第116話 喜ぶ者、蔑む者
こんにちわ!
12月初投稿です。
7月末に行われた夏の甲子園千葉県予選の決勝戦。万年3回戦止まりだった大谷津学院が決勝まで行っただけでなく、甲子園の常連である強豪校の習志野商業を破り、甲子園への出場を決めたのだった。あまりの予想外の結果に観客だけでなく、真樹達も驚いている。そして、喜びの気持ちが高ぶった状態で真樹達はメディアへのインタビューなどを済ませ、解散。真樹も帰宅したのだった。
「ただいま。」
真樹がそう言いながら家に入ると、祖父母である正三と多恵が笑顔で真樹を出迎えてくれた。
「お帰り、真樹!ようやった、爺ちゃんは嬉しいぞ!」
「おばあちゃんも、嬉しすぎてなんて言ったらいいやら…自分の孫が甲子園に出るなんて、とっても誇らしいわ!」
「ありがとう。正直俺もびっくりしてるったいうか、夢でも見てるんじゃないかって思う。」
そう言いつつも、真樹は嬉しいのか微笑みを浮かべている。そんな真樹に正三と多恵は、真樹の肩に手を置き、激励の言葉をかけた。
「いいや、現実だぞ真樹。実力で勝ったんだ。胸を張って甲子園に行って来い!」
「このまま甲子園でも優勝したらおばあちゃん嬉しすぎてどうしましょう?今夜はいっぱいごちそう作ってあげるからね!」
「フフ…ありがとう。爺ちゃん、婆ちゃん。頑張ってくるよ。」
真樹は笑顔で祖父母の温かい言葉に感謝をし、多恵が腕をふるった豪華な夕飯を食べながら、団欒して楽しく時間を過ごした。
終業式の日。
「えー、皆さん。明日から夏休みです。我が校は今年、変な事件が立て続けに起きて大混乱しておりました。夏休みにハメを外し過ぎて、これ以上事件に巻き込まれないように気を付けて過ごして下さい。以上です。」
体育館での集会で校長がそう言った。恐らく沙崙へのいじめ問題や台田の立てこもり事件の影響で悪い意味で注目を浴び、精神的に参っていたのだろう。そんな皮肉めいた忠告で終業式の全校集会が終わり、生徒達はぞろぞろと体育館を後にした。教室に戻ると、慶と杜夫、美緒が真樹と沙崙に笑顔で話しかける。
「真樹、沙崙。甲子園、頑張ってきてね。僕達、応援行くから!」
「お前の甲子園での活躍、しっかりと俺のカメラが収めてやるからな。頑張って来いよ!」
「折角出場したのよ。悔い無く全力でプレーしてきなさいよね!でも、1回戦負けだけは許さないわ!」
3人のその言葉に真樹と沙崙は決意を込めたような表情で言った。
「ありがとう、みんな!勿論やるからには絶対勝つ!」
「私を救ってくれた野球部に恩返しがする日がようやく来たのよ!選手の為に、最後まで頑張るわ!」
真樹と沙崙は甲子園に向けて気持ちを高め、慶達は真樹たちの活躍を楽しみにしている気持ちでいっぱいになったその時だった。そんな空気を一気に冷やす人物が現れた。
「ヤッホー、みんな元気にしてた?」
1ヶ月間停学状態だったサッカー部のイケメン、大和田裕也だったった。裕也が現れた瞬間、A組の女子生徒達から黄色い歓声が上がる。
「きゃー!」
「裕也君久しぶりー!」
「裕也君に会えなくてさみしかったよー!」
寄ってきた女子生徒達に対し、裕也は相変わらずきざな態度で接している。
「俺も寂しかったし、退屈だったよ。あーあ、何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだか。嫌になっちゃうよ!」
裕也はまるで自分が被害者であるかのようにそう言った。どうやら、停学処分になっても自分の子内に対して反省するつもりはないらしい。そして、真樹を見つけるなり軽蔑の視線を送りながら言った。
