第101話 誤魔化せないぞ
こんにちわ!
今月最後の投稿です。
野球部の1年生である本郷が、入部当初からは想像もできないほどの絶不調に陥ってしまった。そして、真樹はその原因が彼の人間関係に何かしらの問題が起きていると踏んでいたが、先程電話をしている様子を見てほぼ確信した。放課後、陸上部の練習がある慶や徒歩で寮に帰っていた沙崙と別れた真樹は、杜夫と共に校舎を出ようとしていた。
「人間関係?」
「ああ、ありゃ間違いない。」
杜夫は目を丸くしながら真樹にそう言った。真樹は少し眉を顰めながらそう答え、深刻な顔で話を続ける。
「トイレから出てきた時に出くわしたんだが、電話で誰かと何か揉めているような感じだった。それに、本郷が言い負かされているような感じだったし、モチベーションが下がるには十分すぎる原因になるだろ。」
「確かにそうかもな。だけど、その本郷くんが揉めている相手って誰なんだ?」
「分からない。でも、家族ではなさそうだったな。」
真樹が目撃したあのやり取りだけでは、電話の相手とどのような関係なのかは分からない。難しい顔をした真樹と杜夫が校舎を出ようとした時、真樹は声をかけられる。
「あ、湯川先輩!」
「お疲れ様です!」
「僕らも失礼します!」
そこにいたのは本郷と同じ野球部の1年生である千葉、登戸、幕張の3人だった。本郷の姿が見えないのに引っかりつつも、真樹は挨拶を返す。
「おう、お疲れ。あ、こいつは俺のクラスメートの杜夫だ。杜夫、彼らが野球部の1年生だ。」
「「「初めまして!よろしくお願いします!」」」
「お、おう。宜しく!俺は真樹のクラスメイトの公津杜夫だ。」
自己紹介が終わり、真樹は早速疑問に思っていることを尋ねた。
「そう言えば、本郷の奴がいないが…お前ら普段一緒に帰ったりはしないのか?」
真樹が聞くと千葉が困った表情で答えた。
「いえ、さっき一緒に帰ろうって誘ったんですけど『急ぎの用があるからごめん』って言ってダッシュで帰って行ったんですよ、あいつ。」
千葉に続いて、今度は登戸が話し始める。
「最近あいつ、何か様子が変ですね。学校来る度に疲れてるっていうか、休み時間にスマホ使ってることが日に日に増えているような感じなんです。」
更に、今度は幕張が気になる話を持ち出した。
「そう言えば、前にあいつがスマホのメッセージ開いた所をチラ見したことがあったんですけど、不在着信が滅茶苦茶入ってましたね。ちょっと見ただけで詳しい数までは分かんないんですけど、あいつも困った顔してましたし、相当だな、ありゃ。」
1年生3人の話を聞いた真樹は、何か感づいたようだった。そして、険しかった表情を元に戻して3人に話をした。
「やっぱりそうか。まぁ、俺も少し気になってたんだがな…。ありがとう、気を付けて帰れよ。」
「「「お疲れ様でした!」」」
真樹は1年生たちに挨拶をしてから別れ、杜夫と共に成田駅へ向かった。そして、杜夫が真樹に尋ねる。
「どうしたんだ、真樹?何か気づいたことでもあったのか?」
「いや、そうじゃないけど…一つ気付いたのはあいつは今、誰かに生活を握られているってことだな。ま、まだ確証は持てないけど…。」
「束縛って事か?でも、いるよな。そう言う奴。一人は嫌だからってズカズカ人のプライベートに踏み込んでくる奴。面倒くさいよな。」
そんなことを話しながら二人は駅に着き、それぞれの家に帰って行った。
土曜日。この日も野球部の午前練習は行われた。勿論練習には部員全員が揃っているが、本郷の方は相変わらず元気が無く、打撃も守備も動きのキレが悪かった。そして、休憩時間になると、しびれを切らした真樹が本郷を呼び出した。
「本郷、ちょっと来い。」
ベンチに座るや否や、真樹は厳しい顔でそう言った。一方の本郷は気まずそうな顔で訊ねる。
「ど、どうしました?あ、さっきのエラーはすみません。練習します!」
「いや、それはもういい。単刀直入に言うが…お前やっぱり、人間関係トラぶってんだろ?」
真樹にそう言われた本郷は少しびっくりした表情で一瞬黙り込んだが、取り繕ったようなほほえみで返す。
「い、いやだなぁ。そんな訳ないじゃないですか!ただ単に僕が下手なだけなんで、練習すればいい、それだけですよ!」
「とぼけるな。もう誤魔化せないぞ。お前の携帯に、毎日大量の連絡が来ているのはみんな目撃しているし、最近1年同士で一緒に帰ったり遊んだりしてないみたいじゃないか。頼むから正直に言ってくれ。束縛でもされているんだろ?このままじゃ、みんなお前の事が心配で練習にも身が入らないしんだよ。」
そんなことを話していると、二人のやり取りを聞いていた残りの1年生たちと、伸治が近づいてきた。気まずそうに俯いている本郷に対し、皆が声をかける。
「丈、お前どうしちゃんたんだよ?!」
「水臭いぞ、悩みがあるなら言ってくれ!」
「最近元気ないぞ、お前。また一緒にプロスピやろうぜ!」
「真樹の言う通りだぜ、本郷。みんな楽しく練習したいんだから、お前一人に辛い顔なんかして欲しくないんだよ。」
みんなにそう言われた本郷は流石に観念したのか、少し間を置いて緊張しながら話し始めた。
「す、すみませんでした。じ、実は…その、ある人物からの連絡が最近多くって…。」
「それはもう分かってる。相手は誰だ?親か?それとも、同じ中学にいたヤンキーか何かか?」
真樹がそう聞くと、本郷から返ってきたのは意外な答えだった。
「それが、その…僕の彼女です。」
それを聞いた真樹達は、一瞬ポカンとしたのは言うまでもない。
こんにちわ。
次の投稿は9月に入ってからです。
次回もお楽しみに!




