第146話 大会前の悲劇
おはようございます!
遅くなりましたが、今月初投稿です!
慶が姫宮真依と再会してから、彼女の身の周りで不可解な事件が頻発していた。ある日は下校時に美緒と共にバイクに轢かれそうになり、またある時は自宅にゴミや大量の落書きがあるなど、悪質極まりない行為が彼女に向けられている。
真樹はこれらの行為を姫宮が協力者を利用して行っているものだと推測し、慶に対して警戒を強めた。そして、大会を控えたある日に、最悪の事態が起こってしまう。
「真樹、帰ろう!」
「おう、待ってろオニィ。おーい、杜夫に沙崙。帰るぞー!」
「オッス!」
「今行くわー!」
大会を目前に控えた放課後、慶は真樹達と共に帰ろうとしていた。幸い、今年の関東予選の会場は千葉市にある運動公園だったので遠征の必要もなく、スケジュール的には余裕があった。なので慶は帰ったら軽く最終調整をしながら大会に臨もうと思っていた。その後、武史と伸二とも合流し(美緒はバレー部の練習)、皆で駅に向かって歩こうとした時…。ピリリリリ!
「ん、知らない番号だ。」
慶のスマホに見に覚えのない着信が届いた。首をかしげながら出て見ると…。
「はい、もしもし。」
「もしもし、鬼越悠さんのお嬢さんでしょうか?」
「そうですけど、どちら様で?」
「私、東下総病院の者ですが、すぐに来てください!お母様が怪我をして我々の所に搬送されてきたのです!」
「ええっ??!」
慶はその言葉に耳を疑った。呆然としながらも、震えた声で会話を続けた。
「それで、母の容態は…?は、はい!すぐに向かいます!」
電話を切り、慶は慌てた様子で真樹達に説明した。
「ごめんみんな!お母さんが怪我で病院運ばれたから今から行ってくる!」
「「「「「何だって!!?」」」」」
真樹達が驚きを隠せなかったのも無理は無い。昨日自宅に悪戯をされた上に、この日は母親が病院送りになったのである。
「分かった!気を付けて行ってこいよ、オニィ!」
「うん、ありがとう。じゃあね!」
真樹に促され、慶は病院方面へ行くバス停へと駆けていった。すると、武史と伸二が心配そうな顔で言った。
「おいおい、まずいんじゃねーか?これ。さっき話してた奴の仕業ならやりすぎだぜ。」
「だよな。最早悪戯で済まされるレベルじゃないな。昨日の今日で偶然にしてはタイミング悪すぎだもんな。」
真樹の方も深刻な顔で言った。
「まだ姫宮の仕業と決めつけるのは早い。だが、オニィの身に危険が迫っていることは確かだ。」
真樹の言葉に、皆はすっかり沈んでしまった。重苦しい空気が漂う中、全員が慶の身を案じながら帰宅したのだった。
それからしばらくして、慶は病院に到着した。バスのドアが開くと同時に病院に駆け込み、受付に問い合わせる。
「すみません、ここに母が…鬼越悠が搬送されたと連絡がありました!僕、娘の鬼越慶と申します!」
「鬼越様ですね!少々お待ち下さい!」
受付の女性が確認を取っている間も、慶は気が気でなかった。そして、確認が終わり…。
「お待たせしました!鬼越悠様の病室は303号室です。」
「ありがとうございます!」
慶は急いで母の病室に向かった。
「お母さん!」
「あ、慶!ごめんね、こんな事になって。」
病室では、慶の母である悠が、頭に包帯を巻き、顔には複数の絆創膏、右腕にはギプスを填めた状態でベッドに寝ていた。慶が慌てて駆け寄ると、悠は体を起こす。
「お母さん!大丈夫なの?何があったの?」
「大丈夫よ、慶。ただ右手が折れただけだから。でも、わけが分からないわ。いきなり誰かに後ろから頭を殴られて、総攻撃されて…後は覚えてない。」
「とにかく、無事で良かったよ!」
その数分後。
「悠、大丈夫なのか?!」
「あなた…。」
「お父さん!」
慶の父である進も、連絡を受けて病院に駆け込んできたのだった。
「おお、慶も来てたのか!悠、ビックリしたんだぞ!」
「ごめんね、二人共心配かけて…。」
家族3人で話していると、治療を担当した医者と、警察官が入ってきた。まずは医者から話し始める。
「鬼越様のご家族ですね。早速ですが、奥様の診断に関して説明させて頂きます。今回は、金属バットで体を殴打された事により、頭部への打撲及び右腕骨折です。命に別状はありませんが、経過観察も兼ねて、本日より一週間入院して頂きます。」
「は、はい。」
「分かりました。」
慶と進むは頭を下げながら言った。続いて、警察官から説明が始まる。
「悠さんを襲った犯人ですが、近くを通り掛かった通行人の通報により、17歳の少年2人と少女1人からなるグループであることが判明しました。少年2人は逮捕しましたが、少女は依然逃走中です。これが、逮捕した少年2人の写真ですが、皆様見覚えはありますか?」
