を横取りされた上に、1円も払わずに逃げたことは聞いた。そして、昨日は宮下が大野の被害に遭った。そんな訳で、あいつと同じ学年の2人に聞く。あの大野とかいう奴は何者なんだ?」
真樹の質問に対し、二人は一瞬黙って目を合わせた。それから一呼吸置いて大神が話し始める。
「私、クラスも違いますし、あんまり良く分からなかったんです。そんな話したこともないですし。勿論今日の事も話してないのに、店に着いたらなぜか待ち構えていたんです。」
続けて今度は津田が話し始めた。泣き止んではいたが、その目は赤く充血している。
「追い返したんですけど『ずるい』とか言って無理矢理入ってきた上に、自分の以外が運ばれても最初にフォークを突っ込んできたんです。いくら注意しても自分の何が悪いのかが分ってなくて、話になりませんでした。」
食べて元気が出たのか、ようやく慶たちは元気を取り戻し始めた。そして、慶の方も愚痴をこぼし始める。
「本当に酷いよね!僕もおいしいパスタが食べれると思ってワクワクしてたのに、雰囲気ぶち壊しだよ!おまけに1円も払わずに逃走なんてありえない!食べ物の恨みは怖いからな…いつか仕返ししてやりたいよ。あ、すいません!エビピラフお代わりお願いします!」
怒り心頭の慶はそう言いながら大盛りのエビピラフを2杯も食べていた。真樹は続いて大神と津田に聞いた。
「大野って、学校でもあんななのか?見たことはなくても似たような噂を聞いたとか…?」
真樹の問いにまずは大神が首を振りながら言った。
「私は全然関わらないので良く分かりません。っていうか、あんなことされて気持ち悪くなったんで出来ればもう関わりたくないです。」
棘のある言い方で愚痴をこぼした大神に対し、津田は何かを思い出したかのように言った。
「そういえば…私、大野さんと同じクラスなんですけど、自分はクラスでナンバーワンのグルメだって豪語してました。食の最新トレンドは全部把握済みとか言ってたような。」
それを聞いて、真樹は半分呆れながら言った。
「それじゃあ、グルメなんかじゃない。ただの意地汚い奴だ。しかし、このまま放置したらまた何かやばいことが起こりそうだな。」
真剣な顔で真樹はそう言った。ようやく腹が満たされ、機嫌が直った慶たちはその後、真樹も交えて少し遊んだのだった。
一方その頃。都内にあるテーマパークでは宮下と丈がデートを楽しんでいた。
「きやぁぁぁ!、速ーい!」
「うぉぉぉー、楽しいぞー!」
ジェットコースターに乗って風を受ける二人、乗り終わった後二人は次のアトラクションに乗るまで休憩をとることになり、二人でベンチに座っていた。
「ウフフ…楽しかった!丈と来れて幸せ♡」
「俺も。昨日ちょっと心配だったけど、元気戻ってよかった。」
昨日、中学の同級生とのスイーツ食べ放題を大野に邪魔された宮下は、丈にSOSを発信していた。丈は練習後に電話で話を聞き、落ち着くまで慰めていたのだ。
「もう大丈夫よ。あんなの許せないけど、いちいち気にしてらんないし、もう相手したくない。」
「そうだな。今度は無視して追い払っちまえ!」
「それに、丈が私の愚痴聞いてくれたのも嬉しかった。でも、電話じゃなくってこうしてぎゅーってしながら直接聞いてもらうのが一番いいわ!」
宮下はそう言うと、顔を赤らめながら微笑み、そのまま丈にしがみついた。丈も照れながら言う。
「おいおい…俺も嬉しいけどさ…そうだ、郁美。来週末空いてる?」
「空いてるけど、何で?」
「いやぁ、登戸が誕生日でパーティー企画してて、メンバー集めてるんだ。野球部の面々の他に大神とかも来るんだけど、郁美もどう?」
「勿論よ!そんなおめでたい事ならぜひ参加させて!」
「ありがとう。詳細分かったらまた連絡するから。じゃあ、次行こうぜ!」
「うん!じゃあ、お化け屋敷行こう!」
こうして来週の登戸の誕生会の約束を決め、二人はデートを続けたのだが、後日二人そろって騒動に巻き込まれてしまうとは、この時は考えもしていなかった。
こんにちわ!
今回は1年生の登場がやや多めです!
果たして、今後どうなるのか?
次回もお楽しみに!




