第118話 近づく遠征の日
こんにちわ。
前回が長すぎたので、今回は短めにまとめたいと思います。
大谷津学院野球部は創設6年目にて、春夏通じて初の甲子園に出場する事になった。喜ぶ野球部員たちの裏側では、吹奏楽部とチアリーディング部が遠征を希望する一部の1年生と真樹を毛嫌いする2年生部員のいざこざがあった。結局どちらも希望する1年生部員が自費で甲子園に行くことになったのだが、大金が絡む甲子園遠征の話し合いを当然校長と理事長がしていたのだった。
「野球部が甲子園出場しましたが、これで来年の入学希望者が増えるんじゃないですか?」
「そうですねぇ。まあ、それは良いんですけどね。」
校長と理事長は二人共野球にはあまり興味がないようで、淡々と話している。そして、理事長はある話題を出した。
「で、甲子園への遠征はするのですか?」
「それが…ほとんどの生徒が遠征を拒否しています。あと、チア部や吹奏楽部、応援委員会も。」
「そうですか。まぁ、予想外のことですし、仕方ないんじゃないんですか?」
「吹奏楽部とチア部では、遠征を希望する1年生数人が自費で行くと聞きましたが。」
「良いんじゃないんですか?それなら寄付金募る必要もないですし。我々がこれ以上野球部の事を気にする必要はないですね。」
「分かりました。それでは失礼します、理事長。」
校長はそう言って理事長室から出て行った。野球部の応援は甲子園でも寂しい物になりそうである。
野球部の方は周囲からの声など気にせず、ひたすら練習していた。そして、連日メディアが取材の為に来ているのだが、この日取材に来たのは真樹がよく知っている人物だった。
「こんにちわ!取材に来ました!」
カメラを持った男性がグラウンドにやってきた。その人物を見て、真樹は駆け寄って挨拶をした。
「飯田さん、お久しぶりです。」
「久しぶり。湯川君も元気そうだね。」
取材に来たのはオリエント通信の飯田だった。沙崙が八広茉莉奈達から酷いいじめを受けていた時に、彼女を救うために協力してくれた人物である。
「珍しいですね。うちに来るなんて。」
「ちょっと陳さんを取材したくてね。あれからどうしているか気になってたし、台湾出身のマネージャーとして頑張っているあの子の事をもっと色々な人に知ってもらいたくって。」
「分かりました。呼んできます!」
真樹はそう言うとグラウンドの奥に行き、用具の整理をしていた沙崙を呼んできた。沙崙は飯田を見ると、深々とお辞儀をしながら言った。
「飯田さん。お久しぶりです。その節は大変お世話になりました。」
「うん、陳さんが元気そうでよかったよ!頑張ってるみたいだね!」
「はい!楽しいです!もう、野球部の皆さんには感謝しかありません!」
「それはよかった。じゃあ、取材させてもらうよ。陳さんの特集記事を書こうと思ってるんだ。」
「是非是非、お願いします!」
その後、飯田は沙崙にいくつか質問をし、彼女はそれに答えていた。そして、楚辺手の取材が終わった時、飯田は沙崙の写真を撮る為にカメラを構えた。
「じゃあ、笑って!そうそう、そんな感じ!うん!はい、チーズ!」
ジャージを着てスコアボードを持った沙崙は、笑顔で撮影に臨んだ。そして、本日の取材は終了した。
「ありがとう。じゃあ僕は帰るね。陳さんも頑張って!」
「ありがとうございます!絶対に勝ってきます!」
力強くそう言い切った沙崙は飯田に手を振りながら見送り、その後真樹達の練習に戻った。
その夜。真樹は夕飯を食べ終えて部屋にくつろいでいた。その時、突然電話が鳴った。
「ん?相手は…稲毛先輩か。」
相手は野球部OBで現在は都内の大学に通っている稲毛秀太だった。真樹はビデオ電話モードにして出ると、元気そうな秀太が映っていた。
「お久しぶりです。」
「おう、真樹元気そうだな。甲子園出れたじゃないか!おめでとう。」
「ありがとうございます!自分でもびっくりです!」
「出れなかった俺たちの夢をかなえてくれてありがとうな!」
「いえいえ、とんでもないです!」
「あ、そうだ!俺実家から大学通ってるんだけど、今姐ちゃんが帰ってきてるんだ。お前のことも気にしてたから呼んでくるわ!」
「智子さんが?」
「ああ、ちょっと待ってろ。」
秀太は部屋にいる姉の智子を呼びにいった。稲毛智子は現役の声優であり、真樹の助けもあって3年目にして人気アニメ『機動恐竜ダイノイド』で主要キャラのデリジノイド役を勝ち取った。それを皮切りに、現在はアニメの他、ゲームや吹き替え、ナレーションなど色々な仕事が舞い込んできている。しばらくすると、秀太が智子を連れてきた。
「湯川君、久しぶり!あと、甲子園出場おめでとう!すごいわね!」
「お久しぶりです、智子さん。智子さんも、あれから色々出られていて、凄いです!」
「うん。どれもこれも湯川君のお陰よ。私も湯川君には感謝しているわ。」
「とんでもないです。」
「あ、そうだ。昨日ダイノイドの収録あって、大門監督から真樹君に伝言があるの。」
「大門さんがですか?」
大門隆三郎はダイノイドの監督である。偶然知り合った真樹が大門に智子の事を紹介し、智子がデリジノイド役に決まったというエピソードがある。因みにダイノイドの放送はまだ続いているが、老若男女問わず幅広い世代に受け入れられ、すっかり人気アニメになっていた。
「湯川君。甲子園出場おめでとう。僕見君に助けられたから今度は僕が君を応援したい。お互い頑張ろう。って監督が言ってたわ。」
「そう言ってもらえると光栄です。頑張ってきます。智子さんもお仕事がんばって下さい。」
「うん、頑張るわ。ありがとう!」
そう言ってビデオ通話が終了した。真樹は寝転がって静かに時間を過ごしていたのだが、甲子園への縁整備は刻一刻と近づいていたのだった。
こんにちわ!
真樹は甲子園でどんな活躍をするのか楽しみですね。
次回もお楽しみに!




