第135話 夏の終わり
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うだ良な炎天下の元、兵庫県の甲子園球場では夏の全国高校野球選手権大会が開催されていた。初出場の真樹達大谷津学院は、女性ファン達の暴徒化に巻き込まれながらもなんとか2回戦を突破。そして、この日は3回戦を迎えていたのだった。
「みんな!いよいよ3回戦だ。更に強力な相手を迎えることになるが、怖気ずに全力で行け!」
「「「「はい!!!!」」」」
ベンチ前で、関屋は真樹達部員全員にそう言った。そして、守備練習を行った後にいよいよ試合開始。相手も含めた選手全員が整列をする。
「礼!」
「宜しくお願いします!!!」
そして、3回戦が始まった。
『夏の甲子園もついに3回戦まで到達しました。本日の第2試合、先攻はこれまで幾度のトラブルを跳ねのけてきた千葉県の大谷津学院。対するは、圧倒的な投手力を武器とし、今年のチーム防御率は驚異の0.25。1、2回戦共に完封勝ちを収めた一昨年の優勝校、石川の金沢実業です。』
今回の相手は名前の通り、石川県の金沢市にある金沢実業高校。古くから知られる伝統校で、甲子園出場は春夏合わせて今回で11回目。今年は3人のドラフト候補踏襲を有し、相手の打者を寄せ付けない圧倒的な投球を見せている。更に野手の守備力も高いので、ファンの間では今年の金沢実業から1店でも撮ったら奇跡とも言われていた。そんな相手と対決する事になった大谷津学院。1回表の攻撃が始まり、先頭バッターの武司が打席に向かう。
『1番、センター。前原君。』
「よっしゃー、打ってやるぜ!」
気合いっぱいで武司は打席に入った。その様子を、まだ打順が回ってきていない真樹が見守る。そんな時、沙崙が真樹に声をかける。
「真樹。」
「ん、どうした?」
「私、あなたに感謝しているの。言葉で言い表せない位。」
「なんだよ、今更?しかも試合開始直後に。」
「いや、何かそう言いたくなっちゃって。留学前の不安、来日直後の災難、嫌な事だらけだった。でも、真樹に助けられて、こうしてこの舞台に立ち会えている。全部あなたのお陰よ。謝々。」
「どう致しまして。と言いたいところだけど、本当に感謝したいなら、それは優勝した後にしてくれよ。」
「フフフ。そう言う所も真樹らしいわね。」
真樹のぶっきらぼうな返事に対し、沙崙は微笑みながらそう言った。そう言っている間に、武司はあっさりと三振をくらい、後続も2者連続三振に抑えられてしまった。そして、金沢実業の攻撃。先発は1回戦も投げた3年生エースの大橋だったが、あっさりと相手打線に捕まりって2点を先制されてしまった。その後も金沢実業は攻撃の手を緩めることなく、5回までに6点を奪った。一方の大谷津学院は金沢実業の投手陣を全く捕らえきれず、7回までわずか3安打で2塁すら踏めない状態。1,2回戦共に安打を記録していた真樹は三振すらしていないものの、ノーヒットに抑えられている。そして、6-0のまま迎えた9回表ツーアウトランナーなし。そんな状況で真樹は打席に立っていた。
『金沢実業、準々決勝進出まであと1アウト。しかし、バッターボックスには1回戦サヨナラホームランの湯川。粘りを見せられるか大谷津学院。さあ、カウント2ボール2ストライクから5球目、投げました。』
真樹はいんコースのストレートを振り抜いた。しかし、打球はむなしくも2塁の上空に打ち上がり、そのまま相手のグラブに収まってしまった。
『ゲームセット!金沢実業準決勝進出!快進撃を繰り広げていた大谷津学院はここで力尽きました。』
ラストバッターの真樹はセカンドフライに倒れ、大谷津学院は敗戦。今年の夏が終わってしまった。
「くそっ、負けた!」
真樹は悔しそうにそう叫びながらベンチに戻ってきた。その後両チームが整列し、挨拶をする。
「礼!」
「ありがとうございました!」
ベンチに引き揚げる真樹達大谷津学院野球部。彼らの夏は、甲子園3回戦敗退という形で幕を閉じたのだった。
一方のアルプススタンドでは、杜夫に立石、大神や宮下達吹奏楽、チアリーディング部1年生と飯田が応援しに来ていた。しかし、彼らの応援もむなしく大谷津学院は敗退。真樹が打ちとられた瞬間、杜夫は頭を抱えながら悲しそうに叫んだ。
「うわぁぁぁ、フライだぁ。くそぉ、真樹が、うちが負けちまったよぉ!」
「残念だったけど、よくやったと思うわ。」
「でも先生、真樹達が優勝する所が見たかったですよ!」
「私だって悔しいわ。でも、みんな頑張ってたし、後で温かく迎えてあげましょう。」
「…はい。」
そして、悔しいのは大神や宮下達も一緒だった。
「ま、負けた…。悔しいわ。」
「うぇーん。自分が出てた訳じゃないけど悔しいよぉ!」
