第190話 馬鹿じゃないの?!
こんにちわ!
今月最後の投稿です!
大谷津学院2年A組の学級委員長、菅野美緒は頭からある疑問が消えないまま家路についた。
「もしあの子が言っている事が正確な事だとしたら、何が起こっているのかしら?」
美緒は帰宅時、吹奏楽部の1年生である大神が言っていた事が気になっていた。真樹が見知らぬ女性と車で何処かに行ったという証言だ。
「女嫌いの湯川君が、簡単に女性にホイホイ付いていくのは考えにくいし、よっぽどの事情がありそうね。」
美緒はそう言いながら自宅に到着し、荷物を部屋に置くとスマホをポケットから取り出す。
「みんな湯川君と一緒に帰ってたし、状況を聞いてみよ。」
そう言った美緒は慶に電話を掛けた。真樹と一緒に帰宅したのを見送っていたからだ。発信すると、慶はすぐに出た。
「もしもし、美緒?どうしたの?もう練習終わった?」
「ええ。ちょっと聞きたいことがあって。」
「聞きたいこと?」
「吹奏楽部の大神さんが、湯川が女の人と車に乗って何処かに行くのを見たって言ってたんだけど。」
美緒の言葉を聞いた慶は声のボリュームを上げて言った。
「そうなんだよ!いきなり僕達の前に現れてしつこく真樹に言い寄ってた!状況が全く読めなくて!」
「何て言ってたの?そもそも誰なの、その人?」
「分からない。でも、真樹のお母さんだって言ってた!」
「湯川君のお母さん?」
美緒は首を傾げる。彼は両親がおらず、祖父母と暮らしている事を聞いているからだ。
「本当に湯川君のお母さんなの?」
「さぁ…でも雰囲気は少し真樹に似てなくもなかったかな?」
「湯川君はどんな様子だったの?」
「最初は嫌そうにしてたよ。でも、あまりにも相手がしつこかったから渋々折れたみたいだね。」
直接状況を見ていた慶達ですら理解が追いついていないので、話を聞いただけの美緒はますます訳が分からなくなっていった。結局、慶も美緒も頭の整理ができないまま会話を終わらせることにした。
「わ、分かったわ。教えてくれてありがとう。」
「いえいえ。でも、真樹大丈夫かなぁ?とにかくまた明日ね!」
電話を切り、スマホを机の上に置いた美緒は軽く溜息をつきながら呟いた。
「また湯川君絡みで一騒動起きそうね。」
そんな不安が美緒の頭の中を過ぎったのだった。
そして、ここは現在真樹と早紀がいる御茶ノ水の大学病院。早紀は自身の娘で真樹の種違いの妹である菜穂を彼に合わせた後、いきなり二人で病室を出て真樹に頭を下げている。そんな早紀に対し、真樹は面倒臭そうに言った。
「何なの?いきなりこんな所に連れてきておいて助けてくれって?」
「そのままの意味よ!菜穂を貴方の手で救って欲しいの!」
「意味がわからん。」
「お願いよ!あの子は貴方の妹でもあるのよ!」
「初対面の子をいきなり妹だと言われても理解できるか!」
「そんな事言わないで!あなたなら菜穂を救えるかもしれないのよ!」
必死の形相でそう訴える早紀に真樹は軽蔑の視線を送りながら言った。
「悪いが俺は医者じゃないし、医学部を受験するつもりもない。治療ならこの病院の医者に任せればいいだろ?俺は関係ない!」
「そういう事じゃないの!私の話を聞いて、真樹!」
真樹は渋々、溜息混じりに聞いた。
「じゃあ、何だよ?俺に何が出来るって言うんだよ?」
すると早紀がとんでもない事を言い出した。
「その…あんたの肝臓を、あの子にあげて!」
「は?」
真樹はいみがわからず、そう声を上げた。いきなり呼び出して、本人にとって初対面の人間に体の一部を差し出すように言われた事が無かったからだ。真樹が質問する前に、早紀が長々と話し始める。
「あの子、生まれつき病弱で…肝機能に先天的な障害があるの。このまま放置すればもう先は長くないし、完全に治すには肝臓移植しかないって言われたわ!」
「お前の旦那に頼めば?」
真樹は冷たくそう言ったが、早紀は首を横に振る。
「旦那はもうこの世にいないの!あんたも去年ニュースでみたでしょ?!スギタカンパニーの社長が飲酒運転で事故死したの!あれが私の旦那!」
早紀の言うとおり、彼女の不倫相手は当日ベンチャー企業だったスギタカンパニーの社長である。汚い経営で色々な企業を食いつぶして儲けてきた悪名高い企業だったが、その社長が昨年、東京郊外の山道で飲酒運転をし、崖から落ちて死亡したのだった。
「あ〜、あれがお前の旦那か。哀れだな。じゃあ、お前の肝臓をあの子にやれよ。」
真樹がそう言うと、早紀はバツが悪そうに言った。
「それが…私、お酒の飲み過ぎて肝硬変になってて移植できないの。」
「クズとクズが駆け落ちか。お似合いだな。」
真樹は皮肉っぽくそう言った。それでも早紀はまだ食い下がる。
「こう言う場合、血の繋がった者同士の移植なら成功率が高いって言われたわ!貴方と菜穂には私の血が流れているから、少なからず血が繋がってる真樹の肝臓を移植するのが一番助かる確率が高いの!お願い、真樹。あの子のために肝臓をあげて。治ったら3人で仲良く暮らそう!あんたにも好きな物いっぱい買ってあげるし、いい大学にも行かせてあげるわ!」
早紀は必死でそう言ったが、真樹はそんな要求を飲む筈がなく、鬼の形相で早紀を突き放した。
「馬鹿馬鹿しい!いきなり現れたかと思えば、見ず知らずのあんたの娘のために肝臓を寄越せだぁ?こんな馬鹿な要求飲むやついるわけ無いだろ!話にならん、帰る!」
「待って、真樹!」
引き止める早紀を無視して、真樹はさっさと病院を出ていってしまった。久々の母との再会に真樹は嫌な予感はしていたが、見事に的中してしまった。イライラしながら御茶ノ水駅で電車に乗る真樹。正直、真樹はもう二度と早紀にも菜穂にも会いたくなかったが、騒動はこれで収まらなかったのだった。
こんにちわ!
上手い事逃げた真樹でしたが、彼を待ち受ける騒動とは?
次回もお楽しみに!




