第136話 短い夏休み
おはようございます!
今日から新章入ります!
今年の夏は、真樹にとって色々な事があった。初めての甲子園出場、そして強豪校相手にサヨナラ打を決めたこと等、嬉しいこと尽くしだった。一方、それが原因で全国の女性ファン達を敵に回してしまい、物を投げつけられたり酷いブーイングを浴びせられるようなこともあったが、真樹はそれでも野球に集中し2回戦も突破。その次の3回戦では残念ながら力尽きて敗退してしまったが、真樹に後悔は無く、すでに来年を見据えている。1回戦でサヨナラホームランを打った相手でもある、洛陽高校のエース三条とも、また甲子園で戦いたいという話もでき、なんだかんだで充実した夏を送っていた。そんな真樹は、先程ようやく甲子園から成田へと戻ってきた。大谷津学院の校門前に一台のバスが止まり、真樹達野球部員がぞろぞろと降りていく。
「ふぅ、長かったな。やっと帰って来れた。」
真樹はバスを降りた直後に、安心したような表情で伸びをしながらそう言った。そして、後ろから伸治と武司もくたびれた表情で降りてきた。
「ああ~、マジで疲れた。でも楽しかったも。」
「とりあえず、早く帰りたいけど…もう少し向こうにいたい気持ちはあったな。」
そんな話をする3人。因みに大谷津学院を3回戦で破った石川の金沢実業は、その後も圧倒的な投手力を武器に勝ち進み、決勝戦も投打が噛み合って見事に優勝したのだった。そして、全員が降りた所で関屋が一度集合をかける。
「みんな。本当にお疲れ様!大変なこともあったが、甲子園で戦えたことは嬉しかったし、みんなもい地震がついたと思う。来年春の選抜や次の夏も視野に、また2学期からみんなで頑張って行こう。では、解散。気を付けて帰れよ。」
関屋はそう言って帰宅する真樹達野球部員を見送った。真樹は沙崙、武司、伸治と共に帰りの通学路を歩く。すると、沙崙がぴょんと前に飛び出して言った。
「いやぁ、色々あったけど楽しかったわね!来年春の選抜も連れてってよね!」
「気が早くないか?」
真樹は首をかしげながらそう言った。武司と伸治も頷きながら続く。
「確かに…。まぁ、俺も選抜出たいけど。」
「今は一度頭と体をリセットしたい。休息も練習の内だろ?」
そんな3人に対し、沙崙は頬を膨らませながら言った。
「もう、もっと気持ちはポジティブにしなよ!私、来年の4月には台湾に帰らなきゃいけないんだから、それまでにもう一度甲子園行きたいわ。」
それを聞いた真樹は、ハッと気づいた。沙崙の留学期間は1年間。なので、もし次に彼女を甲子園に連れて行くとすれば、次の春の選抜が最後となってしまう。真樹は沙崙に微笑みながら言った。
「そうだな。分かった。お前の希望に応えてやろう!楽しみにしとけ!」
武司と伸治も笑顔で言った。
「ごめん、忘れてた。安心しろ、任せとけ!」
「選抜出たら、今度こそ完封狙っていくからな!見てろよ!」
そんな3人を見て、沙崙は今日一番の笑顔で言った。
「そう来なくっちゃ!また2学期からビシバシ行くわよー!」
そんな話しをしながら、4人は自宅へと帰って行った。
ある日の朝、一人の少女がベッドからあくび交じりに起き上がった。
「ふぁぁ…。よっこいしょっと。」
寝癖が跳ねたショートカットの髪の毛に、中性的な顔立ち。真樹の友人、慶である。彼女は普段陸上部にいるが、練習日以外も早起きして軽く走るのが日課だ。因みに時刻はまだ朝の4時である。慶は寝まきからトレーニング用のジャージに着替え、リビングで麦茶を飲んでから外に出て準備運動をし、そのまま走り始めた。夏とは言え、まだ日の出前なので日中に比べて涼しく、走りやすい状態ではある。慶は暗くて静まり返った道路を走りながら、様々な事を考えていた。まず最初に同じクラスの友人の真樹の事だ。
「真樹は厳しい状況の中、甲子園で活躍したんだ。今度は、僕が頑張る番なんだ!」
