第117話 歓喜の裏側
こんにちわ!
珍しく、二日連続投稿します!
真樹達野球部は夏の甲子園に千葉県代表として出場が決定した。だが、当の真樹は復学した裕也や他の女子生徒達から「調子に乗っている」や「さっさと負けろ」等の暴言を浴びせられていた。それでも真樹は一切聞く耳を持たず、他のメンバーと共に練習する。甲子園のベンチ入りメンバーは20人までだが、大谷津学院は部員が17人しかいないので全員が出場できる。他校に比べて圧倒的に戦力が足りない中、野球部は本日も甲子園に向けて練習する。また、甲子園初出場と言うことで連日メディアが取材に来ていた。この日も、深夜のスポーツニュースのクルーが取材に来ており、練習前に女性アナウンサーが関屋にインタビューをしていた。
「初めまして。ミッドナイトスポーツ、列島テレビアナウンサーの湯島直子でございます。」
「こちらこそ。大谷津学院野球部顧問、関谷賢一です。宜しくお願いします。」
「まずは監督、初出場おめでとうございます。創部6年目で、しかも強豪である習志野商業を破っての出場。いかがですか?」
「ありがとうございます。正直こんなに早く行けると思わなかったのでびっくりです。でも、生徒達は本当によく頑張ってくれたので嬉しいですし、感謝しかありませんね。」
「ずばり、初の甲子園ではどのような野球を心がけたいですか?」
「これはうちの生徒たちにとっても貴重な経験ですので、胸を張って悔い無く全力プレーをしてもらいたいですね。私も生徒達を信じていきたいと思います。」
「なるほど。ありがとうございました。」
こうして関屋へのインタビューが終了。続いてクルーは大谷津学院野球部の練習風景を見学する事に。守備練習を見学していたのだが、一段落した所で今度はキャプテンである堀切とエースの大橋の3年生二人が呼ばれてインタビューを受けることになった。
「まずはキャプテンの堀切選手。いよいよ来月は甲子園開幕ですが、今の気持ちはいかがですか?」
「最初はまさか行けるとは思わなかったんですけど、最後の年に出場できるんで嬉しいです。夢みたいですね。」
「初めての甲子園と言うことですが、何か意気込みはありますか?」
「そうですね。先生からキャプテンに指名された以上、どんな状況でも諦めまたくないですし、しっかりとチームメイト全員の事を見ていきたいと思います。」
「ありがとうございます。続いて大橋選手。決勝戦はどのような気持ちでマウンドに上がったのですか?」
「いやぁ、恥ずかしながら緊張しすぎてあんまり覚えていないです。でも、相手も強い所だったんで全力で投げていこうと思いました。とにかく勝てて良かったです。」
「ナイスピッチングでした。甲子園でも全力投球期待していますよ。」
「ありがとうございます。頑張ります。」
二人への取材が終わり、練習に戻ろうとした所で湯島アナは堀切と大橋を呼びとめる。
「あー、ちょっとすいません!」
「はい?」
「どうしました?」
二人が久保を傾げていると、湯島アナが質問をする。
「あの…決勝戦で最後ファーストフライを取った選手はどなたですか?」
湯島の質問に堀切と大橋は笑顔で答える。
「あー、そいつは湯川です。期待の2年生、湯川真樹って奴です!」
「もしよろしければ、今呼んできましょうか?」
「宜しいですか?お願いします!」
湯島は二人に礼を言った。堀切と大橋は楽しそうに話しながら真樹を呼びに行く。
「いやー、湯島アナ可愛かったな。」
「ああ。テレビで見るよりずっと綺麗で緊張したわ。」
そして、二人の目の前では真樹がフリー打撃を終えてベンチに下がってきた所だった。そん真樹に堀切と大橋が声をかける。
「おーい、真樹!少し時間いいか?」
「お前にインタビューしたいんだってよ!」
二人の話を聞いた時、真樹は首をかしげながら聞いた。
「自分に取材ですか?ちなみに、どんな人が取材するんですか?」
「湯島アナだ。可愛いぞ。」
「女子アナからお呼び出しなんてラッキーだぞ。」
二人にとっては嬉しい事だが、真樹にとっては地獄以外の何物でもない。
「嫌ですよ。女子アナなんて見たくもありません。どうして断ってくれなかったんですか!?」
「断る理由なんかないだろ。それに、向こうだって仕事なんだし、お前が女嫌いだからって取材NGなんて言える訳が無いわ。」
「そうだぞ真樹。大人気無いぞ。そんなに時間はかかんないんだし、行ってやれよ。」
二人に取材を受けるよう言われた真樹。そして、近くにいた沙崙も。
「行っておいでよ真樹。女嫌い直すのに少しは効果あるかもよ。」
そう言われて真樹は渋々取材を受けることになった。到着すると、真樹は相変わらずの真顔でインタビューに応えた。
「初めまして。列島テレビの湯島です。」
「湯川真樹です。宜しくお願いします。」
