第119話 甲子園に向けて!
おはようございます!
今年もあとわずかですね。
夏の甲子園出校が決まった大谷津学院野球部。出発までの日数も迫り、ここのところ練習にも力が入っていたが、この日は休養日だった。真樹はそんな休養日を中学時代の友人である佳久と過ごしていた。二人は映画を見る約束をしており、映画館が入っている大型ショッピングモールの入り口で待ち合わせをしていた。
「お待たせ、真樹!」
「おう、佳久!早く行こうぜ!」
「ああ。俺、この映画ずっと楽しみにしていたんだ!」
「無論、俺もだけどな!」
そう言って二人は建物内に入り、映画館まで行ってチケットを購入。お目当ての映画鑑賞を楽しんだのだった。映画を見終えた二人は満足げに出てきた。
「あー、面白かった!」
「ああ、最後のシーンよかったよな。」
「真樹もそう思うか!見に来てよかった。」
「そろそろ昼にするか。腹減った。」
「そうだな。行こう!」
二人は映画館からフードコートに移動した。そして、二人でラーメン屋に入り、山盛りラーメンを注文したのだった。美味しそうにラーメンをすする二人だったが、佳久が真樹にあの話題を出した。
「そう言えば真樹、改めて甲子園出場おめでとう!」
「ありがとう。頑張ってくるよ!」
「いやぁ、俺は嬉しいぜ!友達が甲子園出るなんて誇らしいわ!これで、中学時代にお前の悪口言ってた女子達も見返せたかもな。」
「さすがにそれはないな。今、学校でも女子から甲子園出たからって調子に乗ってるクソ野郎呼ばわりされてるからな、俺。見返すどころかどんどん悪口が酷くなってるよ。」
「何だよそれ。どうしてお前の周りって性格悪い女ばかり集まるんだ?まぁ、でも世の中広いし優しい女性にも出会えるって!」
佳久はそう言って真樹を慰めた。出発まで残り少ない中、二人はつかの間の休日を楽しんだのだった。
一方こちらは成田市郊外にある印旛沼付近の公園。ここで9人の少女たちが照りつける日差しの中、集まっていた。
「えー、皆さん。時間もない中、猛暑日にもかかわらず集まってくれてありがとうございます。」
そう言ったのは眼鏡をかけた少女だった。彼女は大谷津学院吹奏楽部の1年生で、遠征に反対していた2年生部員に言い返したうちの一人だった。
「まぁ、同じ1年生同士だしそんな畏まらなくて大丈夫だよ。こちらこそ誘ってくれてありがとう!」
そう言って握手を求めたのはサイドアップの髪型をしたチアリーディング部の1年生だった。吹奏楽部もチアリーディング部も甲子園への遠征を巡っていざこざがあり、結果的に彼女たち遠征を希望する1年生が自費で行うことになった。そして、それを知った吹奏楽部の眼鏡の少女がチアリーディング部1年生に対し合同練習をしないかと提案したのだった。部員たちは面識はほとんどなかったが、折角だから一緒にやろうと今回の合同練習が実現したのだった。
「いやー、でもよかった。私達4人だけじゃ心細かったから嬉しいよ!」
「気にしないで。私も気まずい中味方が増えるの嬉しいし。」
ショートカットの吹奏楽部員の言葉に対し、ボブカットのチア部員がそう優しく答えた。どちらの部の1年生も先輩部員たちと盛大に喧嘩してしまった為、部内では肩身の狭い思いをしている。
「じゃあ、時間もあれなんで早速始めちゃいましょう!」
「「「「おー!」」」
眼鏡の少女の言葉にその場にいた全員が元気良く返事して合同練習開始。初めは誰にどの曲をあてがうかを吹奏楽部がチア部に説明し、チア部は曲に合わせて振付をしていくという感じで進められた。時間もない中、付け焼刃と言ってもいいという状況ながら彼女達は必死に演奏や振付の練習を行い、気が付いたら夕方になっていた。
「じゃあ、今日はここまでかな!みんな、帰ろう!」
「うん、一緒に来てくれてありがとうね。遠征拒否した人達が後悔する位楽しんで行こうよ!」
そんな言葉を交わしながら帰路に付く彼女達。その後、出発ギリギリまで練習に力を入れるのだった。
ここはある日の体育館。この日はバレーボール部の練習日だった。当然、真樹のクラスメートで部員である美緒も参加している。
「そりゃー!」
実戦形式の練習だったのだが、美緒が大声と共に強烈なスパイクを決める。相手側のコートにいた部員は追いつけずに、ボールはそのまま後ろに転がっていった。顧問が美緒に声をかける。
「菅野さんナイスよ!その調子でね!」
「ありがとうございます!」
「そこ、もっとボールをしっかり見て!もっと早く反応できるように!」
「はい、すみません!」
そんな感じで練習に力を入れるバレー部。そして、昼休憩の時間になり、美緒は昼食をとることにした。そんな時、食べながら一人の部員が美緒に質問する。
「そう言えばさ、美緒は甲子園見に行くんだっけ?」
