第18話 被害者の会
こんにちわ。
今日は寒いですね。
真樹は同級生で野球部のチームメイトである武司に頼み、美紅の中学時代の同級生に会うことになった。この日は土曜日、野球部の練習を終えた二人はそのまま待ち合わせ場所である都賀駅へ向かった。駅に到着すると、同じく美紅の被害を受けている慶が先にいた。
「やっほー、真樹に前原君!」
「オニィ、早かったな。」
「鬼越、結構早かったな。」
「まぁ、今日休みだしね。」
改札を出た所で合流した三人。ただ、まだあと一人である美紅の同級生だと言う人物の姿はなかった。
「武司、そいつはまだ来てないみたいだか。」
「もうすぐ来るんじゃね。あ、メッセージだ…。後5分位で着くって。」
武司はスマホの画面を確認し、3人は引き続き改札で待つ。しばらくすると、少し離れた所から声が聞こえた。
「おーい、武司ー!」
「ん?あ、来た来た。満ー、こっちだ!」
武司が声の下方向に向かって手を振る。そこには短髪で優しそうな風貌の少年がおり、3人の所に近づいてきた。
「真樹、鬼越。こいつが俺の小学校時代の同級生の満だ。」
「俺は武司の高校の同級生で野球部のチームメイト、湯川真樹だ。」
「僕は鬼越慶。同じく前原君の同級生だよ。」
「なるほど、武司からは話を聞いてるぜ。俺は飯山満、こいつとは中学高校は別々になったが今でも腐れ縁だ。宜しく。」
真樹、慶は満とお互いに自己紹介をした。満は挨拶を済ませると3人を駅の外に案内する。
「ここじゃ落ち着かない。移動してそこでゆっくり話すよ。」
「悪いな、満。」
「いいのいいの。お前の頼みなら全然!」
4人はそのまま駅から少し離れた所にあるカラオケボックスへ移動した。受付を済ませ、部屋番号が書かれたカードを渡された4人は指定された部屋に入り、席に着く。
「えーっと、話って言うのは何?」
満の質問に対し、まずは真樹が口を開く。
「押上美紅の事だ。あいつが今うちの学校でやりたい放題やってるから、解決策が知りたくってね。」
真樹の説明を聞いた満は顔をしかめながら言った。
「押上か…あいつ確かに顔は可愛いけど、めんどくさい奴だよな。」
「えっと、飯山君だっけ?押上さんと中学が同じって聞いてたけど、元々あんなに面倒な子だったの?」
今度は慶が質問した。満は呆れ顔で説明を続ける。
「そうだぞ。あいつは常に自分が一番可愛くなきゃ気が済まない性格だ。しかも好きな奴には人懐っこくするから人気は上がるし、あいつの笑顔や仕草にみんな騙されちまうんだ。」
「要するに、何一つ変わらないって事だな。」
真樹が溜息交じりでそう呟いた。美紅は中学生の時点で既に公主病を発症していたのだった。今度は武司が説明をする。
「この二人は、押上のせいで親衛隊から眼をつけられて腫れもの扱いされちまってんだ。俺は押上と同じクラスなんだが、みんな過剰なほど甘やかすせいでますます天狗になって調子乗ってる状況だ。あいつの気に障らないよう考える生活にうんざりする。何とかしたい!」
武司の方も普段同じクラスにいるからこその辛さを吐き出すように言った。そして、それに続くように真樹も不満を漏らす。
「まったくなぁ、どう言う育て方をしたらあんな性格になるんだか…親の顔が見たいわ!」
真樹の言葉に対し、満は何かを思い出したのか、語り始めた。
「あー、それな。聞いた話だけどあいつは一人っ子で、しかもあいつの両親がなかなか子供が出来ない中ようやく授かったらしいから、親バカというか激甘でな。今まで叱られたことが無いらしいぞ。」
「もうずっとちやほやされて育ったのか。」
慶の方も呆れ口調でそう言う。満の方も頷きながら続けた。
「そうだぞ。しかも、あいつの両親が『お前は世界一可愛い』なんて言って育てた上に、あいつもそれを鵜呑みにしたまま成長したらしいから自分が一番って言う思考になったみたいだな。」
「結局家でも学校でも何も言われないまま育ったってことか。」
真樹はその話を聞いて、救いようがない奴だと思った。特に真樹の場合は父子家庭育ちの上にその父が他界している為、親に甘えた経験が無い。話を聞けば聞くほど、美紅に対して腸が煮えくりかえってきた。すると、今度は満から質問が来た。
