第143話 姫宮真依という女
こんにちわ!
今日は雨がすごいですね。
慶の中学時代のライバルともいえる姫宮真依は、天才女子高生ランナーだ。中学時代から数多くの大会で好成績を残し、現在は埼玉県の名門校である春日部学院に通っている。勿論スポーツ推薦での入学だった。しかし、彼女にはどうしても許せないことがあった。ある日、練習を終えた姫宮はグランド近くの水道で顔を洗った後に、休日中に再会した慶のことを思い出していた。
「あのクズ、劣悪な環境で故障して走れなくなっていたと思ったら、まだのうのうと続けていやがったか。許せない。」
姫宮は中学時代から別の学校に通っていた慶のことを一方的にライバル視していた。何せ、走ることで負けたことが無かった彼女を始めて負かしたのが慶だったからだ。その後、何度もぶつかり合ってしのぎを削っていた二人だったが、そんな彼女たちを陸上の名門校が放っておく訳がなく、多くのスカウトが二人を勧誘した。そして、強豪校に入学して自分を完成させて周囲にアピールしたい姫宮は、前年度優勝の春日部学院へ。一方の慶は、陸上さえ続けられればどの学校でもよかったので、家から近い大谷津学院へ進学した。このことが、姫宮と慶の間に深い溝を作ることとなってしまった。
「私は本気で勝って陸上で世界トップを目指しているのに、あんな陸上を舐めていた奴に負けるのだけは許せない。それに、何かの間違いであいつが注目されたら、私の、そしてこの春日部学院のメンツが丸つぶれになる。だから今度の大会で鬼越慶を潰さなきゃ。いや、大会前にシメるのもありかも。」
姫宮は慶のことを敵視していたものの、実力だけは認めていたので、慶が自分と同じく春日部学院からもスカウトされたと知ったとき、一緒のチームで高め合うのも悪くないと思った。そして、一緒に春日部学院へ進学するように促すが、慶はこの提案を断り大谷津学院へ進学した。姫宮は、そんな慶を「私の好意を無碍に扱った」と思い、より強い敵意を抱くようになった。その後、彼女は荷物をまとめて学校の運動寮へ戻って行く。春日部学院の運動部は、全国から選手が集まってくるので寮が完備されており、姫宮も地元千葉を離れてここに入寮している。夕食を終えて自室に戻った姫宮は、部屋の奥で充電していた携帯電話を手に取り、どこかに電話をかけた。
「あ、もしもしー、私よ!久しぶり!ねぇ、お願があるんだけどさ。私のことを舐めている女が一人いてね。そいつのことをシメてくれないかな?」
物騒な内容の会話を誰かとした彼女は、その後もしばらく話しこんだ後に電話を切った。
ある日の夕方。ここは大谷津学院である。
「じゃあ、俺達は練習行くから。」
「再見。慶、美緒!」
真樹と沙崙は帰宅する慶と美緒に声をかけた。この日は水曜日で野球部の練習があるからだ。野球部の練習は水曜日と土曜日、慶の陸上部は火曜日と木曜日、美緒のバレー部は月曜日と金曜日に練習がある。因みに、杜夫の姿が無いが、彼はこの日行われた数学の小テストでとんでもない点数を取って教師の怒りを買い、補習授業に強制連行されてしまったのだ。
「うん、じゃあね!」
「また明日!」
慶と美緒は二人に挨拶して帰宅した。そして、真樹と沙崙はグラウンドに行き、練習の準備に取り掛かる。
「よーし、全員揃ったな。マスはランニング、それからキャッチボールだ。」
関屋が指示を出し、練習を始める真樹達。ランニング中、真樹は隣を走っていた武司と伸治に話しかける。
「なぁ、武司に伸治。ちょっといいか?」
「どうした真樹?」
「相談か?恋愛以外なら良いぞ!」
「そんなんじゃないよ。一つ引っかかってるんだけど、スポーツとかで名門校に行くこと手そんなに大事かなって思って。」
真樹の質問に、二人は不思議そうな顔をした。そして、伸治が答える。
「まぁ、本人が行きたいんなら良いんじゃないの?俺は嫌だけど。先輩とかにこき使われそうだし。」
武司も続く。
「俺も寮に入れられて毎日朝から晩まで練習はきついしいやだな。そんなのやりたがるの、プロ目指している奴だけじゃね?」
真樹は先日、慶のかつての同級生である姫宮が強豪校に通うことこそが正義とでも言いたげに話していたことを思い出す。慶は誘いを蹴ってここに来たのだが、慶の選択が愚かでないことを信じたかった真樹は二人に聴いてみたのだった。そして、武司と伸治の返事を聞いて少し真樹は安心した。
「そうか。まぁ、そうだよな。人それぞれで良いんだよな。」
少しご機嫌になった真樹は、その後も練習に精を出したのだった。
一方こちらは慶と美緒。この日は完全にOFFの二人は、昇降口を出て話しながら駅に向かっていた。
「そう言えば慶、大会来週なんでしょ?頑張んなさいよ!」
「ありがとう。美緒も次の新人戦頑張ってね!」
そんな風に話している二人の背後に異変が起こる。突如、後方を走っていた二人乗りのバイクが歩道に乗り上げてきたのだった。驚く他の歩行者を横目に、そのバイクはよりによって慶と美緒めがけて突っ込んできたのだった。
「う、うわぁぁ!何だ?」
「危ない、慶!」
猛スピードで突っ込んできたバイクは慶を轢かんとばかりに走ってくる。美緒はとっさに慶を庇い、抱きかかえるように隣の植え込みにダイビングした。
「チッ…。」
バイクから舌打ちのような物が聞こえたが、そのまま走り去ってしまった。
「いたた…み、美緒。ありがとう、大丈夫?」
「平気よ平気何のことないわ…って、やだ!スカート破けたんだけど!最悪!」
美緒のとっさの行動により、慶も無事で済んだ。しかし、植え込みにダイビングしたことで慶は全身葉っぱまみれになり、美緒はスカートを枝に引っ掛けて裾の部分が破けてしまった。
「何なんだよ、あのバイク。でも、明らかに僕達を狙っていたよね?」
「もう、許さない!破けたスカート弁償しなさいよね!」
二人とも訳が分からないという顔をしていたが、ゆっくりと立ち上がり、慶は体中に付いた葉っぱを払い落し、美緒は持っていたジャージを腰に巻いて破けた部分を隠してからその場を後にして帰宅したのだった。
こんにちわ!
何やら、不穏な展開ですがどうなってしまうのでしょうか?
次回をお楽しみに!




