第104話 みんなが呆れてる
こんにちわ。
最近少しずつですが、涼しくなってきましたね。
休み明けの月曜日、真樹は普段通りに家を出て登校していた。朝、成田駅の改札でいつものように慶と合流して一緒に登校していたのだが、校門を通過した所で本郷丈を見かけた。真樹が少し声を張って話しかける。
「おーい、本郷!」
「ん…?あ、湯川先輩に鬼越先輩。おはようございます。」
丈は振り返って真樹と慶に挨拶した。一見普段通りだが、真樹目線ではその表情に疲れが現れているようにも見えていた。真樹は早速丈に問いかける。
「本郷、俺昨日電話したのに何で出ないんだよ?」
「すみません、彼女に一日中取り上げられてまして…。夜に返してもらった後先輩から電話あったの気付いたんですけど、朝直接謝りたいと思ったのでそのままにしてしまいました。ごめんなさい。」
その話を聞いて、二人は完全にドン引きしていた。慶は少し苛立ちを見せながら丈に言う。
「本郷君。女の僕から見ても、その彼女病的におかしいよ。デートって二人で楽しい時間を共有する物の筈なのに、それじゃあただ束縛して我儘押し付けているだけだよ。庇う必要なんて無いよ。」
「でも彼女は…思い通りにならないと何をしでかすか分かりません。昨日も警察にいたずら電話した揚句、それを僕のせいにしましたから…。」
慶は言葉を失い、真樹は堪忍袋の緒が切れた。そして、厳しい顔で丈に言った。
「本郷、お前は洗脳されている。そんな脅迫じみたこと、放置するのは危険すぎるしお前の今後にもかかわるぞ。彼女だから大目に見ているかもしれないが、明らかに許される範囲を超えているぞ…。」
「し、しかし…。」
「安心しろ…。お前一人で無理なら俺が何とかしてやる。何でも一人で抱え込まないで、少しは先輩を頼れ。じゃあな。」
そう言って真樹は丈と別れて慶と共に自分の教室に向かった。その横で、慶が微笑みながら真樹に言った。
「真樹、カッコいいじゃん!良い先輩だね!」
「俺は普通のことしか言ってない。」
「でも僕、真樹のそういうはっきりモノ言える所好きだよ!口だけじゃなくて、即行動に移せる所もね!」
慶にそう言われて、真樹は少し照れていた。そして教室に着くと杜夫や沙崙、美緒達がいたのだが、真樹が先程丈が言っていたことを話すと3人はやっぱり呆れかえっていた。
「怖い怖い怖い!俺なら即行で逃げ出すわ!」
と言ったのは杜夫。
「男女問わず、我儘で自分勝手な奴って大嫌い!どういう育ち方すれば、そんな脳みそが出来上がるのかしら?」
と呆れたのは美緒。
「何とか、解放してあげたいわね。本郷君、可哀想。」
と悲しそうに言ったのは沙崙だった。真樹の方は険しい顔で話を続ける。
「本郷の奴、完全に精神的に参っているから、少しでも手助けしてやりたい。だが、相手が他校生の上にまともな精神の持ち主じゃない。どうやってとっちめるか困っているんだ。」
そう言うとみんな黙りこんでしまった。何とも言えない空気が漂う中、慶が何かをを閃いたかのように話し始めた。
「だったらさ、向こうの弱みを握っちゃえばいいんじゃない?」
「弱み?」
真樹が首をかしげた。慶は更に続ける。
「いくら自分勝手で人の話が通用しなくても、流石に弱み見せれば観念するでしょ。向こうがやってることは下手すれば犯罪にもなりえるし、それをちらつかせれば結構効くと思うよ。」
慶が言ったことに杜夫と美緒も頷いた。
「そうだな。俺なら被害届出すわ。このまま放置したら、金庫破りや結婚詐欺にも手を出しそうだしな。」
「そう言う輩は徹底的に痛めつけないと分からないわ。因果応報ってものがあるのを教えてやるべきよ。」
ふたりの言葉に沙崙も首を縦に振りながら言った。
「そうね。本人同士で解決できないなら、第3者の介入も必要だと思うわ。まぁ、向こうがこっちの話を聞いてくれるかは分からないけど。」
みんなの言葉を聞いて真樹は少し考え込んだ。そして、一息ついてから言った。
「そうだな…それしか無いかもな。あいつの為だ、俺も一肌脱ごう!」
真樹がそう言った所でチャイムが鳴り、この日も授業が始まった。
放課後。
「ここが奴の学校か。」
「北下総高校ね…。思ったより近くてよかったわ。」
「でも、その彼女って学校だとどうなんだろう。ホント気になる。」
真樹、美緒、沙崙の3人は北下総高校に向かって歩いていた。昼休みに真樹は丈の元を訪れ、台田の高校を聞きだした。聞いたうえで今回のことを丈に説明した所、彼は「先輩にそんなことをさせるのは申し訳ない」と断ったが、真樹が「何とかしてやりたい」と必死に説得して、何とか実行できたのだった。そして、校舎が見えて校門が近づいた時に真樹が言った。
「で、沙崙はともかくどうして菅野までついて来たんだ?」
「話を聞いて、そんなことをする人間が現実にいるのかと思ったのよ。もしいたら、叱りつけてやりたいと思ったわ。」
美緒の説明に真樹は心の中で(まあいいや。)と思いながら校舎に歩みを向ける。丈から台田の写真をもらったのでターゲットの顔を知っているものの、一向にすれ違う気配はない。先程から多くの北下総の生徒とすれ違っている中、真樹はどうしても見つけられないので適当な生徒に聞き込みをすることにした。そして、ある二人の男子生徒に声を掛け…。
「失礼、少しいいか?」
そう声をかけた時、相手の二人は真樹の方へ向き直った。その瞬間、真樹は少し驚いていた。
「う…お前たちは。」
その相手は、真樹が電車内でよく見かける学ラン姿のアニメ好き男子高校生だった。学ランの学校は多いが、まさか北下総だとは思わなかった。二人も真樹を見て目を丸くする。
「おやぁ、その制服は大谷津学院の物。」
「お主のことも電車内で何度か見かけたことがあるぞ。」
やはり二人も真樹の顔に見覚えがあった。因みに彼らはかつて存在したアイドル声優ユニット『トライスターズ』の大ファンだった。しかし、グループリーダーである大津悠とは犬猿の仲である真樹は彼女の悪事を暴いて声優界から追放する事に成功。他のメンバーも含めて全員逮捕されてユニットは解散し、メンバーが主役のアニメも打ち切りになったのだった。へこんでいるかと思ったが、立ち直ったのか思ったより元気そうだった。真樹は溜め息交じりに二人に聞いた。
「まぁいいや、ちょっと二人に聞きたいことがある。」
真樹の丈救出作戦が始まったのだった。
こんにちわ。
意外すぎる再会でしたね。
真樹の聞き込みは上手くいくのか?
次回もお楽しみに!




