第153話 前を向いて突っ走れ!
こんにちわ!
今月最後の投稿です!
真樹と美緒の作戦により、これまで数々の悪事を働いていた姫宮真依は逮捕された。あまりにも突然の出来事で、慶を含むその場にいた出場者や大会関係者達は衝撃を受けた。そして…。
「うおぉぉ!負けるかぁ!」
そう大声で叫んだのは慶だ。彼女は今、最後の種目である400mリレーでアンカーとして走っている。姫宮が逮捕された後、この日の大会が中止されるのではないかと各選手たちが戦々恐々としていた。しかし、協議の結果他の選手や学校に罪はないと言う事で、姫宮の記録を取り消し、その後の種目も棄権するという事で大会は続行された。ただ、団体競技に関しては、姫宮もメンバーにいたという事で、春日部学院は責任としてすべて棄権する事になった。そんな中、慶はアンカーとして全力で走り、前の選手も追い抜いて1位でゴールした。
「やったー!」
喜ぶ慶。顧問の芝山千代子と他の部員も喜んでいる。
「ナイスよ、鬼越さん!」
「嬉しい!優勝よ!」
「全国だー!」
最後の種目で優勝を勝ち取った大谷津学院。その後、閉会式も終えて大会は終了した。慶が着替えて部の挨拶を終えて解散したところで、真樹と美緒が現れた。
「「お騒がせして、本当にごめんなさい!!!」」
ユニゾンで頭を下げて慶に謝罪する真樹と美緒。慶は戸惑いながら聞いた。
「ちょ、ちょっと二人共?何で謝るの?」
訳が分からないと言った表情をしている慶に真樹が申し訳なさそうに続けた。
「これ以上オニィを姫宮に苦しめられないようにって思ってやった事だったんだが、下手すれば大会中止になってたかもしれない。オニィ、今大会に掛けてたのに、危うく夢を潰す所だった!申し訳ない!」
美緒も続く。
「私に関しては、巻き添えくらって轢き殺されそうになって、スカート破かれた恨みもあったんだけど、姫宮がこれ以上好き勝手やって、慶が嫌な思いするのを見てられなかったの!でも、本当に湯川君の言うとおり、大会潰す所だったわ!ごめんなさい!」
因みに、その後2人は競技場の管理人にこっぴどく怒られたものの、最後まで慶の試合を客席で見届けた。そんな二人に、慶が優しい笑顔で声を掛けた。
「二人共、そんなに謝らないでよ。むしろ、感謝するのは僕だよ。僕の為にここまで頑張ってくれたと思うと嬉しいよ。それに、言っちゃ悪いけど、姫宮さんいなくなって試合に集中出来るようになったし!」
「い、いいのか。オニィ。」
「だって、私達…下手すれば。」
「いいの、いいの!2人がいなければ姫宮さんは更につけ上がって大会メチャクチャにしてたかも知れない。それに、繰り上げとは言え、昨日の種目も結果的に優勝出来たし!」
慶の言う通り、姫宮は失格になっただけでなく、記録も取り消しになった。そして、順位が繰り上げられて、2位だった慶が優勝になった。
「とにかく、お騒がせして申し訳なかった。謝らせてくれ。」
「私も改めてごめん!それと、個人種目優勝おめでとう!」
真樹と美緒は改めて謝罪した。慶はそんな二人に微笑んだ。
「いいのいいの!それと、ありがとう!二人のお陰で気持ちよく全国行けるよ!」
そう言った慶。その後、3人は清々しい気分で会場を後にしたのだった。
そして翌日。姫宮の事が大々的に新聞やニュースで取り上げられた。
『日本陸上界の期待の星、姫宮真依選手が複数の犯罪に関わっているとして逮捕されました。調査によると、姫宮選手は学校内での恐喝の他、学外の友人達と飲酒をしていた事も判明。更に、マラソンの鬼越魁選手の妹で同じく陸上選手の慶選手をバイクで轢く事や、家族に暴行を加える事も友人に指示していた事も明らかになりました。姫宮選手は容疑を認めており、「ムシャクシャしていたのと、鬼越選手が気に入らなかった。」と供述。姫宮選手が所属する春日部学院陸上部も、「本校でこのような事が起こるのは大変遺憾であり、選手の人間性を教育できず、申し訳ない。」と謝罪。春日部学院陸上部は、半年間の活動を停止すると発表しました。』
