第21話 修二と美紅
おはようございます。
いよいよ作戦スタートです!
夕方の都賀駅にて、真樹達は修二と美紅が再会する所を目視した。美紅は真樹達があとを付けていることに全く気付いておらず、久々に会った修二に対しいつものぶりっこ全開で喜んでいる。
「ねえ、修二君!この後暇?暇でしょ?美紅とどっかでなんか食べよう!」
美紅は修二に誘いを掛ける。普通なら突っぱねて逃げたい所の修二だったが、今回の作戦の為そうしなかった。
「ああ、いいぜ。俺も話したいことがあるからな。」
「キャー嬉しい!ねえ、早くいこ!」
美紅はそう言うと修二の腕に自分の手を絡め、まるでカップルの如くべたべたとくっついて歩き始めた。その様子を後ろから確認していた真樹は…。
「よし、ここまで作戦通りだ。俺達も行くぞ!」
「うん。でも、本当に大丈夫かな?」
「心配すんなよオニィ。向こうに気付かれなきゃ大丈夫!最後に止めを刺すまで修二を信じよう!」
少々不安げな慶に対し、真樹はそう声を掛けた。そして、武司は少し呆れ声で言う。
「しっかし、いつ見ても人の好き嫌いが激しい奴だな。裏の顔知ってる側からみると、もはや恐怖だぜ。」
「なーに、これからその振る舞いが間違いだったって後悔させる所だ!」
真樹は武司にそう言い、3人は気付かれないように修二と美紅の後を付けて行った。
修二と美紅は駅前にあるファーストフード店に入店した。二人はそれぞれ好きなものを頼み、メニューを受け取ってから座席に付く。店内は狭く見つかるリスクが高かったので、真樹達は店内に入らず、外で待機する事にした。
「いいなぁ、チキンバーガー食いたいのに。」
「僕もフィッシュバーガーとイチゴソフト食べたくなってきた。」
「おい、見つかったら全てがパーだぞ。狭いんだし、ここは我慢だ!」
腹をすかせた武司と慶に対し、そう注意した真樹。一方で店内では修二と美紅がハンバーガーを食べながら何かを話している。
「修二君、会えてよかったわ!これはきっと女神様がくれた運命の再会よ!」
「何だよ、それ?」
「だって、卒業してから全然音沙汰なかったのにこんなタイミングで再会するなんて!」
「単なる偶然だろ。」
「でもひどいよ。急にいなくなっちゃうなんて!修二君と同じ高校行きたい気持ちあったのに!プンプン!」
「親の都合で引っ越しただけだ。」
「じゃあ言ってくれればよかったのに!今日はどうしてここへ?」
「じいちゃんばあちゃんの所に用があったからだ。」
というのは作戦の口実だが、修二は終わったらこの後祖父母の家に顔を出すつもりでいた。
「もう、来るの知ってたらもっと髪型とか服とかオシャレにしたのに!」
頬をふくらませ、まるで子供の様に拗ねる美紅に対し、修二は呆れた気持ちでいっぱいだったが、何とか無表情で隠した。そして、今度は修二のターンである。
「その制服、大谷津学院のだよな。」
「うん、可愛いでしょ?」
美紅は身体を横にくるっと回し、修二に制服を見せた。因みに大谷津学院の女子の制服は評判がよく、制服目当てで入学してくる生徒もいる。
「修二君は?」
「船橋学院だ。」
「えー、あそこスポーツ強いよね!バスケだよね?!」
「ああ。」
「流石美紅が憧れた修二君ね!カッコよくてバスケできるなんてサイコー!想像しただけで惚れぼれしちゃう!やっぱりスポーツはサッカーとバスケみたいにオシャレでかっこいいのに限るわ!野球や柔道何かとはわけが違う!」
ずいぶん偏見交じりな美紅の主張だが、修二は突っ込みたい気持ちを抑えながら聞いていた。美紅は更に続ける。
「ねえ、修二君?」
「何?」
「今、彼女いる?」
「内緒。」
「好きな人は?」
「内緒だ。言わないよ。」
急に恋愛話に持ち込んできた美紅を、修二は軽くあしらった。美紅はまたも頬を膨らませて拗ね始める。
「ええー、言ってくれたっていいじゃん。あ、もしかして、その好きな人って美紅の事だよね。だから恥ずかしいんだね!」
「な、何言ってんだお前?」
あまりにも飛躍しすぎた美紅の思考に、修二も唖然としていた。美紅は尚も笑顔で続ける。
「いいのよ、自信持って言って!私も修二君のこと大好きだったから嬉しい!」
まさかの告白だった。しかし、今まで美紅に対してあまり愛想を振りまかなかったにもかかわらず、自分に濡れ衣を着せたり冷たく扱われなかったことを考えると、今回の美紅の言動は納得できた修二だった。修二は美紅に質問する。
「お前は彼氏いないのか?」
「いないよ。だって、美紅のここは修二君の為に取っておいたからね!」
そう言って美紅は上目遣いで自身の右腕を指さしながら言った。どうやら本当に美紅は修二に好意を抱いているようだった。しかし、修二は元々美紅の事をよく思っていなかったのでそう言われても全く嬉しくなかった。そして、美紅に対し修二はあの質問をする。
「なあ、押上。」
「どうしたの?」
「中二の時に転校してきた塚田さんって覚えてる?」
「塚田…そんな人いたっけ?」
中学時代の同級生の話をしたが、美紅は忘れていたようだった。修二はいらっとしていたが怒りをこらえて続ける。
「じゃあ、六実先生は?国語の?」
「ん?そーいえば居たわねそんな人。辞めちゃったけど。まあ、私は嫌いだったから別にどうだっていいけどね。」
美紅は首を傾げながらそう言った。修二の方は、押上美紅という人間は自分の嫌いな人間、興味ない人間に対しとことんどうでもよいと考えている人間なんだと認識した。そう越して二人はセットメニューを食べ終え、店を出る事にした。
「あー、修二君と話せて楽しかった!ねぇ、今度デートしよ!」
「時間が合えばな。」
「うん!じゃあ、また連絡するから!じゃあね!」
美紅はニコニコ笑顔で手を振りながら自宅へと向かって行った。そして、それを確認した真樹達が物陰から出てきて修二と合流する。
「お疲れ様。忙しい中遠くまでありがとう。」
「気にすんな。あいつと話して分かったわ。もう許せないってな。」
労う真樹に対し、修二は怒りを込めてそう言った。
「今度の週末デートに誘われたから、そこで決着付けよう。」
「分かった。俺達も協力するぜ。」
修二と真樹はそう握手しながら言った。そして、押上美紅の我がまま独裁王国崩壊のカウントダウンはすでに始まっていたのだった。
こんにちは。
今回は修二と美紅の会話を中心にしました。
果たして、週末の作戦とは何でしょうか?
次回もお楽しみに!




