第20話 可愛くて悪い?
こんにちわ!
今日は風が強いですね。
押上美紅はその可愛らしい見た目や仕草で大勢からの人気を集めている。そして本人も皆から好かれていることを誇りに思っている。ただし、余りにも持ち上げられ過ぎて嫌いな人間にはとことん容赦しない性格になってしまった。
「うわーん、足踏まれた!美紅体弱いから折れちゃうかもー!」
「ちょっと、美紅ちゃんが怪我したらどうすんの?謝りなさいよ!」
「ご、ごめん…。」
この日も学校で美紅はある男子生徒に足を踏まれてしまった。もちろん相手に悪意はなく、怪我などしていないのだが、美紅はその男子のことが嫌いだったので必要以上に大袈裟に騒ぎ、取り巻きの女子も巻き込んで難癖をつけていた。相手の男子生徒は双方から攻められてすっかり困り果てていた。
「大丈夫、美紅?痛かったね。」
「うん、大丈夫。」
取り巻きから慰められた美紅は涙目でそう答えたが、内心は違っていた。
(ったく…キモ男が気安く私の前通るんじゃないわよ。邪魔なのよね。)
可愛らしい見た目とは相反する、どす黒い本性があった。そもそも美紅は幼少期からずっと可愛がられ、甘やかされて育っていた。
「美紅~可愛いね!」
「ああ、お前は世界で一番の娘だ。」
「ホント~嬉しい!」
美紅は一人っ子だが、子供がなかなかできなかった押上夫妻の待望の第一子だった。両親は美紅を大事にするあまり、幼少期は特に過保護といってもいいほど甘やかした。その結果、弊害が生まれる。小学校時代は…。
「無理ー、美紅ニンジン嫌い!ねぇ、食べてよ!」
「ええ、私ももうお腹いっぱいだし、文句言わずに食べなよ。」
給食の時間、ニンジンが食べれない美紅は隣の席に座る女子生徒に食べてもらうよう頼んだが断られる。すると美紅は…。
「ひっ、酷い…。ホントに食べれないのに無理やり食べたら吐いちゃうよ!私が具合悪くなってもいいんだ!そう言う人だったんだ!えーん!」
美紅は泣きながら断った女子生徒に文句を言った。その様子を見ていた他の、主に男子生徒たちが集まって…。
「押上さん、俺が食べてやるよ!」
「おい、お前!そんな酷い断り方ないだろ!」
「そうだよ、サイテーだな!」
その女子生徒は美紅の事を気に入っている、男子生徒たちから攻められて完全に悪者にされていた。そして、美紅はその様子を見て心の中で笑っていたのだった…。
そんな感じのまま成長した美紅だが、お気に入りに甘えては気に入らない人間を悪者にする性格は変わっていない。今回も自分にチヤホヤしない真樹と慶を悪者に仕立て上げて孤立させようとしている真っただ中だった。そして、美紅の暴走は止まることなく…。
「ん、おーい手帳落としたぞ。」
そういたのは杜夫だった。杜夫は美紅のポケットから手帳が落ちるのを見て、拾って渡そうと駆け寄った。しかし、美紅は杜夫の事が嫌いだったので、感謝するどころか睨みつけて難癖をつける。
「何なの?私の手帳に触んないでくれる?汚れるから?」
「い、いや。落としたから拾っただけなんだけど。」
「あんたなんかに触られたくない!」
怒りだす美紅に動揺する杜夫。そして、更なる悲劇が…。
「あ、美紅ちゃん。どうしたの?」
「あ、裕也くーん!」
通りがかった学年一のイケメン男子で、美紅のお気に入りの一人の大和田裕也が何事かと駆け寄ってくる。そして、美紅は上目遣いで裕也に説明する。
「公津君が私の手帳を勝手に拾って中を盗み見たの!見られたくないことも書いていたのに、えーん!」
「なっ?!おいお前、女の子の手帳盗み見るなんて最低だぞ!そんなことするから女子から不人気なんだよ!」
「ちっ、違うって!ただ落としたのを見たから拾って渡そうとしただけだ!」
「うるせぇ、純粋な美紅ちゃんが嘘つく訳ないだろ!問答無用だ、こっち来やがれキモヲタ!」
「うわぁぁぁ!」
杜夫はそのまま裕也に胸倉を掴まれ、どこかに連れて行かれてしまった。美紅はその様子を見ながら悪意の籠った微笑みを浮かべていたのだった。
「うう、痛い…。」
「杜夫、大丈夫か?」
服装が乱れただけでなく、顔に小さいながらも痣をこしらえた状態で教室に戻ってきた杜夫に真樹は心配そうに声を掛けた。杜夫は半泣きしながら愚痴を言う。
「何で落し物拾っただけでこんなに文句言われなきゃならないんだ?しかも手帳の中をこっそり見たなんて嘘までつかれるし、裕也にはボコられるし。」
「くそっ、押上め…。本気で俺達を排除するつもりかよ…。」
事情を聴いた真樹も堪忍袋の緒が切れる寸前だった。そして、後ろにいた慶も近づいて来て、杜夫の同情する。
「まったく、本当にあの子のことは理解できないよ!僕ももうイライラがとまらないよ!」
「だが安心しろ杜夫。こんな地獄はもうすぐ終わる。」
「えっ、どういうこと?」
杜夫は目を丸くしながら真樹に聞く。真樹は自信気に杜夫に説明を続けた。
「今ここで説明はできないけど、あいつを黙らせる方法が見つかった。なぁ、オニィ!」
「うん。安心して。こんな身勝手な振る舞い、僕達が終わらせるから!」
「お、おう。分かった。」
自信満々な真樹と慶の様子を不思議に思いつつ、杜夫は頷いた。
その日の放課後…。
「よし、作戦決行だ。みんな、気付かれるなよ。」
「「了解!」」
真樹は慶と武司にそう言った。まず、3人で物陰に隠れて学校から出てくる美紅を尾行する。美紅は他の鳥麻紀と一緒に楽しそうに話しながら、真樹たちの前方にいる。植え込みに隠れている真樹達には気づいていない模様だ。そして、成田駅に到着し、千葉方面の電車に乗り込む。真樹達も気付かれないように細心の注意を払って同じ電車に乗り込んだ。
「ドキドキするなぁ。こんな気持ちで帰りの電車乗るなんて初めてだ。」
「しーっ、文句言わないの。」
武司に注意を促す慶。その後、美紅は普段通りに都賀駅で下車し、真樹達もそれに続く。そのタイミングで真樹は携帯を取り出し、どこかにメッセージを送信した。
「あとは頼んだぞ…。」
小さな声でそう呟いた真樹。そして、美紅が改札を出た所で…。
「ん、お前押上か?」
美紅に声を掛ける男子高校生の姿があった。それに気付いた美紅は…。
「え…もしかして修二君?!」
そこにいたのは今回の作戦の立案者でもある桜木修二だった。修二の姿を見た美紅は駆け寄ってきて…。
「いやーん、久しぶり!相変わらずかっこいいね!こんな所で会えるなんて嬉しい!」
ぴョンぴょんと跳ねながら再会を喜ぶ美紅。しかし、この時彼女はまだ自分が罠にはまっていることに気付いていなかったのだった。
こんにちわ!
美紅を追い詰める為の作戦が実行されていますが、どのように追い詰めるのでしょうか?
次回もお楽しみに!