「そりゃぁ、行くわよ!うちが甲子園出るなんて夢みたいだし、クラスメートが出るのに行かないなんて学級委員長の名が泣くわ!」
得意げにそう答えた美緒だったが、他の部員たちが眉を顰めながら口々に言い始めた。
「でも、学校側も任意って言ってたしわざわざ行く必要無くない?」
「そうよ。それに湯川の応援もするんだよ!」
「それに、美緒に休まれたら色々困るわよ!」
不満を言う他の部員達に対し、美緒は溜め息をつきながら言った。
「はぁ、あなた達ねぇ。何駄々っ子みたいなこと言ってんのよ!野球部だって厳しい状況の中あそこまで頑張ったんだからそこは素直に褒めなさいよ。色々と言動が幼稚すぎるわよ!それに、さすがに期間も予算もなかったから初日だけ見たら帰ってくるから。練習に穴は開けないわ!」
美緒は強くそう言い切った。そんな中、再び他の部員が美緒に不満げな表情で聞いた。
「美緒…湯川君とよく喧嘩している割に味方することもあるよね。何で?湯川君のせいで女の子達がどれだけ嫌な思いしているか知ってるでしょ?」
美緒は真樹の突っかかった言動に腹を立てることもしばしばだが、昨年の体育祭や真間子の事件の際等には真樹の手助けをしていた。美緒は学校内では友人も人並みにいるが、その部分に関しては理解されていないようだった。
「確かに私も湯川君にイライラさせられることあるし、みんなが湯川君嫌いなのも知ってるわ。でも、それと今回の甲子園に行くか行かないかは関係なくない?そもそも、湯川君の方から嫌がらせをしている事なんてほぼ無いし。遠征しない理由にはならないわ。1日しか行けないのがあれだけど…。」
美緒がそう言うと、他の部員はぐうの音も出ずに黙りこんでしまった。どんな状況でも自分の意見がぶれないのが美緒の長所でもある。そんな彼女は昼休憩が終わると、再び練習に力を入れるのだった。
一方こちらは大谷津学院のグラウンド。この日は野球部の練習が休みの為、陸上部が使用していた。
「それじゃぁ、100mのタイム測るから。みんなスタートラインに着いて!」
陸上部顧問、芝山千代子が部員たちにそう言った。勿論その中に慶もおり、スタートラインに立つ。
「よーい、スタート!」
芝山がそう言ってストップウォッチを入れた瞬間に部員たちが一斉に走り出す。そして、慶が凄まじい勢いで加速し、あっという間に他の部員を出し抜いて行った。
「えっ?」
「マジ?」
「鬼越さん速過ぎじゃない?」
「追いつけないよ。」
結局ぶっちぎりでゴールしてしまった慶。芝山も驚きながら慶に話しかける。
「すごいわね、鬼越さん。自己最速タイよ!」
「本当ですか、先生?やったー、嬉しい!」
「今日はやけに気合入ってたけど、何かいい事でもあったの?」
「そりゃぁ、野球部が甲子園に行きましたからね!僕と仲いい子も出るんで、負けてられないって思ったんです。」
慶は真樹が甲子園に行くことを誰よりも喜んでいた。と、同時に自分も頑張らなきゃいけないという気持ちが強くなり、それが練習の成果と繋がっている。
「そう。どんな理由であれ成果が出るのは大事なことよ。でも、あんまり力入れ過ぎて怪我とか体調不良とかになったらだめよ。」
「はい!そこは気をつけます!」
元気良くそう返事をした慶。その後、彼女は終始気合たっぷりで練習を終え、少し疲れた様子で学校を後にした。
「あー、疲れた。早く帰ってご飯食べたいな!」
そんな事を考えながら駅に到着した慶。すると、見覚えのある顔が改札前にいた。
「あれ、杜夫じゃん!」
「おー、鬼越か。びっくりした!」
私服姿の杜夫が改札の所に立っていた。どうやら電車に乗ろうとしてたようだ。
「そっちは陸上部か?」
「うん。杜夫はオフでしょ?珍しいね。」
「さっきまで新勝寺で必勝祈願してたんだよ。真樹の為に。」
「ああ、なるほど。」
そう話しながら二人は改札に入って行った。そして、慶も話を続ける。
「もうすぐだね、甲子園。僕も出発の準備しなきゃな。」
「俺も!真樹の活躍をしっかり撮るから忘れ物しないようにしなきゃ!」
「あー、楽しみだな!真樹達の甲子園!僕も勇気もらったし、もっと頑張って負けないようにって思えたよ!」
「まぁ、真樹は大和田達にボロクソ言われたけど、そんなこと気にせず甲子園頑張ってほしいな!」
「うん!でも、真樹ならきっと大丈夫!僕は真樹も沙崙もみんなを信じるよ!」
そう話しに花を咲かせた二人。帰る方向が違う二人は階段の所で別れて、それぞれの自宅に帰って行った。様々な者の思いの中、甲子園への出発日はあとわずかになっていた。
どうも!
今回は前に出番なかった慶達をようやく出せました!
さぁ、いよいよ真樹達は甲子園へ出発ですがどうなるのか?
次回をお楽しみに!