「最終回、一打サヨナラのピンチでもあったあの場面。どのような気持ちで打球を追いかけたのですか?」
「夢中でしたね。自分が取れば終わりだと思うと必死でした。」
「最後、自分が取って甲子園出場が決まった瞬間はいかがでしたか?」
「頭が真っ白でしたね。でも嬉しいです。」
「最後に、甲子園に向けて一言お願いします。」
「出場するからには絶対勝ちたいですね。全力で頑張ります。」
「ありがとうございました。」
こうして、面白味もないがトラブルも特にないまま真樹への取材は終了。その後、取材班は少し練習を見学してから撤収した。最後、全ての練習を終えた後に関屋が部員たちを集めて言った。
「みんな。正直俺もまだ信じられないが、来月は甲子園だ。緊張してるだろうし、あまり時間がある訳でもないが頑張ろう!」
「「「はい!!!」」」
関屋の言葉に、真樹達は力強く返事をした。野球部はいつにも増して結束を高め、甲子園に向けて全力で準備をしていた。
野球部が甲子園に向けて必死に練習している傍ら、トラブルが発生している所があった。それは、大谷津学院の吹奏楽部である。女子高時代だった学校創設時から存在する伝統ある部活動であり、毎年のように全国大会に顔を出している強豪として有名だ。昨年も全国大会に出場し、金賞は取れなかったものの銀賞は獲得している。今年こそ金賞を目標としている吹奏楽部だが、ある日の練習中に不穏な空気が流れていた。
「ど、どうしてダメなんですか?」
「行く訳ないでしょ?何バカなこと言ってんの?」
今の状況はと言うと、怯えた表情で質問した1年生の女子部員を部長である2年生部員が鬼の形相でにらみつけながら冷たく突き放すように言った所だ。吹奏楽部は3年生が引退し、新戦力で秋の大会に向けて力を入れている為少しピリピリしている所があったが、今回はまた少し違うようだ。4人の1年生部員は今にも泣きそうな表情で続ける。
「そ、そんな。私、あのアルプススタンドで演奏できるって思って楽しみにしてたのに。」
「予選は1試合も行かなかったですけど、甲子園は行くと思ったたんです。」
「私も…折角甲子園に行けると思ってたんですけど。」
「せめて理由を教えて下さい。このままじゃ納得できません。」
1年生部員たちがそう言うと、2年生たちは不満を吐きだすかのように話し始めた。
「秋に体会近いのに、余計な事したくないわ!」
「何であんな炎天下で演奏しなきゃいけないの?バカみたい!」
「つーか、湯川がいる時点で応援したくないし。」
「ホントそれ!県大会1回戦コールド負けでよかったのに、余計なことしやがって!」
彼女らの言い分はというと、秋の大会に向けて集中したいということと、女子生徒の敵である真樹がいる野球部の応援はできないと言うことだ。昨年度までは吹奏楽部に男子部員がいたのだが、すべて3年生で残りの1,2年生部員は全員が女性だった。特に、大半を占めている2年生女子は真樹を最も嫌っている層なので、こうなることは大方想像はできる。しかし、普段真樹と関わりを持たない1年生部員はまだ腑に落ちないようだった。
「そ、そう言われましても…湯川先輩のことよく知らないし。」
「甲子園での演奏も、秋の大会に支障はそれほどないと思います!」
「特定の誰かが嫌だからって、甲子園行くのを拒否するのは…。」
「さすがにやり過ぎじゃないんですか?」
まだ納得がいかない1年生部員たちを、部長と副部長の2年生女子部員が厳しく叱りつけた。
「勝手なこと言ってんじゃないわよ!補欠の1年だからって、何でも許されると思わないで!」
「そうよ。みんな必死でやってるのに、あんた達が雰囲気乱したせいで取り返しがつかなくなったらどう責任とるの?ねぇ!」
2年生たちから非難を浴び、1年生部員は完全に委縮している。そんな状況の中、職員室にいた顧問である女性教師が入ってきた。
「みんなー、次は全体練習よ!って、これはどういう状況なの?」
「あ、先生!」
1年生の一人が顧問に事情を説明した。顧問はその後、2年生からも事情を聴き、困ったような表情で話し始めた。
「話は分かったわ。でもねぇ、2年生の皆は去年あと一歩で金賞逃した所を目の当たりにしてて、悔しかったのよ。私も今年は金賞取らせてあげたいし…。1年の皆には申し訳ないけど、顧問としてはやっぱり大会に集中させてあげたいわ。甲子園行きは無しよ。」
「そ、そんな。」
1年生部員たちは愕然とした。言葉を失い、涙をこらえている彼女たちに対し、部長である2年生女子が突き放すように言った。
「そう言う事。みんな大会にかけているから当然よね!そんなに甲子園行きたければ、勝手に行けば?その代わり、交通費や宿泊費は全部自分で出すことね!いかがですか、先生?」
「ん~、そう言うことならいいわ。」