警察官は2枚の写真を取り出して慶達に見せた。写真には長い金髪の少年と、坊主頭の少年が写っていた。
「いいえ、見たこともない方です。」
と言ったのは母の悠さんだ。父の進も首を横に振りながら言った。
「いやぁ、全く面識ないな。どうだ、慶?同じ学校にこの2人はいたか?」
進の質問に慶も首を横に振る。
「僕も知らない。中学や高校にもこんな子居なかったよ。」
鬼越家全員が少年と面識がなかった。警察官は質問を終えると、お辞儀をしながら病室を後にした。
「ご協力ありがとうございました。何か分かりましたら、また連絡いたしますので、お大事に。」
その後、医者から入院の説明を受け、進が悠に心配そうに話しかけている所で、慶が悲しそうな顔で言った。
「お父さん、お母さん…僕、今大会辞退する。」
「えっ?」
「何、言ってるんだ?」
悠と進は目を丸くして驚いた。すると、慶は目に涙を浮かべながら言った。
「だって…だって…。お母さんがこんな大変な時に、僕だけのうのうと大会に出る訳行かないよ!これ以上、また何か起こったら心配だし…。」
ポロポロと涙ををこぼして椅子に座った慶。そんな慶に悠は優しく声をかけた。
「慶、心配しないで。先生も言ってたでしょ?命に別状はないし、一週間入院するだけだって。あんなに、頑張ってたじゃない。私の事はいいから、行っておいで!」
「で、でも…。」
まだ涙をこぼしている慶に、今度は進が声をかけた。
「慶、お母さんを信じてあげなさい。俺も母さんも、お前に大会で頑張って欲しいんだ。あとの事は父さんに任せて、お前はお前で頑張れ。」
両親に励まされ、慶は少し笑みが戻った。そして、2人に感謝の意を述べる。
「ありがとう、お父さん、お母さん。僕頑張ってくるよ!」
「うん!」
「その意気だぞ、慶!」
「やる気出てきた!あ、兄さんには僕が連絡入れておくから!」
その後、慶は兄の魁にこの件の連絡を入れ、入院の手続きを終えてから進と共に病院を後にしたのだった。
一方その頃、埼玉の春日部学院では…。
「何?失敗したの?」
「ご、ごめん。路地に引きずり込んだんだけど、まさか人が見てるなんて思わなくて。」
人気がない校舎の隅で、姫宮が怒りながら電話をしていた。電話先の少女が申し訳なさそうに話している。
「で、2人は捕まってあんただけ逃げられたんだ。」
「ま、まぁ。」
「別にいいわ!身内が入院すれば、鬼越の奴は大会どころじゃないし、辞退してくれれば私の優勝は確実だし、これをきっかけにあいつは陸上を辞めるかもしれない。Win-Winよ!」
「そ、そうだね。」
「あ、そうだ。念の為、あんた大会観に来て!」
「分かったわ。」
「じゃあね!」
そう言って、姫宮は電話を切った。すると、中年の男性教諭が彼女を呼んだ。
「おい、姫宮。そんな所で何してるんだ?早く行くぞ!」
「はーい、すいませーん!親に大会見に来てって連絡してましたー!」
姫宮はそう言うと、男性教師に連れられて、校門前に止まっていたバスに乗った。春日部から千葉市は遠いので、これから遠征するのだ。姫宮が座席に着いた所でバスは発車して、千葉に向かったのだ。そして、姫宮は心の中で呟く。
(まぁ、もしあいつが出場したら、最悪私自ら葬ればいいんだし、そんなに心配いらないか!)
そう考える姫宮。だが、彼女は自ら泥沼にはまりかけている事にまだ気づいていなかった。
その夜。真樹は自宅でニュース番組を見ていた。
『今日午後3時頃、千葉県印西市郊外で、40代の女性に暴行を加え怪我をさせたとして、少年2人が逮捕されました。逮捕されたのは市内の高校に通う17歳の少年2人です。少年らは、帰宅途中だった40代の女性に、「ガンを飛ばした」と因縁をつけ、金属バットで暴行。通り掛かった通行人に通報され、逮捕に至りました。女性は頭部の打撲と右腕を骨折しましたが、命に別状は無いとのこと。また、目撃証言により、少年2人の他に友人である17歳の少女がいたものの、現在逃走中で警察は行方を追っているとのこと。逮捕された少年2人は、黙秘を続けており、警察で更に詳しく調査するとの事です。』
「オニィのお母さんの事だな、このニュース。」
真樹は深刻な顔でそう言った。そして、更に深く考え込む。
「もし、奴らが姫宮の手先だとしたら、一体どこの誰なんだ?どうしてもそこが分からん。」
真樹は姫宮が他人を利用して慶を追い詰めていると推測した。仕返し、彼らの正体に関しては未だに分かっていない。
「オニィ、気をつけろよ。姫宮なんかに潰されるなよ。」
心配そうにそう言った真樹は不安が拭えないまま寝床に就いたのだった。
おはようございます!
本当は先週投稿したかったのですが、色々あって今日になりました!
申し訳ありません!




