第14話 天使の裏の顔
おはようございます。
すみません、先週更新サボりました。
押上美紅。真樹と同じ大谷津学院高校の1年生で、クラスは隣のB組である。色白の肌、ツーサイドアップにした明るい色の髪の毛、童顔の可愛らしい顔立ちから男女問わず可愛いと人気者である。
「おっはよーみんな!みんなの美紅が来たよ!」
大和田裕也と共に教室に入った美紅は、屈託のない笑顔でクラスメートたちに挨拶した。
「おはよう、美紅!」
「髪型可愛い、今度私にも教えて!」
「いいなぁ、大和田君と一緒に登校なんて!」
「やっぱり二人は絵になるわ!」
他の女子生徒に囲まれて楽しそうに話す美紅。その見た目と雰囲気から、入学早々すっかりB組のアイドルとして君臨していた。常に彼女の周りには沢山の生徒がおり、上級生の間でもその可愛さは話題になっている。隣にいる裕也もそんな美紅の笑顔が見れて嬉しいのか、ご機嫌な様子で自分の席に着く。
「よう、色男!朝からアイドルと登校なんてうらやましすぎるぞ!」
「うん。俺も彼女と同じクラスに慣れて本当に良かったって思える。美紅ちゃんの笑顔があるだけで心いやされるよ。」
クラスメートの男子に茶化されながらも、笑顔でそう返す裕也。だが、彼らはまだ押上美紅という人間の真実を直視していないだけであった。
ある休み時間。美紅が1階にある自動販売機で飲み物を買おうとしている帰りだった。階段を上がった手教室に戻ろうとした時…。
「きゃっ!」
「うわっ!」
丁度死角から出てきた杜夫を避けられず、ぶつかって飲み物を落とし、尻もちをついた。一方の杜夫はというと。
「大丈夫か杜夫、前をよく見ろ。」
「サンキュー真樹。柱で気付かなかった。」
一緒にいた真樹に助けられたので何ともなかった。杜夫はぶつかってしまったことを申し訳なく思い、美紅に手を差し伸べる。
「ごめん、押上さん。怪我はなかった?」
だが、美紅の方は杜夫達から眼をそむけ先程までの上機嫌が嘘の様に不機嫌になった。そして、杜夫の手を払いのけ、ジュースを拾いながら立ちあがっていった。
「…。別に、怪我なんかしてないから。」
「え、でも…。」
「いいから、私に構わないでくれる。」
杜夫に悪意があった訳ではないし、謝罪したにもかかわらず、普段見せる笑顔とは真逆の、ぞっとするほどの冷たさがにじみ出ていた。そして、美紅はそのまま走り去っていった。
「真樹。俺、何か嫌われることしたのかな?」
「いや、あれが押上の本性だからこっちも相手すること無いぞ。」
真樹は冷めた表情でそう言った。そう、押上美紅の欠点とは、気に入った人間とそうでない人間とで態度が違いすぎることである。世に言うぶりっ子は男に色目を使い、ライバルになりそうな女性を蹴落としがちだが、彼女の場合は男性か女性かは関係なく自分がいいと思った人間にはニコニコと愛想を振りまき、嫌いな人間を徹底的にけなすのだった。彼女が嫌うのは地味めな人、そして、自分を持ちあげない人であり、先程杜夫を突き放したのはそのためである。むろん、真樹は論外だ。
「正直、俺はもう二度と関わりたくないな。他の奴らは、天使だアイドルだの言ってるけど、俺からすれば大魔王だよ、あいつ。」
「そうかな?でも、可愛いのにもったいないのは確かだよ。」
「可愛けりゃいいもんじゃないぞ。」
「でも、やっぱり可愛いと何か許したくなっちゃうんだよね。守ってあげたいっていうか。」
「お前はどこまで馬鹿なんだ?あんな奴守る価値も無い、寧ろくたばって欲しい。」
ボロクソに言う真樹と冷たくされて少ししょんぼりしている杜夫とで意見は割れていたが、二人はそのまま教室に戻っていった。
午後の体育の時間。大谷津学院も他の学校の例に漏れず、体育は男女別に行う。男子は外でサッカーをしているが、女子は体育館でバスケだった。因みに元女子高というだけあって男子の人数が極端に少ない為、体育は2クラス合同で行っている。今の時間は真樹たちのA組と裕也たちのB組の時間なのでサッカーもバスケも自然とA組対B組になるのだが、トラブルは体育館で行われている女子のバスケで起きた。
「パス!」
「よし、もらった!」
コートの中では慶が見方からパスを受けて相手ゴールに向かっていた。女子は人数が多いのでそれぞれのクラス内でチーム分けをしている。そして、いまはけいがいるA組①チームが、B組の①チームと対戦中だ。B組チームには美紅の姿もあった。
「このまま行くぞ!入れぇ!」
慶はネットめがけて思いきりボールを投げた。陸上部所属の慶は元々運動神経がよく、対する美紅の方は運動が大の苦手だった。そう言うこともあってスコアで言えばA組のワンサイドゲームになっているが、慶が手を抜くはずもなく投げたボールは見事スリーポイントシュートになり、更にスコアに差がついた。
「やった、やった!入ったよーみんな!」
喜ぶ慶だったが、ふと見ると周りに人がいない事に気付く。そして、他の生徒たちはある場所に集中していた。
「いたーい、怪我しちゃったぁ!」
「大丈夫?美紅ちゃん!」
生徒たちが集まった先には床に座った状態で涙目になっている押上美紅の姿があった。どうやら先程転倒してけがをしたらしく、心配した他の生徒たちが集まって介抱していた。
「痛ーい、もう無理!」
「美紅ちゃん、私の絆創膏張ってあげるから休んだ方がいいよ。先生、美紅ちゃんが怪我したので休ませまーす。」
B組の生徒だけでなく、味方であるA組の生徒も美紅の心配をしていた。そして、その様子を慶は怪訝な表情で見ていた。
(ただの擦り傷じゃん。大げさだな。それにみんなも甘やかし過ぎじゃない?)