1年生たちの気持ちは顧問や2年生に届かなかった。そして、泣きそうになって崩れ落ちているショートカットの1年生を、眼鏡をかけた1年生が宥め、2年生の方を向き直って言った。
「分かりました。じゃあ、そうさせてもらいます!なので甲子園の期間中は失礼させていただきます!」
そう強く言い放った眼鏡の1年生部員に、残りの1年生も納得しているようだった。その後、気まずい雰囲気のまま吹奏楽部は全体練習を再開したのだった。
一方、同じような問題がチアリーディング部でも発生していた。大谷津学院のチアリーディング部もかなりの強豪で、何度も全国優勝を経験している。昨年は優勝こそ逃したものの、全国ベスト8まで残り、3年生引退後の残りのメンバーは2年生を中心に今年こと全国優勝を目標に鍛錬していた。ある日、野球部が甲子園出場を決めたにもかかわらず、その事に一切触れない2年生たちに1年生部員は不審に思った。そして、練習後に甲子園に関して質問した所、2年生全員が遠征を拒否し、1年生は驚愕していたのだった。
「え…行かないって、本当ですか?」
「当たり前でしょ?行くだけ時間の無駄よ!」
2年生の部長に冷たく突き放されて、唖然とする5人の1年生部員達。だが、サイドアップの髪型をした1年生部員が納得できずに反論する。
「無駄って…そんな言い方ないんじゃないんですか?甲子園でパフォーマンス出来るのに、嬉しくないんですか?」
そんな1年生の意見に対し、2年生は一斉に反論する。
「嫌よ、熱いし。」
「日に焼けるし。」
「汗かきたくないし。」
「つーか、湯川の応援とかマジで無理。」
「あんなの応援するくらいなら死んだほうがマシだわ!」
やはり、チア部の2年生も全員真樹のことが嫌いであり、事情をよく知らない1年生たちは唖然としていた。そんな中、ボブカットの1年生部員が呆れ顔で話し始める。
「でも、先輩方。サッカー部の応援は必ず遠征してますよね。サッカー部は全試合帯同するのに、野球部は1試合も行かないって言うのは理解できないんですけど。」
ごもっともな意見だった。しかし、2年生たちはその意見をねじ伏せてしまった。
「バカじゃないの、あんたたち?!そんなのも分かんない訳?」
「サッカー部には大谷津学院の至宝、裕也君がいるのよ!応援するのは当然じゃない?」
「そうよ!裕也君も私達の応援で力もらえるって言ったたわ!あんなイケメンに頼られるなんて、誇れることじゃない!」
「でも、野球部は別。湯川なんて応援できない!」
「あいつは女性の敵よ!裕也君のいるサッカー部と一緒にするなんて、汚らわしい!」
「それに、こっちだって秋に大会控えてるのよ!サッカー部に加えて甲子園の応援に行く時間も人員もないの!分かった?!」
好き放題言う2年生に、1年生たちはまだ納得いってないようだった。そんな中、顧問の女性教諭が彼女たちの仲裁に入る。
「まぁまぁ、みんな落ち着いて。1年生の皆の気持ちも分かるけど、今うちは日程カツカツなの。急に決まった甲子園への遠征じゃぁ、ペース乱れて部のモチベーションにも差し支えるわ。それに、あなた達が入ってくる前に他の皆は去年全国優勝逃して悔しい思いしてるんだし、ここは分かってあげて。みんな優勝したいのよ。だから、甲子園への遠征はしないわ。」
「そ、そんな…。」
ここでも、1年生の意見は通らなかった。ボブカットの1年生が呆然と立ち尽くしていた時、サイドアップの1年生がずいっと前に出てきた言った。
「先輩達がそう言うなら…分かりました。一生に一度経験できるかも分からない、貴重なアルプススタンドで応援できるチャンスを私達は逃したくありません。遠征費は全て自己負担しますんで、それなら私達だけでも言っていいですよね?」
サイドアップがそう言うと、2年生の部長は小馬鹿にするように言い放った。
「あー、それなら別にいいけど。自腹でいいって言うんなら、行きたきゃ勝手にいけば?その代わり、私達はサッカー部の大会にも行くし、秋の大会の練習で忙しいからね。野球部が1回戦で負けて、残りの日が暇になっても、新学期始まるまで練習来なくていいから。邪魔だし。」
あまりにも冷たい扱いに1年生たちは不満を心に抱いていたが、皆の気持ちはすでに固まっており、再びサイドアップの1年生が代表して言った。
「そこまで言うなら、分かりました。遠慮なく遠征させていただきます。先輩たちの邪魔はいたしませんので!帰ろう、みんな!」
「うん。」
5人の1年生はそのまま着替えてさっさと帰ってしまった。他の部のトラブルなど知らないまま、野球部は甲子園に向けて準備をするしかなかったのだった。
こんにちわ!
色々詰め込み過ぎて長くなってしまいました。
ごめんなさい!
さあ、不穏な空気も流れていますがどうなるのか?
次回をお楽しみに!




