第139話 慶と陸上
こんにちわ!
最近雨が続きますね。
険悪な雰囲気の中、大谷津学院の2学期の始業式及び最初のホームルームは終わった。因みに、始業式での校長の挨拶では、甲子園に出場した野球部のことは一切触れず、逆に秋の大会を控えているサッカー部、吹奏楽部、チアリーディング部を応援するコメントを残し、それらの部の代表挨拶の時間まで作っていた。その後、ホームルームが行われたがそこでも真樹は他の女子生徒達から白い目を向けられ、立石も呆れ声で…。
「あのねぇ…もう2年の二学期なのよ!これから体育祭や修学旅行、文化祭もあるのに、こんなに雰囲気悪くしてどうすんの?」
と言った。そんな最悪な雰囲気のまま、夏休みの宿題の回収、今後のスケジュールなどが説明され、ホームルームは終了。生徒達は帰宅または部活へと向かった。
「じゃあ、僕はこれから部活行って来るね!」
「おう、じゃあな!」
陸上部に向かう慶を真樹はそう言いながら見送った。大谷津学院はグラウンドが一つしかないので、各部活で使う曜日が割り振られている。この日は陸上部が使うので、真樹はOFFだ。慶は陸上部の部室に向かい、練習着に着替えて準備運動を始める。その後、顧問の芝山千代子がやってきて、全体練習前に一度慶達に集合をかけた。
「みんなー!集まってー!」
芝山の言葉に慶達陸上部員がグラウンドの隅に集合する。芝山は持っていたバインダーを見ながら部員たちに説明を始めた。
「えーっと、来週はいよいよ関東予選です。練習に精を出すのもいいですが、怪我だけは絶対しないように気を付けて下さい。」
「「「はい!」」」
「じゃあ、合宿でも言いましたが、みんなの出場種目の最終確認をします!」
芝山は各部員の出場種目を説明した。そして、慶の番が回ってくる。
「鬼越さん!」
「はい!」
「あなたは100mと400mよ。頑張んなさい!」
「はい、ありがとうございます!」
「それじゃあ、次は…。」
次々と部員たちの出場種目が伝えられ、いよいよ全体練習になった。ここでも慶はかなり気合いっぱいで走り込んでいる。
「うぉぉぉぉ!僕も国体いくぞー!」
慶はそう叫びながら練習に打ち込んだ。真樹が甲子園に行き、自分も続きたいという思いが強くなり、今の慶のモチベーションの源になっている。その後、何度かタイム測定をして安定した記録を出した慶はご機嫌な様子で一度休憩を取った。その時、スポーツドリンクを飲んでいる慶に部員達が質問をした。
「そう言えばさ、鬼越さんってどうしてうちに来たの?」
「そうそう。私も気になってた。」
「それだけ速いんなら、もっと強い学校行っても良かったんじゃない?」
これは真樹にも言われたことがあった。しかし、慶はその時真樹に言ったことと同じことを部員達に言った。
「特に理由はないよ。僕の家から近いからきただけ。強い学校に行きたい訳じゃなかったし。」
それを聞いた部員達はポカンとしている。慶はそんな彼女たちを尻目に練習へと戻って行った。
「じゃあ、今日はここまで。気を付けて帰って下さい!」
「「「ありがとうございました!」」」
練習が終わり、芝山は部員達に挨拶をして慶達は部室で着替える。着替え終えた慶は挨拶をして学校を後にした。
「お疲れ様でした!失礼します!」
「お疲れー!」
慶は学校を出て駅へ向かって歩いている時にふと、先程他の部員に言われたことを思い出す。何故、強い学校に行かなかったのかと。
「強い学校に行くって、そんなに大事なのかな?」
そう呟いた慶は慶に中学時代の記憶が蘇る。彼女が通っていた中学校はそれほど陸上が強い学校ではなかったが、慶の加入で大躍進を遂げた。彼女も県内の注目選手として強豪校からも無視できない存在になっていた。そんな彼女をライバル視する者がいた。
「鬼越慶!勝負よ!」
彼女に慶は何度その言葉をかけられたか分からない。慶はそれでも全力で勝負し、通算対戦成績では五分五分と言った所だ。そして、慶は中学3年生の秋に彼女と交わした会話を思い出す。
「鬼越慶!私、埼玉の春日部学院の推薦が決まったの!すごいでしょ?」
「へぇ~、よかったじゃん。頑張ってね!」
「あんたもオファーあったんでしょ?まぁ、私と対等に戦えるのはあんたしかいないし、これからはチームメイトとして高め合って行くのも悪くないわ!」
「いや、僕そこにはいかないよ?」
「え?じゃあ、もう他のとこに推薦決まったとか?」
「いや。まぁ、色んな学校に声は掛けられたけどさ。どこもかしこも遠いし、陸上以外にも勉強頑張りたいから全部断ったよ。」
「あんた、何バカなこと言ってんの?」
「馬鹿じゃないと思うけどな…。とにかく、僕の第一志望は大谷津学院だよ。一番家から近いし。」
「は、何で?あそこ別に陸上部有名じゃないじゃん!」
「僕は別に強い学校に行きたい訳じゃないんだ。楽しく陸上がやりたいだけ。」
「くっ…!」
そして、慶は彼女から言われた。「向上心が無い」と。何故彼女はそんな事を言ったのか、慶はまだ理解できない。そんな事を考えているうちに、慶は気づくと真樹に電話をかけていた。
「もしもし、真樹?今大丈夫?」
「おう、オニィか。練習終わった?」
「うん、今帰る所。」
「お疲れ。で、どうしたんだ?」
「真樹に聴きたいことがあって。」
「ん、何だ?」
「僕って、向上心ないのかな?陸上の強豪校行くべきだったのかな?」
以前、美緒と沙崙にも同じことを聞いたことがあったが、二人は「そんなことはない。やりたいようにやればいい」と言ってくれた。真樹は一瞬ポカンとしていたが、優しい声色で言った。
「何言ってんだよ、オニィらしくもない。どこの学校行くかなんて関係ない。行きたい所行って、やりたいことやればいいじゃん!」
真樹のその言葉を聞いた慶は少し安心した。自分の選択を友人達が肯定してくれて、慶は嬉しく思った。
「そうだね。ありがとう、真樹!また明日ね!」
「おう、じゃあな!」
そう言って慶は電話を切り、駅に到着した後電車に乗って自宅へと帰って行った。
こんにちわ!
慶にスポットを当てたことがあまりなかったので、この章は頑張って書きたいと思います1
次回もお楽しみに!




