第115話 野球部の悲願
おはようございます。
新章、始まります。
台田の立てこもり事件から日が経ち、季節は7月になった。その後、学校内では色々混乱した部分はあったものの、何とか今までの状況に戻すことができている。元気を取り戻した丈はその後も順調に練習をこなし、今まで以上のプレーができるほどだった。そして、大谷津学院は今、先月とは違う意味で注目を浴びていた。
7月下旬。千葉県千葉市、千葉マリンスタジアムにて。
「さあ、大変な事になってしまいました。夏の甲子園、千葉県大会決勝の模様ですが、現在9回裏2アウトランナー1,2塁、5-3で大谷津学院が名門、習志野商業に2点リードしております。大谷津学院のエース大橋、ここを抑えて創設初の甲子園の切符をつかむのか?それとも、習志野商業の4番、樋口の1発で逆転サヨナラを決めてしまうのか、注目の勝負です。」
そう言ったのはテレビ中継のアナウンサーだった。チーム創設6年目の大谷津学院野球部は、毎年3回戦止まりだったのだが、何と今年は順調に勝ち上がり、決勝まで来てしまったのだ。あの事件から時うが元気を取り戻した事を皮切りに野球部のモチベーションも上がり、更に沙崙のマネジメントが上手くいったこともあって、今まで以上に投打がかみ合うようになった。そして、決勝戦では甲子園の常連校である習志野商業と激突。1回に先制されるものの、その後は何とか抑え、打線も粘り強く反撃し、8回にとうとう逆転して、9回も手にもダメ押し点を入れることができた。そして、あと1球で大谷津学院は甲子園への切符を手に入れることができるのだが、1発出れば逆転サヨナラ負けと言う状況になっている。そして、カウント2ボール2ストライクからの5球目。
「おっと、打ち上げた。ファースト追いかける、どうだ、取れるか?!」
アナウンサーが力強く実況した。打ち上げた打球はスタンドに入るか入らないかギリギリの所に上がっていた。そして、ファーストを守っていた真樹が必死で追いかけ、落下点に駆け込み…。
「取った!3アウト、試合終了!大谷津学院、創部6年目、部員もわずか17人!しかし彼らはやりました!春夏通じて甲子園初出場です!」
真樹はネットすれすれの所でボールをキャッチし、ゲームセット。大谷津学院は甲子園の切符を手に入れた。真樹達部員はマウンド付近に集まり、もみくちゃになっている。そして、最後の打球を取った真樹は手荒く祝福の言葉が掛けられていた。
「よくやった真樹!」
「さすが、学校一の女嫌い!」
「野球だけは上手いだけのことはある!」
「あと、勉強はできるしな!」
武司と伸治がジョーク交じりに褒めたのを、真樹は苦笑いで返す。
「うるせぇよ、余計な御世話だ!つーか、褒めてんのか、それ?!」
そう言いつつも、真樹もやはり嬉しかった。因みに、真樹もこの試合スタメンとして使われ、2安打1打点を
記録している。更に、見事復活を遂げた丈、マウンドを守った3年生でエースの大橋、同じく3年生でキャプテンの堀切も喜びながら真樹に声をかける。
「先輩、ナイスです!俺、みどりの件で先輩に助けられてから本当に尊敬してます!甲子園でも一緒に頑張りたいです!」
「ありがとう、真樹!お前のお陰で勝利投手になれた!甲子園でも頼むぞ!」
「キャプテンとして誇らしいぞ、真樹!来年はお前をキャプテンにしようかな?」
褒められまくった真樹は少し照れながら返した。
「よして下さい。ただファールフライ取っただけですよ。まぁ、甲子園は、その…頑張ります。」
部員たちは喜びの感情を爆発させた。そして、ベンチでも臨時マネージャーの沙崙と顧問の関屋が喜びの感情を見せている。
「やった、やった!みんなナイスよ!先生、最高ですね!」
「ああ。俺は高校の時に甲子園に行けなかったが、今回みんなが連れて行ってくれる。こんなに嬉しいことはない!」
「はぁ~毎試合見てて緊張したけど、甲子園行けて良かったわぁ。」
「まぁ、まだ試合がある。甲子園行ってからが本番だからな。」
「はい、そうですね!」
遂に手に入れた甲子園行きの切符。大谷津学院のベンチは、すっかり祝福モードに包まれていたのだった。
一方、スタンドでは真樹たちの活躍を一目見ようと、球場にやってきた人物がいた。勿論、それは…。
「よっしゃー!真樹が甲子園だ!お前のお陰でうちが甲子園に行けた決定的瞬間を、俺はカメラにすっかり収めたからな!永久保存版だぞ!」
杜夫は持っていた1眼レフで真樹がフライを取った瞬間を撮影し、椅子から立ち上がってはしゃいでいた。そして、その隣では慶と美緒が抱き合いながら喜んでいる!
「やったー!真樹達が、うちの学校が甲子園だ!絶対僕、甲子園まで応援に行くからね!」
「うんうん、よくやったわ。湯川君や沙崙がこれだけがんばっているんだから、うちのバレー部も頑張んなきゃ!」
3人は野球部の甲子園出場を喜んでいた。しかし、その後杜夫はある事に気付いた。
「そう言えば…結局俺たち以外応援来なかったな。」
杜夫はふと、相手校である習志野商業の応援席を見ながら言った。習志野商業は大谷津学院よりも生徒数が多く、何より甲子園常連の超名門校なだけあって応援も迫力がある。今、習志野商業側のスタンドでは大勢の吹奏楽部、チアリーディング部員、その他応援に来た一般生徒達が後片付けをしながらぞろぞろと球場を後にしている。一方、大谷津学院側の応援席はと言うと、吹奏楽部、チアリーディング部、応援委員会等は誰ひとり来ておらず、一般生徒で球場に応援に来たのは杜夫、慶、美緒くらいだった。高校野球の応援の場合、吹奏楽部やチアリーディング部等学校関係者用の場所が確保されているのだが、誰も来ていないので、その部分だけガランと空いている異様な雰囲気が出ていた。無論、大谷津学院の攻撃中は相手チームとは比べ物にならないくらい静まり返っており、その間聞こえてきたのは杜夫達や部員達の父兄、近所に住む大谷津学院を応援している人達の声のみという、高校野球の応援にしては少しさみしい状態だった。その様子に、慶と美緒が少し悲しそうに呟いた。
「どうしてみんな来ないんだろう?野球部の皆がこんなに頑張っているのに。僕も、真樹達の活躍見て元気もらえたし、自分ももっと陸上頑張って全国行くんだって気持ちになれたんだよ。」
「でも、サッカー部の応援は部員総出で行くのよね。主に大和田君目当てで。はぁ、停学も明けてるし、ますますあいつが調子に乗るわ。」
美緒の言う通り、裕也は1カ月の停学期間を終えて復学していた。そして、その瞬間を置くの女子生徒が喜んでおり、裕也の方も停学前と変わらない様子だった。そんなうような雰囲気を跳ねのけて、甲子園への切符を掴み取った大谷津学院野球部。しかし、嬉しいことばかりではなく、更なる問題が持ち上がるのだった。
おはようございます!
大谷津学院が甲子園に出場しました!
しかし、そんな彼らに待ち受けている者とは一体何なのか?
次回をお楽しみに!