真樹はその朝のニュースを何とも言えない表情で見ていた。そして、朝食を食べ終えて様々な思いを胸に抱えて立ち上がった。
「行ってきます。」
真樹の1日は今日も始まる。
その日の夕方。千葉県内の留置場では、姫宮ががっくりとした表情で寝転がっていた。そんな時、看守に呼ばれた。
「姫宮真依。面会だ。」
「はーい。誰よ、こんな時に、」
不機嫌そうに立ち上がって、面会室にやって来た姫宮。そして、面会者を見て驚いた。
「鬼越慶…え、魁選手?!」
そこにいたのは慶だけでなく、母の入院を聞いて新潟から帰省してきた魁だった。姫宮が椅子に座ったタイミングで、魁がトーンの無い声で尋ねる。
「君が姫宮真依さんだね。勿論、僕も君の事を知ってるよ。超高校級ランナーって事も、妹を随分可愛がってくれた事もね。」
「あ、そ…それは…その。」
姫宮は大量に冷や汗を流しながら、皮肉混じりで聞いてくる魁に動揺している。そして、魁が明らかに怒っている雰囲気で再度姫宮に質問した。
「母さんが入院したって聞いて帰ってきたら、君と…君の仲間の仕業だったって妹から聞いた!ニュースとかで君の活躍は見ていたけど、がっかりだよ!君みたいな子に、陸上界にいる資格なんてない!」
魁に言われて、しょんぼりする姫宮。そして、今度は慶はが質問する。
「どうしてなんだよ、姫宮さん!君ほどの選手なら、真面目にやっていれば間違いなく陸上界のスーパースターになれたのに!どうしてこんな馬鹿な真似したんだよ!?」
慶も怒りと悲しみが混じった様子で聞いた。すると、姫宮は泣きながら話し始めた。
「負けるのが…嫌だった!私は…子供の頃から今まで走りで負けた事何か無かった!お陰でみんな可愛がってくれるし、男の子にもモテてきた!なのに、あんたが…あんたが私を負かしてプライドをズタズタにするから!雑魚学校に進んだあんたに、私が負けたら大恥よ!だから、目障りなあんたを消してやろうと思ったよの!」
「だったら負けないように努力すれば良かったじゃない!」
姫宮に対し、慶はそのように声を荒げながら怒鳴った。
「僕だって負けた時は悔しい!でも、次頑張ろうって気持ちで一生懸命練習している。みんなそうやって成長するんだよ!でも、姫宮さんは自分が上手くなるんじゃなくて、気に入らなない人を蹴落として一番になろうとしてる!そんなの、スポーツ選手でも何でもないよ!」
慶のその言葉に、姫宮は何も言えずに項垂れた。その後、面会終了時間になり、慶と魁の兄妹は留置場を後にしたのだった。その帰り道。
「大変だったな、慶。」
「うん。兄さんも忙しいのに、ありがとう。」
「母さんが入院したって聞いたら、帰らない訳にはいかないだろ。」
「うん、あと心配かけてごめん。」
「気にすんな。お前が無事で何よりだ。それに、折角全国行けたんだろ?頑張れよ!」
「う、うん。」
「お前なら大丈夫だ。何せ、俺の妹だからな。次の世界陸上とオリンピック、一緒に代表になれるのを楽しみにしてるぞ。」
「そ、そんな…スケール大きすぎるって。」
慶は照れながらそう言った。更に魁は微笑みながら続ける。
「それと、お前を助けてくれた真樹君と…もう一人は菅野さんだっけか?」
「う、うん。二人には結果的に無茶させて申し訳なかったよ。」
「何言ってんだ。それだけ慶の事が大事ってことだ。いい友達を持ったな!お前も大事にしろよ!」
「うん!」
兄である魁の言葉に、慶は笑顔になった。
「さぁ、早く帰ろう。父さんに家事なんか任せられない。」
「そうだね。フフフ。」
脅威が去り、鬼越兄妹は久々に楽しく話しながら自宅へと戻っていった。
こんにちわ!
この章はこれで終わりです!
8月最終日というキリがいい日に終わらせられて良かったです。
次回から新章です!
お楽しみに!