「そう言えば、二人は何で押上に目をつけられたんだ?」
その質問に対し、まずは真樹が答える。
「俺は幼少期色々あって女嫌いでね。正直あいつの事なんてどうでもいいし、ほとんど関わらずに過ごしていたんだ。まぁ、多分だけどあいつがダサいって思っている野球をやっているのと、あいつがお気に入りのサッカー部のイケメンと仲が悪いからかな。」
真樹に続き、今度は慶が説明をする。
「僕も正直元々好きじゃなかったし、どうでもよかったんだけどね。何かと因縁つけてマウントを取ってくるんだよ。自分は可愛くて女子力高くて魅力的だけど、僕は女子力も魅力もゼロなオトコ女だって。酷くない?何でそこまで言われなきゃならないの?」
慶の方も不満たらたらだ。二人から話を聞いた満は難しい顔をしながら話し始めた。
「なるほどな。相変わらず自分にとって都合が悪い要素を消しにかかってやがる。」
「どう言うことだ?」
真樹が気になって満に質問すると、満はさらに深刻な顔で答えた。
「あいつは自分をよく思ってない奴の存在を許さない、いわば独裁者の思考回路なんだ。湯川君は女嫌いだから押上自身が嫌われてることになるし、自分の事を嫌いな奴がいること自体が許せない。鬼越さんはあいつに興味無いって言ってたけど、顔立ちは整っているし背も高くて手足長いモデル体型だから、心のどこかで誰かが鬼越さんに興味持つことを恐れたのかな。だからマイナス要素を言いまくって株を下げようとしたのかもしれない。」
満の説明を聞いた二人は呆れて言葉を失ってしまった。どこまで自己中心的、唯我独尊なんだとイライラが込み上げてきたのだった。そして、武司の方も質問する。
「満、相変わらずって言ってたけど中学時代に似たようなことがあったのか?」
武司の質問に満は一息置いて答えた。
「ああ、あったよ。中二の時に転校生の女の子が来てな。しかも凄い美人で勉強も運動も得意な子だったから学年中の男子がちやほやしてた訳よ。だけど、当然あいつはそれが面白くないから色々噂を流しまくってな。何股もしてるだの、あいつが嫌いな先生がいたんだけどそいつと援助交際してるだので酷いもんだったよ。俺は信じてなかったけど、押上と仲がいい奴が結託して二人を悪者にして、その女の子は精神的に病んで転校、警察沙汰にはならなかったけどその先生も首になったよ。まあ、事実無根だって事は二人が去ってからようやく証明されたんだけど、あの頃の担任も押上には甘かったから厳重注意で止まっちまったんだ。」
3人は唖然として満の話を聞いていた。中学時代でここまでやるのだから、高校生になった今、これを放置すると更なる大騒動が起こるのではないかと真樹は思った。すると、慶が口を開く。
「みんながチヤホヤするからね。何とかあの子の高すぎるプライドを粉々にできないかな。」
「プライドを崩したら、ますます難癖付けて悪者に仕立て上げられるぞ。」
武司が慶に対してそう警告する。すると、真樹が何かを思いついたように言った。
「要するに、俺達みたいに嫌われてる人間じゃなく、あいつが好きな人間にプライドを崩してもらえばいいってことじゃないか?」
真樹はそう提案したが、慶は再び首をかしげる。
「そうかもしれないけど難しくない?だって、押上さんが気に入ってる人ってみんなあの子の味方するじゃん。押上さんは気に入ってるけど、押上さんのことが嫌いな人がいないと成立しないよ。」
「そうだよな。そんな奴いるのかな?」
慶と真樹は打つ手がなく、半ばあきらめかけた時、満は再び何かを思い出した。
「あ、それなら心当たりがるぞ。」
「「「ホ、ホント?」」」
満のその言葉に3人は身を乗り出して言った。そして満は頷く。
「ああ。親友とその友達が苦しんでんだ。俺からそいつに頼んで成敗して貰おう。」
「「「ありがとうございます!」」」
満の頼もしい言葉に3人はシンクロしてお礼を言った。こうして解決の糸口に一歩近づいた所で4人は時間までカラオケを楽しんだのだった。
こんにちわ。
美紅の過去が明らかになりました。
そして、満の言う秘策は効くのだろうか?
次回をお楽しみに!