第100話 どうも気になるわ
おはようございます。
今日は雨がすごいですね。
それは、真樹が進級したばかりである4月まで遡る。入学式が終わり、各部活動には新入部員が入部してくる時期の為、人数がギリギリの野球部は何としても新入部員が欲しい所だった。そんな期待をしていた中、4人の1年生が入部する事になり、関屋達野球部一同は喜んだ。そして、初顔合わせの日…。
「1年生のみんな、初めまして。私は野球部顧問の関屋賢一です。担当教科は数学なので授業の時もよろしく。じゃあ、一人一人自己紹介してくれる?」
関屋がそう言うと、1年生たちは自己紹介を始めた。
「蘇我東中から来た、千葉義男です。中学時代はピッチャーをしていました!」
「新美浜中から来た、登戸誠二です!外野なら全部守れます!」
「幕張海です!花見川西中ではキャッチャーでしたが、内野も少しできます!」
そして最後、一番背が高くて威勢が良い新入生が自己紹介した。
「一本松中学から来た、本郷丈です!中学時代は主にサードを守っていました!今後とも、宜しくお願い致します!」
こうして、大谷津学院野球部は部員が17人に増え、今年度は幸先の良いスタートを切った。そして、1年生の実力を見る為に守備練習を行ったのだが、本郷の様子を見た真樹は思わず言葉を漏らした。
「ほう。あの本郷とか言う奴、威勢がいいだけでなく結構上手いじゃないか。」
本郷は積極的に打球を追いかけ、難しいコースもしっかりと捕球していた。打撃練習でも…。
「パワーヒッターではないけど、安打製造機って感じだな。いやー、良いのが入ってきた。」
真樹は本郷を見て、微笑みながらそう言った。昨年は3回戦止まりだった大谷津学院野球部だが、彼らの加入でもっと勝てるんじゃないかと誰もが思っていた。
そして現在。本郷は元気が無く、打撃も守備も湿り気味だった。元々長身で細身な体格だったが、表情を見ると少しやつれているように見えなくもなかった。真樹はそんな彼の事を昨日から少し心配しつつ、お昼ご飯を食べることにした。
「真樹、お昼食べよう!」
「おう。そうだな。」
慶にはそう言って真樹の前の席に座った。その後、杜夫と沙崙もやってきて4人で昼食をとる。真樹はまだ、本郷の事が頭から離れなかったが、気になった慶と杜夫が真樹に尋ねた。
「真樹、どうしたの?」
「何か悩んでんのか?深刻な顔して。あ、まさかお前もついに恋か?」
そんな杜夫のジョークに対し、真樹は突っ込みを入れる。
「そんなんじゃねーよ。ちょっと、うちの部活の1年生で1人引っかかるのがいてな。」
「本郷くんでしょ?」
野球部臨時マネージャーの沙崙がそう言った。そして、最近加入したばかりの彼女は、当初の本郷の様子を真樹に尋ねる。
「確かにプレーを見てても元気ないようにみえたけど、入ったばかりの頃は本当に良かったの?」
「ああ。威勢はいいし、プレーも積極的だった。だから、絶対に何か原因がある。」
二人の話を聞いていた慶と杜夫も眉を下げながら話に加わる。
「新入部員か。僕の所にも5人くらい入ってきたけど、寧ろ喧しすぎて手を焼いている感じかな。まぁ、実力はあるから頑張ってくれるのは良いんだけど。」
「いいなぁ、お前らは。写真部はまだ新入部員入ってないんだぜ。部員数足りてるからいいんだけど、贅沢な悩みだな。」
二人がそれぞれ話し終えると、真樹は再び口を開く。
「1年生同士で揉めているとも思えないけど、多分人間関係で何かしらの問題があるかもな。そう言う時ほど生活に支障が出やすいから。」
「確かに1年の子達は仲よさそうだったしね。本当に本郷君に何があったのかしら?」
沙崙がそう言うと、慶は深刻な顔で言った。
「だとしたら、外部かな?別の学校行った中学の同級生とのいざこざがまだ終わってないとか。」
「そうなると、ますます難しいな。本人が話してくれるとも限らないし。」
真樹はそう言った。4人が難しい顔をしていると、そこに美緒がやってきた。
「何お昼から暗い顔してんのよ、4人とも。」
そんな美緒の言葉に対し、真樹がぼそっと言った。
「いいよな、菅野は。いつも元気で悩みとかもなさそうだし。」
「ん、どういうこと?」
美緒の問いには杜夫が答える。
「真樹の奴、野球部の新入部員が最近元気無いから、何かあったんじゃないかって悩んでるみたいなんだ。」
「1年が元気ないってこと?もう、そんなのガツンって言ってやんなさいよ。バレー部にも1年何人か入ってきたけど、手抜いたら私も結構檄飛ばすわ!『全力でやんなさい』って。」
美緒が言うと、真樹は真顔で返す。
「パワハラはすんなよ。」
「してないわよ、バカ!」
いつものやり取りを見ながら、慶は切実な感じで話し始めた。
「でも、いざ自分が先輩になると確かに後輩との接し方って難しいよね。優しく接したつもりでも向こうからすれば余計なおせっかいになるかもだし。」
「そうねぇ、どっちにしろこのままじゃチームの士気にもかかわるから、放置はできないんだけど。」
沙崙も悩ましげにそう言った。結局、解決策が見えないままお昼休みは終わったのだった。
5時間目の授業後。次の6時間目が終われば放課後だ。その間の休憩時間、真樹はトイレから出てきたのだが、そのすぐそばにある階段の踊り場で聞き覚えのある声がした。
「だから、まだ授業全部終わってない時に電話してくるなって言っただろ!」
気になった真樹が様子を見てみると、そこには野球部の1年生である本郷がいた。本郷は誰かと電話で話しているようだったが、言葉には苛立ちが垣間見える。
「だから、そんなんじゃないって!何でそう言うこと言うんだよ!」
電話の相手が誰なのかは不明なのだが、真樹はやはり彼が人間関係で何かしらの問題を抱えているのだと確信した。
「え、また?通算で何回目だよ…?そろそろキツイって…。もう、だからさぁ!お願いだからそんなこと言うなって!もうそろそろ授業始まるから切るぞ!」
本郷はそう言って電話を切り、教室に戻ろうとした。そんな彼に真樹は声をかける。
「おい、本郷。」
そう言われて本郷は振り返った。真樹はゆっくりと彼に接近する。
「ゆ、湯川先輩。いつからそこに?」
「トイレから出たら、電話してるお前がいたんだが…。やっぱり、人間関係で悩んでるだろ?」
「ち、違います!そんなんじゃなくて…こ、これは自分の問題なんで何とかします。じゃあ、失礼します。」
本郷はそれだけ言って自分の教室に戻ってしまった。だが、真樹は直感でこれが簡単に解決できるような問題じゃないと察知していたのだった。
おはようございます。
本郷くんが抱えている物は一体何なのでしょうか?
次回もお楽しみに!