がっくりする大神に涙を流しながら叫ぶ宮下。他の1年生達も悔しそうに涙を流しながらすすり泣いている。飯田は難しい顔をしながら言った。
「ダメだったかぁ。でもみんな本当によくここまでこれたと思う。優勝はできなかったけど、彼らを誇りに思うよ。勿論、それを支えた陳さんもね。」
飯田は拍手をしながら真樹達を褒め称えた。応援組も真樹達が引き揚げると同時に球場を後にしたのだった。
そして、ここは球場の通用口付近のスペース。ここで真樹達は関屋を円状に囲むようにして立っていた。関屋は難しい顔をしていたが、顔を上げて部員達に言った。
「みんな。今日まで良く頑張った。優勝まで行かなかったのは俺も悔しいけど、みんなと甲子園に行けたのは嬉しいし、誇りに思う。途中、変なトラブルはあったけど、上手くかわせた。だからみんなも今日までの事を誇りに思って欲しい。僕からは以上だ。堀切、キャプテンとして君からも一言頼む。」
関屋にそう言われ、堀切が前に出て言う。
「えー。みんなと甲子園に行けて本当によかったと思います。勿論負けたのは悔しいけど、3年最後の夏にここまでこれたのは本当に嬉しかったし、みんなと野球で来てよかった。ありがとうみんな。」
そう言って堀切は元の位置に戻った。武司と伸治、丈達1年生野球部員の目に涙はないものの、悔しい表情を浮かべており、一方の沙崙は涙を流しながら立っていた。こうして、後ろにいた杜夫達に見守られながら真樹達野球部は宿泊先のホテルに戻ろうとした。その時、少し離れた所から声が聞こえた。
「あのー、すみませーん!湯川真樹君はいませんか?!」
そう振り返った真樹達。そこにいたのは…。
「三条…?」
真樹が思わず声を出す。何と、真樹が1回戦でサヨナラホームランを打ったときの相手である、洛陽高校のエース三条だった。完全にプライベートなのか、Tシャツとジーパンというラフな格好だった。
「俺に何か用か?」
「用もなきゃ、ここまで来えへんで!」
それを聞いた真樹は関屋達に言った。
「すみません。ちょっと話してくるんで咲に戻ってて下さい。」
「お、おう。あんまり遅くなるなよ。」
関屋はそう言うと他の部員達を引き連れて先に引き揚げる。二人きりになったタイミングで三条の方が話し始めた。
「試合見たで。なんや、あの負け方?お前らなら優勝できると思ったのに、ガッカリさせんなや!」
「ちぇっ、俺だって好きで負けた訳じゃねーよ!」
「わかっとるわ。冗談やて。」
三条は最初は少し冗談交じりに話していたが、今度は真面目な表情で言った。
「実を言うとな湯川。君が心配やったんや。」
「何でお前が俺の心配をする?」
「俺からホームランを打った後、めっちゃ野次られてたやろ?その次の試合も。間接的に俺が原因やし、そら心配するわ。」
「大丈夫だ。お前は悪くないし、俺も平気だ。野次る方が狂ってるだけだ。それと、ニュースで俺を庇ってくれたのは感謝する。」
真樹は夕べのスポーツニュースを思い出しながら言った。それに対し、三条は笑いながら言った。
「ハハハ。あれか!感謝する程の事でもないで!俺からホームランを打ったええバッターが、こんな風に迫害されてんのが見てられなくなったんや。」
「お前が気にすることは何もない。いつも学校で女子からやられているのが、タチの悪い女性ファンに変わっただけだ。」
それを聞いた三条は溜め息交じりに言った。
「なんやそれ、悲しいな。まぁ、うちの学校にもアホナ女子おるけど、それ以上に湯川の人柄を見抜ける女がおらんっちゅうことやな。」
「どうだかな?それより、本当にそれ言う為だけに俺を呼びとめたのか?」
真樹はなぜ三条がわざわざ時間を突くて自分に合いに来たのかまだ分からなかった。三条の方は微笑みながら答える。
「湯川が心配だったのは本当や。せやけどな、俺の最高の球を打ったお前に負けたままが嫌やった。せやから、俺は…また来年お前と対決したい。」
「三条…。」
三条は目の奥に力が籠ったような表情でそう強く言った。そして、真樹に手を差し出しながら言った。
「湯川、お前はええバッターや!それに、大谷津学院野球部強かったで。だから、またお前とた戦いたい!来年の選抜と夏の大会、待っとるで!次勝つのは俺、そして洛陽や!」
そんな三条の言葉を聞いた真樹は、差し出された手を握った。そして、微笑みながら言った。
「そう言ってくれたことは感謝する。嬉しいよ。俺もまたお前らとた叩いたくなった。だが、申し訳ないが次も勝たしてもらう!」
握手をしながらお互いの健闘をたたえ合った二人。来年また戦おうと約束をし、その後二人はそれぞれの場所へ帰って行った。
こんにちわ!
甲子園編も終わり、次回から新章です!
お楽しみに!