慶は友人として、真樹が甲子園に行くことを誰よりも喜んだ。大事な友人だったからこそ、真樹が野次を浴びせられて物を投げつけられていることが許せなかったし、それに負けずに結果を出した真樹をより尊敬するようになった。彼女は先日まで群馬で陸上部の合宿に参加していた関係で、1回戦しか見られなかったが、2回戦以降もスマホでチェックはしており、3回戦敗退後も真樹と電話で言葉を交わしたのだった。その時の会話を思い出す。
『もしもし、真樹?』
『おお、オニィか?合宿はどうしたんだ?』
『さっき夕飯終わって今は自由時間。それより、お疲れ様。残念だったけど、よく頑張ったね!』
『何のことは無い。むしろ俺らが甲子園なんて出来過ぎだ。正直奇跡だよ、これ。』
『そんなことないよ!また来年甲子園目指しなよ!応援してるから。』
『勿論だ。洛陽の三条とも約束しちまったからな。今度こそ甲子園優勝したいぜ!』
そんな感じの会話をした。真樹の前向きで元気そうな様子に、ホッとした慶だった。普段は学校の女子から嫌われて悪口ばかり言われ、更に甲子園でも大勢の前で女性ファンから暴言と共に物を投げつけられたにもかかわらず、迷うことなく自分を貫き通した真樹。だが、裏では誰よりも頑張っていることを慶は知っているし、だからこそ友人として傍にいたいと思っている。続いて頭に思い浮かんだのは、兄の魁だった。
「お兄ちゃんも、オリンピックがかかっているからな。頑張って欲しいな。」
無人の交差点を曲がった所で慶はそう口に出した。魁は幼少期から足の速さでは誰にも負けず、中学時代から各大会の賞を総ナメにし、高校時代は全日本駅伝優勝。大学1年だった昨年もマラソンの世界選手権に出場し、メダルは逃したものの、8位での入賞は叶った。そして、秋の大学の全国大会の結果次第では、オリンピック日本代表に選ばれる可能性もあったため、魁はかなり気合を入れており、慶も応援している。
「いつか、二人でオリンピック出たいな。」
慶は朝やけを眺めながらそう言った。慶が陸上を始めたきっかけは、兄の慶である。時は慶が6歳、魁が9歳の頃にまで遡る。家族で広い公園に出掛けた際、二人で競争をした時だった。
『お兄ちゃん、競争しよー!』
『ああ、いいぜ!全力でかかって来い!』
無論、6歳児が小学生に勝てるわけがなかったのだが、魁は慶の走りっぷりを見てこう言ったのだった。
『慶は速いなー。兄ちゃん負けるかと思ったよ。さすが俺の妹だ。』
『わーい!今度はお兄ちゃんに勝つからねー!』
その言葉が嬉しかった慶はメキメキと頭角を現し、小学校の運動会は6年連続でアンカーに選ばれ、中学時代も100m走で関東大会の最優秀選手に選ばれるほどになった。学校内の女子では最速を誇り、走ることに関しては一目置かれることは慶としては嬉しかったが、彼女としては好きな陸上競技を続けられることが一番の幸せである。中学時代の事を思い出していた慶だったが、ふと足をとめたのだった。
「そう言えば…。どうしてあんなこと言ったんだろう?」
慶の脳裏に、ある人物のある言葉が蘇る。その言葉がずっと引っかかっていた。
『こんな向上心が無いなんて思わなかった!あんたなんかに対抗心燃やしてたのが馬鹿だったわ!』
そう。これは中学時代にある人物から言われた言葉だった。どうして自分はあんなことを言われたのか?約2年半経った今でも、慶は答えに辿り着いていなかった。
「まぁ、今はいいや。とりあえず家に帰ろう。」
お決まりの距離を走り終えた慶は、ダッシュで来た道を戻って自宅に辿り着いた。しかし、帰宅した慶に対し、両親が目を吊り上げながら言った。
「こら、慶!また麦茶出しっぱなしで出かけたわね!」
「練習もいいが、少しはこういう所もちゃんとしなさい!」
「ひぃぃ!ごめんなさーい!」
叱られて謝る慶。そして、このまま朝食を食べて彼女の1日が始まるのだった。
おはようございます!
今回は慶の事をメインに触れていきたいと思います!
今後もよろしくお願いします!