慶は口には出さずに心の中で不満をもらしながら、ゲームの再開を待っていた。ところが、ここで予期せぬことが起きる。B組の女子生徒二人が慶に詰め寄ってきたのだ。
「ちょっと鬼越さん。美紅ちゃんが怪我したのに大丈夫の一言も無い訳?」
「大体体育の授業なのに本気出し過ぎ!今だって美紅ちゃんの事よりも試合のことしか考えてないんでしょ?」
いきなり言いがかりをつけられて慶は唖然としていた。まさかそんなことで因縁をつけられると思ってなかったからだ。すかさず慶も反論する。
「ちょっと待ってよ。僕が怪我させたわけじゃないのに何で怒られるの?それに、本気を出して何が悪いの?」
あまりに言われように流石の慶も怒った。女子生徒達は尚も応戦する。
「けが人出たら真っ先に助けにいくのは当然でしょ!男子みたいな見た目してるくせにそんなことも出来ないの?」
「あんな可愛くてか弱い子なのに、あのまま放置するなんてかわいそうじゃない。うちのクラスのアイドルにとってかすり傷一つ許されないの!」
ずいぶん身勝手な意見だが、慶はここはぐっとこらえて押し黙った。その後、メンバーを入れ替えて試合は再開され、慶のいるA組①チームが圧勝したのだった。
「ふう、色々あり過ぎて疲れた。」
体育終了後、慶はトイレに行き汗で濡れた顔を洗っていた。9月下旬とはいえまだ暑さが残っているので、体育館での授業は結構汗をかく。顔を洗い終えて教室に戻ろうとしたその時だった。
「鬼越さん。」
後ろから声を掛けられたと思ったら、鏡越しに美紅が映っていた。まだ体操服でいる所を見ると彼女も直接トイレに来たようだった。
「何、押上さん?」
慶は美紅の方を振り向いて聞き返す。美紅の方は小悪魔っぽい笑みを浮かべながら話を続ける。
「さっきの様子見て、鬼越さんて本当に優しくないっていうか女子力皆無だよね。女性として恥ずかしくないのかなーって思って。」
「さっき僕が様子見だけしてたことが不満な訳?でも人いっぱいいたから僕が行っても意味無いよね?」
喧嘩腰な口調で挑発する美紅だが、慶も気が強い方なので動じずに鋭く突っ込む。美紅は軽く溜息をつきながら続ける。
「違うんだよなー、美紅はみんなに美紅だよ!そんな私をぞんざいに扱っていい度胸だなーって思って。」
「どうせ僕に助けられたって嬉しくないくせに。それに、僕は君みたいに可愛さを鼻にかけて、ちやほやされて快感を得ている君に興味はないよ。」
辛口な返答をする慶だが、美紅も美紅で自信家なので開き直る。
「だって、実際私可愛いって皆から言われるもん!鬼越さんは損だよね~せっかく顔立ちは整っているのに見た目も言葉づかいも男の子みたいだから魅力ないもんね!だから私に対して僻んでるんだもんね~。」
「勝手に言ってなよ。」
相変わらず喧嘩を売る美紅に対し、慶もイライラしつつ大人な対応を取りながら突っぱねた。慶はそのままトイレから立ち去ろうとした時、美貴が捨て台詞の様に言い放つ。
「…。ムカつくのよね。女のくせにオシャレとか一切努力しないでガサツに振舞うとか、見てて恥ずかしいわ。正直言ってあなたみたいに女を捨ててまで自分勝手に生きるなんて私にはできない。だって可愛く生まれた以上、私はみんな好かれたいから。」
ずいぶん滅茶苦茶且つ、慶の悪口も含まれているが、慶は無視して教室に戻っていった。不穏な空気が漂う二人だがクラスが違うので慶は気にする余地も無かった。
おはようございます。
美紅も中々強烈なキャラでした。
真樹と直接的な絡みが無かったので、次回以降対決の機会を設けたいです!
それではまた次回!