第142話 天才ランナー?
おはようございます!
今日は珍しく早起きできました。
ある日の休日、真樹は慶と共に学校近くにある広い公園で自主トレをしていた。しかし、その時に姫宮という少女が現れて、慶にマウントを取るような形で宣戦布告ともとれるような挑発をしてきたのだった。彼女が去った後、慶は真樹に謝罪をした。
「なんか…ごめん、真樹。変な事に巻き込んじゃって。」
「気にすんな。それよりも、あの姫宮とか言う奴は何者なんだ?」
真樹が聞くと、慶は表情を暗くして話し始めた。
「あの子は姫宮真依。別の学校だったけど、中学時代はよく大会で競ったりしていたよ。」
「なんか…そんな事だと思った。でも、何でオニィに対してあんなに攻撃的なんだ?」
真樹が聞くと、慶は溜め息交じりで言った。
「そんなの、僕が知りたいよ。中学時代から鬱陶しかったけど、久々に会ったらまだ絡んでくるとは思わなかった。」
そして、慶は中学時代の姫宮のことを話し始めた。
きっかけは5年前、慶が中学1年の時まで遡る。兄の影響もあって走るのが大好きだった慶は、地元である印西市内の公立中学に入学と同時に、当然陸上部に入部した。
「鬼越慶です!兄も昔、ここの陸上部にいたので自分も頑張りたいと思います!よろしくお願いします!」
入部初日の自己紹介で、慶はそう言った。慶の兄の魁を知っている3年生や、顧問の教師はそれを聞いて驚きながら言った。
「えっ…鬼越先輩の妹?」
「すごい、金の卵だ!」
「とんでもないのが来たな!」
そんな慶は、最初の半年間は公式戦には出ずにトレーニングに専念し、その年の秋に行われた新人大会でデビューする事になった。
「よーし、初めての大会頑張るぞー!」
大会当日、慶はやる気満々で他の部員達と共に会場に向かっていた。会場に到着して準備をしている時に、周囲がざわつき始めた。
「おい、見ろよ!」
「あいつが、噂の超大物の…。」
「100年に1人の天才ランナー…。」
「姫宮真依だ!すげぇ!」
別の学校に通っていた姫宮真依が堂々とした様子で会場に現れた。その時、慶はなぜ周囲がざわついているのか分からず、隣にいた先輩部員に聞いた。
「あの、先輩。なんか、あの子を見てみんな騒いでますけど、そんなに有名なんですか?」
「鬼越さん、知らないの?あの子は姫宮真依。あなたと同い年で、北中の天才ランナーよ。小学校時代から走ることに関しては負け知らずで、夏の大会も3年生に混じって出場。地区大会にも優勝して県大会準優勝、関東大会も1年生で唯一ベスト8入りしたとんでもない子よ。」
「ってことは、次は全国狙ってるんですね。あの子。そうか…、僕はこれからそんなすごい子と戦うのか。」
慶は大会で走るのだけが楽しみ過ぎて、他校の選手の情報を全く頭に入れていなかった。当然姫宮のことも知らなかったのだが、100mの第一レースでいきなり二人はぶつかった。
「よーし、行くぞ!」
慶は気合いっぱいでスタート位置に着いた。隣には姫宮がいる。時は来て、レースが始まった。
「よーい、スタート!」
スタートの合図が出て、各走者が一斉にスタート。そして、姫宮は当然ながら他の走者をどんどん引き離して、独走態勢に入った。
「くそっ、負けてたまるか!」
慶は思わずそう叫んだ。なんせ彼女も走ることに関してはあいもプライドもある。前を走る姫宮を見据え、トラックの半分までさしかかった所で慶は一気に加速した。
「こん、ちくしょー!」
どんどんスピードを上げ、残り20mの所で遂に慶は姫宮に追いつく。
「?!私が追いつかれた?!」
姫宮はいつの間にか自分と並走している慶を見て、訳が分かららなくなっていた。そして、慶はさらにスピードを上げて姫宮を抜き、そのまま1位でゴールしてしまった。
「やったー!勝ったぞー!」
慶は大喜びで他の部員たちの所に戻る。そして、姫宮は慶を見て呆然としていた。当然、周囲も何が起こったのか分からずにざわついている。
「おい、姫宮が負けたぞ。」
「そんなバカな!」
「誰なんだ、あいつは?」
今の姫宮の耳に、そんな周囲の声は届いていない。同い年の人間に限れば今まで走ることで負けたことが無かった姫宮にとって、それ位信じられないことだった。そして、2位になってしまった自分とそんな自分のプライドを砕いた慶に対して怒りの感情が湧き、姫宮は慶の所に駆け寄った。
「ちょ、ちょっとあんた!」
慶は驚いて振り向いた。
「あ!えーっと…姫宮さんだっけ?対戦ありがとうございました。」
「うるさい!お礼なんてどうでもいい!あんた、私を追い抜くなんて、いい度胸してるじゃない。」
「ま、まぁ…僕もびっくりしたんだけど。」
「まぁ、いいわ!あんたは私のプライドを傷つけた。その代償、しっかり払ってもらうから!」
「そ、そんなこと言われても…。」
「とにかく、次大会で会ったら絶対に負けない!叩き潰す!覚悟しなさい!」
それだけ言って、姫宮は去って行った。そして、この後も慶と姫宮は幾度となく大会でぶつかり合うことになったのだった。
「まぁ、あの子との出会いはそんな感じかな?」
「うわ、面倒くさ!」
慶から話を聞き終えた真樹は少し呆れたように言った。慶はまた溜息をつく。
「それから、大会で顔合わせる度に絡まれて大変だったよ。絡む暇あったら、準備運動でもすればいいのに。」
「嫌だな、そう言う無駄にプライドが高い奴。天才天才って言われてチヤホヤされて調子に乗ってんだな。」
「そうかもしれないね。でも、僕は負けないよ!」
慶は立ち上がって前に出た。そして、真樹の方を向き直る。
「僕は勝つ!真樹だって頑張って甲子園にたんだから、今度は僕が頑張る番だ!さあ、トレーニングの続きやろう!」
慶のその言葉を聞いた真樹は微笑みながら立ち上がった。
「ああ。頑張れよ。」
それから二人はトレーニングを再開し、走り込みを続けたのだった。
おはようございます。
慶の中学時代を少し書いてみました。
果たして、今後どうなるのか?
次回をお楽しみに!




