第16話 味方はいない
こんばんわ!
真樹と美紅の戦いは如何に…?
「可愛いは正義」という言葉がある。どこかに欠点があっても可愛ければ許せてしまうと言うことだ。特に、大人びた美人よりも小柄で子供っぽく可愛らしい女性がもてはやされる現代の日本では顕著な現象になっている。逆に、可愛げがない者は取っ付きにくく、冷たい印象をもたれて敬遠されやすい。理不尽かもしれないが、現にこういう現象が起きているのは事実なのだ。そして、真樹が特に許せないと思うことの一つだ。
「ああいう腹黒い奴に限って外面がいいからな。味方が多いのが余計にたちが悪い。」
真樹は成田駅のホームで帰りの電車を待ちながらそう呟いた。先程、真樹と慶は美紅に近くの公園に呼び出され嫌み交じりの忠告を受けた。簡単に要約すると人気者の自分に楯突くなということなのだが、それで納得する真樹ではない。
「どうしてみんな持て囃す?可愛い事ってそんなに大事なのか?」
真樹は疑問に思う。ここの所、アイドルや女優は歌や演技が下手でも可愛ければ絵になると言うだけで人気が出ている。美紅に関しても特別運動や勉強が得意という訳ではないが、見た目が可愛いからというだけで学内カーストの最上級クラスに君臨している。故に美紅から嫌われても「嫌われる要素を持っている方が悪い」で片付けられてしまうので、このまま行けば彼女は好き放題暴れるのではないかというのが真樹の見解だ。
「あいつの勘違いをどうにかしないとな。俺だけじゃなく、オニィまで巻き添えになる。」
真樹がもう一つ危惧していることは慶の事だ。慶と美紅は正反対の人物だが、慶は美紅のことをあまり相手にしていないのに対し、美紅の方は執拗に慶に対してマウントを取ってくる。友達がこのまま悪く言われるのは真樹としても嫌だった。
「でもまぁ、ちょっとした代償は必要なのかな?」
嫌な予感がした真樹はそう呟きながら、ホームに入ってきた帰りの電車に乗り込んだのだった。
翌日。真樹の嫌な予感は的中したのだった。2時間目が終わった直後の休み時間だった。
「おい、湯川。ちょっと顔貸せよ。」
真樹のA組のドアが開き、乱暴な口調で隣のB組の女子が真樹を呼び出す。真樹は心の中で「やはり来たか」と呟き、廊下の方へ向かった。教室を出ると、美紅を含め3人のB組女子が険しい顔で真樹を睨みつけていた。
「何の用?」
真樹は不満げに聞く。すると、真樹を呼び出した女子とは別の女子が険しい口調で言った。
「昨日、美紅ちゃんがお話ししたいって言ったのに冷たく突っぱねたんだって?」
その言葉を聞いて真樹は「そう来たか」と思った。実際真樹と慶は美紅の話に辟易していた訳だし、適当に切り上げて帰った。美紅はそれを利用して、自分は真樹と慶と話がしたかっただけなのに耳をかさずに突き放したと話を盛ったのだろう、と真樹は思った。
「俺と慶は急いでいたからな。話すことを話し終わったから帰っただけだ。」
真樹の経験上、ここで慌てて否定するとやましい事があると思われて余計相手に付け込まれるので、至って正直かつ冷静にそう答えた。ただ、傷口が浅くなっただけで状況が完全に好転した訳ではない。
「でも、美紅は湯川君や鬼越さんとあんまり話したこと無いからもっとゆっくりお話ししたかったのに…そんな不愛想にするなんてひどいよー。えーん!」
美紅は両手の人差し指で涙を拭くような仕草をしながらあざとい口調でそう言った。勿論真樹はそれが演技なのを見抜いているが、ほとんどの人は可愛い子の涙を見ると思わず助けたくなってしまう。
「美紅ちゃんが可哀想よ!」
「湯川君が何とも思ってなくても美紅ちゃんがどう思うとかは考えなかった訳?」
「ホント自己中ね!」
「男として最低よ、あんた!」
ボロクソに言われる真樹。最早真樹や慶の言い分に権限が無いとでも取れるような扱いだ。正直これ以上何を言っても無駄だと真樹は思った。しかし、真樹も言われっ放しではない。
「押上の言い分は何でも聞くのに、俺とオニィの言い分はどうでもいいんだな。分かったよ。何とでも言え。」
