第133話 後味悪いな
こんにちわ!
今月初投稿です。
夏の甲子園、大谷津学院の2回戦。相手はチーム打率3割5分を誇り、1回戦も13得点という猛打で有名な山形の米沢文化高校。力の差で圧倒的に大谷津学院が不利かと思われたが、幸先良く先制点を奪い、更に伸治が意地の1失点完投で見事大谷津学院を勝利に導いたのだった。しかし、いいことばかりではなく、1回戦で甲子園のアイドルである洛陽高校の三条友明を敗戦投手にした真樹の活躍を面白く思わない女性ファンがここでも暴徒化し、真樹達大谷津学院のベンチにゴミなどを大量に投げ込み、更に大谷津学院の応援席も襲撃するという暴挙に出た。結局飯田が警察に通報して大勢の若い女性が逮捕され、試合は1時間半も中断してしまった。だが、今回は1回戦とは違って試合後に大谷津学院の校歌斉唱、そして試合後の監督及び選手のインタビューは行われることになった。
「放送席、放送席。勝ちました、大谷津学院の関谷監督です。3回戦進出、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「途中、色々な事がありましたが、最後まで集中できていましたね。」
「そうですね。逆にあのハプニングのお陰でみんなが勝ちたいって気持ちが高まっていました。」
「今大会湯川選手も好調、中山投手も見事なピッチング。チームとしてはかなりいい傾向に見えますが。」
「いいと思います。少ない人数の中、部員みんながお互い助け合いながら練習してますからね。次も頑張ってほしいです。」
「改めて、おめでとうございます。大谷津学院、関屋監督のインタビューでした。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
そして、その隣では伸治がインタビューされていた。
「1失点完投。大谷津学院の中山伸治選手にお越しいただきました。まずは、ナイスピッチングでした。」
「ありがとうございます。」
「猛打、米沢文化相手の先発マウンド。緊張などはありましたか?」
「めっちゃ緊張しました。本当に僕でいいのかと思いました。」
「そんな中での1失点完投勝利。ボールに気持ちが込められているように見えましたが。」
「そうですね。真樹が頑張っているのにあんな目に遭ってたんで、絶対に勝ちたいって思いました。」
「その気持ち、見事に通じましたね。本当におめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「以上、大谷津学院高校、中山伸治選手でした。」
こうしてインタビューが終わり、球場では次の試合の準備が進めあられた。
インタビュー後、真樹達は球場を後にしてホテルに戻ろうとしていた。出口への通路を歩いている時に武司が心配そうに真樹に話しかけた。
「真樹、大丈夫だったか?足に瓶当てられてたけど。」
「気にすんな。こんなんでダウンする俺じゃない。ズボンが少し汚れただけだ。」
「なら良いんだけど。次もあるしな。」
真樹は心配ご無用と言った表情で武司にそう返した。しかし、そこへ沙崙がムスッとしながら言って来る。
「ダメよ、真樹!ホテルに帰ったらちゃんとチェックするからね!」
「大丈夫だって。この通り普通に歩けてるし、どこも痛くない。」
「念には念をよ!油断大敵って言葉が日本にあるでしょ!全く、バカ女がうちの大切な真樹になんてことを…。」
「心配性だな、沙崙は。君はオカンか?」
苦笑いしながら真樹は沙崙に突っ込みを入れる。球場を出ると、出口前に杜夫達応援組が出迎えていた。
「おーい、真樹!みんな!おめでとう!」
「おお、杜夫じゃないか。大丈夫か?応援席襲撃されてんの見えたぞ。」
「まぁ、怖かったけど大丈夫だ。それより真樹の方こそ大丈夫かよ?お前が一番心配だっつーの。」
「俺は全然大丈夫だ。友達なんだから少しは信用してくれよ。」
真樹は呆れ顔でそう言った。その横で、立石が不機嫌そうにぼやいている。
「全く…。何なのよあの子達!いきなり襲いかかってきた上に、私の事ババァって言ったのよ!失礼しちゃうわ!私まだ29なのに!」
「まぁ、向こうからすれば先生も…。」
「ん?湯川君、何か言った?」
「いいえ、何でもありません!先生は大人びていて美人です!」
入学当初は立石に突っかかってばかりいた真樹だったが、最近こういう冗談交じりのやり取りもできるようになっていた。一方、吹奏楽部とチア部1年生達はすっかり疲れ切っていた。慣れない炎天下での演奏に加え、このような事件に巻き込まれてしまっては心理的に参ってしまうのも当然である。そして、フルートを担当していたボブカットの部員は抑えていた恐怖心と緊張が一気に爆発したのか蹲って泣いており、大神が横で宥めている。
「ううっ…。ひっく。」
「大丈夫よ。試合も無事終わったじゃない。それに、悪いのはむこうなんだから。ね、また次頑張ろう。」
真樹はそれを見て何だか申し訳なく思い、吹奏楽部員たちの元へ歩み寄って頭を下げながら言った。
「なんか…その…俺のせいですまん。結果的に怖い思いさせることになっちまった。」
そう謝罪した真樹。すると、泣いていた部員が顔を上げて言った。
「うう…。大丈夫です。怖かったのは事実ですけど落ち着きました。」
そして、大神の方も微笑みながら言った。
「湯川先輩が謝らないでください。うちらは誰も悪くありませんし、野次って襲撃する方がおかしいです!私達も演奏頑張りますんで、先輩達も頑張って下さい。」
「そうですよ、先輩!」
ふと、後ろから声がした。そこにはチアリーディング部1年の宮下が立っている。
「確かに一時はどうなるかと思いましたけど、もう大丈夫ですよ!そんなことより、勝利おめでとうございます!」
「ありがとう…。今日は俺そんな活躍してないが…。」
「そんなことないですよ!それに、私達は甲子園にいれることが嬉しいんです!だから次も勝って、もっと私達を甲子園にいさせて下さいよ!」
あれだけの目に遭ったにもかかわらず、笑顔でそう言った宮下。真樹はそんな宮下にぶっきらぼうだが、素直な気持ちで返事をした。
「ああ。分かったよ。」
こうして、色々な事がありながら大谷津学院は3回戦に進出し、真樹達野球部員や杜夫達応援組はそれぞれの宿泊地へと帰って行ったのだった。
こんにちわ!
もうすぐこの章は終わりです。
新章は今考えていますんで、ご期待下さい!




