第192話 母と子の軋轢
こんにちわ!
いよいよ梅雨入りですね。
真樹が早紀に病院に連れられて異父妹と対面した翌日、予想外の事が起きている。なんと早紀が学校にまで押し掛けたのだった。そして今、応接室にて真樹、早紀、立石の3人で面談をする事になったのだ。
「真樹、来てくれありがとうね。いや、来てくれると信じていたわ。」
「本当は来たくなかったが、あんたをさっさと追い払うためなら仕方ない。」
真樹は既にうんざりした気分になっていた。それでも早紀は真樹にしつこく要求する。
「もう一度お願いするわ。貴方の肝臓をあの子…菜穂にあげて!」
「無理、手術なんて受けたくないし。」
いきなりの会話に立石は戸惑う。
「えっ…ちょっとその…どういう事ですか?」
立石の質問に早紀が答える。
「私の娘…つまり息子の異父妹の菜穂が肝臓の病気で入院してるんです。肝臓移植をすれば助かる可能性があるみたいなので、血が繋がっているこの子にお願いしてるんですが、聞く耳を持ってくれなくて…。」
「…。」
立石もどう返事していいかわからず、黙り込んでしまった。それでも早紀は続ける。
「真樹、お願いよ!肝臓をあげてって言ってもまるごと欲しい訳じゃないわ!半分でいいの!だから貴方の生活に今後支障が出ることもないし、お金はあるから今より良い暮らしもさせてあげる。だからお願いよ!私にとって菜穂は無くてはならない大事な娘なの!」
しつこくそう言う早紀に対し、 真樹は苦笑いしながら言った。
「フフフ…。ねぇ母さん…。」
真樹は黒い感情を出しながら言った。
「小1の時、母さんが『あんたたちとじゃ幸せになれない』って言って俺と父さんを捨てて不倫相手の所に行った時、父さんがどれだけ悲しんだか分かるか?」
真樹に痛い所を突かれて早紀は一瞬固まる。真樹は更に続けて言った。
「俺が子供心にどれだけお前を憎んだか分かるか?いや、それ以前に俺が学校で女子にいじめられた時も『弱虫なあんたが悪い』って言って話すら聞いてくれなかった時、どれだけ悲しかったか分かるか?分かるわけないよな。あんたは自分のプライド守る事しか頭に無いもんな。」
日頃の鬱憤を晴らすように真樹は早紀に対し、容赦なく言葉を投げ続けた。そんなに早紀は何も反論できず、ただ俯いている。早紀は元気がなさそうに答えた。
「肝臓をくれないの?手術が成功すれば3人で幸せに暮らすこともできるかも知れないのに…私達ももう一度親子としてやり直せるかも知れないのよ。」
「いや、無理なものは無理。母さんと会うのはもうこれきりにしたいね。」
真樹に冷たく突き放されて、意気消沈の早紀。そして、立石の方も口を開いた。
「お母さん。話は分かりました。娘さんの事は気の毒に思います。」
「先生、じゃあ…!」
「ですが、貴方のそんな勝手な事にうちの湯川君を巻き込みたくはありません。」
立石は冷たい表情でそう言った。
「生体肝移植は本人の同意も必要ですよね?でも湯川君嫌がってるじゃないですか。担任として、生徒が嫌がる事に同意する事はできませんね。」
「そんな…お願いします!一人の命が掛かってるんですよ!」
早紀は膝から崩れ落ちながらそう言った。そして、真樹も追い打ちをかける。
「そういう事だ。昔から態度が気に入らなかったが、何でもかんでも自分の思い通りになると思うなよ。この不倫女が!」
真樹にそう言われ、早紀は泣き始めた。立石の方も容赦なく突き放す。
「残念ですが、湯川君もそう言ってますし、これ以上話す事はありません。お引き取り下さい。湯川君も教室戻るわよ。」
「はい。」
しくしくと泣く早紀を尻目に、真樹と立石は応接室を後にした。
「湯川君。親がいないって言うのは知ってたけど、あんな事情があったのね。先生も何て行ったらいいか…。」
「気にしなくていいですよ。でも、先生は俺に味方してくれるんですね。」
「湯川君、もう少し私の事信用してくれると嬉しいな。貴方がクラゲに刺された時も、本当に心配したんだから。」
「失礼しました。取り敢えず、ありがとうございます。」
ぶっきらぼうにそう言いながら真樹は教室に戻り、立石も職員室に帰っていったのだった。
こんにちわ!
またも真樹に断られてしまった早紀ですが、このまま引き下がるのか?
次回もお楽しみに!