最後に皮肉交じりの捨て台詞を吐き、真樹は立ち去ろうとした。そんな真樹をさらに美紅派の女子達が口撃する。
「そんなの当たり前でしょ。オトコ女の鬼越さんや、根暗な女嫌いの湯川君の言うことなんか誰が聞く訳?」
「そうよそうよ!可愛くて、いるだけで癒される美紅ちゃんの味方をするのは当然よ!」
背後からそのような言葉を浴びせられながら、真樹は溜め息交じりにその場を離れた。正直世の中には慶以外、自分の味方になってくれる女性などいないことは分かっていた。しかし、彼女たちの言葉を大袈裟に捉えれば、可愛くて人気がある者はたとえ犯罪をしても人な味方になり、擁護されることになり、不人気の嫌われ者は正しい事をしても悪人にされてしまう。直近で言えば先日の丘ユカリからの濡れ衣事件がいい例なのだが、真樹もこの状況はまずいと思っていた。そんな中、またも厄介なものが現れる。
「よぉ、湯川。またも女子と喧嘩か?」
学年一のイケメン、大和田裕也だ。彼は一連の様子を見ていたのか、鼻で笑いながら真樹を一瞥する。
「そうだけど何?」
「よくもうちのクラスのアイドルの美紅ちゃんに酷い扱いをしてくれたな。」
裕也はやはりその事を掘り出してきた。美紅は裕也の事を気に入っており、裕也も裕也で女子と接することが好きなので真樹も彼がいちゃもんつけてくることは予想で来ていた。すかさず真樹も反論する。
「急いでいたから話を切り上げて帰っただけなんだが。それで文句言うなんてどうかしているぞ。」
「せっかく美紅ちゃんが話しかけてくれたのに冷たくするとか…しかもあんなに可愛い子を。女の子に対する優しさが欠落しているとか、もはや世間の需要なしだな。」
「いちいちうるさいんだよ。それに可愛いは関係ないだろ!」
「ある!可愛い女性というのはそれだけで人に癒しを与える、世の中に必要不可欠な存在なんだ。だから俺達は感謝しなきゃいけないし、大事に扱わなきゃいけない。そんなことも出来ないお前は罰当たりだ!」
裕也の異常なまでに女性を持ち上げる様子を真樹はいくら見ても理解できなかった。そして、あまりの言われように真樹は呆れ顔で反論する。
「お前が俺を気に入らないのは分かっているけどな。そんなに女性が大事なら、せめてオニィの言い分には耳を貸してやれ。あいつもあの時俺と一緒にいた。」
裕也が自分の味方をするはずがないと分かっている真樹は一緒にいた慶を擁護した。裕也と慶が絡んでいる所は見たことが無かったが、女性の味方だと言うなら少しは耳を貸すだろうと思ったからだ。しかし、その望みはすぐに崩れた。
「冗談はよせよ。何であいつの味方しなきゃいけないんだ?」
「お前は女性の味方じゃないのか?」
「あんな女を捨てたような奴、俺には理解不能だし気持ち悪く見えるよ。いくら顔立ちが整ってても愛僑無いし、女子として扱えって言うのが無理。それに男に媚びずにお高く止まっている様子も気に入らない。」
女を大切にしている割には慶に対してずいぶんと偏見を持っている裕也だった。真樹は友達をバカにされて内心腹が立ったが、今ここで喧嘩をしている暇はないと思いその場を後にした。それから真樹は自動販売機で飲み物を買い、教室に戻ってきた。
「真樹、ずいぶん言われてたみたいだけど、大丈夫だった?」
教室に入ると慶が心配そうに真樹に聞いてきた。そんな慶を真樹はなだめる。
「そんなのいつもの事だ、気にするな。」
「でも、向こうから色々言ってきたのにこっちが悪いみたいに話を盛るなんてひどいよ!」
自分たちの扱いに慶は苛々していた。そんな慶を見た真樹は攻めて彼女だけでも助けたいと思い、少し考え込んだ。
「どうしたの、真樹?」
「いや、このままだといろんな意味でまずいと思ってな。押上を黙らせる方法を考えなきゃいけないみたいだ。」
真樹はそうは言ったものの具体的にどのような方法が有効なのか見当がついていなかった。圧倒的人気を誇る学年のアイドルを倒すことは予想より難しいと真樹は思ったのだった。
こんばんわ!
今回は色々皮肉りました。
真樹の方はまたも悪者にされてしまいましたが、美紅を倒す方法はあるのか…?
次回をお楽しみに!