「お、甲子園に出たからって調子に乗ってる湯川君じゃないか。まだ学校にいたの?マジでないわ~。」
真樹をバカにするようにそう言い放った裕也。真樹は、溜息交じりにぼやくように言った。
「はぁ。相変わらずだな、お前は。とても停学明けの人間のとる態度に見えないわ。」
「フン!俺は悪くない!世の中反省したら負け、自分が正しいと思って行動する事が正義なんだよ!特に、俺みたいに人望がある奴はな!」
謎の持論を述べた裕也に対し、真樹はもう一度溜息交じりに呆れながら言う。
「用が済んだなら教室帰れよ。それ言うだけの為に来たなんて、暇な奴だな。」
「うわ~、モテない奴の負け犬の遠吠えだ!ま、せいぜい甲子園でぼろ負けして、無様な姿を全国に晒せよ。お前が外歩けなくなって引きこもる姿を想像すると、今からでも笑えてくるわ。」
裕也の発言に、他の女子生徒達も乗っかる。
「そうだ、そうだ!」
「調子に乗るなよ、女の敵!」
「さっさと負けろ!」
「お前が停学になればよかったんだよ!」
真樹は女子生徒達の暴言を真樹は全て無視したが、慶と美緒がそれに反論した。
「ちょっと、待ってよみんな!野球部のみんながんばってるのに、そんな暴言吐くなんてどうかしてるよ!いくら仲が良くないからって、言っていいことと悪いことがあるでしょ?」
「大和田君と、みんなの発言は聞き捨てならないわ!何も悪いことしていないのに、一方的に誹謗中傷するなんて、三流未満の人間がすることよ。」
二人が忠告したが、それに対して一人の女子生徒が逆上する。
「は?鬼越さんと菅野さん、何いい子ぶってんの?ムカつくんだけど!裕也君を蔑ろにして、そんな女の敵に肩入れするなんて、どうなるか分かってるんでしょうね?」
「やめやめ!こんな可愛げの欠片もない、女捨てた奴と話すなんて時間の無駄!それより、俺来週サッカー部の県大会の予選出るんだけど、この試合勝ったら決勝トーナメント出れるんだ!よかったら見に来ない?」
逆上した女子生徒を宥めた裕也は、早速自分が出る試合に女子生徒達を誘った。因みに、裕也は定額が明けると同時にサッカー部にも何食わぬ顔で復帰している。試合に勝つためにはエースストライカーである裕也の力が必要なので、当然と言えば当然ではあった。そんな裕也の誘いに対し、女子達の返事はもちろんイエスだった。
「行く行く!」
「カッコいい裕也君見に行きたい!」
「絶対勝ってね!目指せ全国!」
「フレー、フレー裕也!」
女子達に応援されて、裕也は少し出れながら言った。
「ありがとう。みんなが応援してくれたおかげで勝てる気がしてきた!じゃあ、俺帰るから!夏休み宜しくー!」
そう言って裕也はご機嫌な様子で帰って行った。その様子を見て、杜夫は地団太を踏みながら怒り始めた。
「むっかつくわ、あいつ!マジで何なの?カッコいいからって何言っても許されると思って!」
「気にすんな杜夫。あいつのこと考えるだけ時間の無駄だ!」
怒る杜夫を真樹が冷静に宥める。杜夫は強い意志のこもった視線で真樹に言った。
「真樹。甲子園、絶対勝てよ!心の底から応援してるからな!お前ならやれる!」
「サンキュー、杜夫。」
真樹は杜夫に礼を言った。そして、隣にいた沙崙も強い視線で真樹に言う。
「真樹。」
「何だ?」
「何としても勝つわよ!私、全力でサポートするから!」
「ああ。まぁ、お前がいれば何とかなるだろ。」
真樹はサロンを信頼しているのか、微笑みながらそう言った。こうして、真樹達は8月に控えている甲子園での試合に向けて、改めて決意を固めたのだった。
こんにちわ。
久々にたっぷり書くことができました。
次回もお楽しみに!




